Global Career Guide
元・外資系人事部長、現グローバル人材プロデューサーの鈴木美加子です。
先週の英語でのプレゼンに関する記事が大変好評だったので、グローバルの本社ではなく、シンガポールにあったアジア・パシフィック本部のメンバーが四半期ごとに来日して、カントリーレビューをした時のリハーサル風景を本日はお届けします。
アメリカ人社長は、頭脳明晰、体力・気力・出世欲・スピードともに人並み外れた、アメリカ人とは思えないほどの完璧主義でした。100点なのは当たり前、120点を目指すのが彼流なので、ついたあだ名は Mr. 120。
David(仮名)は、本部長10人を4つのグループに分けました。A) 英語力が足りないとわかっていたけれど、人間関係の難しい部署を任せた日本人部長。ここには一人が該当し、なんとDavid自らが、AさんのためにTOEIC600点くらいの英語を駆使して、20分の原稿を作成し「これを丸暗記しろ、お前にはメリハリとかアイコンタクトとか追加のことは求めないから、とにかく全部覚えろ」と申し渡したそうです。原稿を見せてもらいましたが、すごいですね。Nativeであれだけインテリの人が、英単語のレベルを一貫して下げて書けるのには本当に感心しました。Aさんは、「あなた、うわ言で英語しゃべってるけど、どうしたの?」と奥様に起こされるまで追い込まれるも、丸暗記にいそしみました。
Group B) は、英語に少し自信がないか、プレゼン慣れしてない日本人部長が当てはまります。Davidがパワポのスライドを全てチェックし、話す内容と言葉も一通り全部彼が確認します。「そこでつっかえるから、この単語にしろ」とか細かい指示が飛んだそうです。
Group C) は、英語にもプレゼンにもそこそこ慣れている日本人部長が当てはまります。私はこのグループ所属でした。Davidがパワポをチェックしてくれ、あとは振り付けです。「ミッキー、そこまで来たら、この間社員に配布したリーフレットを拡大したものを、向かって右側の柱に貼って、そこにレーザーポインターを当てろ」「拡大って、B4ですか?」「バカ、座ってる観客からB4で見えるか。マーケティングに頼んで、ポスター大のものを至急作ってもらえ。」「予算は?」「いくらでもいい」「私の心の声 : 出ました! いつもはコスト、コストなのに、グローバル本社かアジアパシフィック本部にアピールする時だけ、予算なしになる得意技。私の公のお返事:わかりました」
さてさて、レーザーポインターを柱に当てる練習です。マジです。「そんな、年寄りの魔法使いが杖振ってるようなことをするな。もっとドラマティックにやれ」「は、はい」3回ほど、ポインターを降り、これ以上やったらスターウォーズの世界突入の寸前でOKが出ました。私が、英語圏でのプレゼンはパフォーマンスだと思っているのは、Davidとの数々のやり取りから来ています。
グループ D) イギリス人とスコットランド人が当てはまりました。二人ともブーブー文句言ってましたが、スコットランド人は、訛りは置いといて、モグモグ話す癖があるので必ずしもプレゼンは上手とは言えず、英語ができる=プレゼンが上手は真実ではないの典型例でした。イギリス人は、プレゼンはかなり得意だったので、何を直す必要があったのかはわかりません。
こうして個別演習が終わったら、通しでリハーサルです、一人20分で本部長は9人いたので、180分つまりは3時間の通し稽古です。誰がどこに座り、バトンタッチする時、どっちがどちら側から出て次のプレゼンターはどう舞台に上がるかまでみっちりお稽古です。私は人事なのでふと「3時間も練習に費やしてるけど、このメンバー全員の時給合わせたらいくらになるかな?」なんて、不遜なことを考えてしまいました。こう言う時に話せるのは、経理部長しかいないので、そばに寄って行ったら彼も同じことを考えて計算しようとしてたとわかり大笑い。「俺たち、こんなことしてていいのか」「まぁ、Davidがやれっていうんだからしょうがないでしょう」とやり取りして、自分の番が来るまで見学してました。
無事に通し稽古が終わり、やれやれと思ったら、「前の日にもう一度やるから、14:00に集まれ」との仰せです。マジですか? もう一回全員でやるんですか? まぁ、社長の仰せなら仕方ありません。
こうして迎える本番は、いつもそれは素晴らしい「舞台」でした。シンガポールのヘッドに、”Japan team is great. David is an excellent leader.”とか言われて、「単純だよね」と苦笑。まぁ、みんなの努力が報われたのは、良かったです。
四半期ごとにこれを繰り返すこと、1年3か月、ある四半期、外的要因でさすがのDavidもターゲットを落とすという事態が発生しました。どうなったか? お目こぼしをもらいました。「日本はいつも非常によくやっている、たまにこういうことがあるのはしょうがない。但し、来期、このようなことがないように」で許されました。あーなるほどね、こういう時のために、「プレゼン稽古」狂想曲は奏でる必要があるんだなと理解しました。
当時はついていくのが大変でしたが、Davidの部下だった時が一番たくさんのことを学び、仕事のクオリティにこだわる必要性も理解したような気がします。Nativeの本部長でさえ、英語でのプレゼンテーションのリハーサルが必要なら、英語が外国語の私たちがぶっつけ本番でいいわけはありません。次回、登壇する機会があったら念入りに準備してください。英語圏でプレゼンテーション力は必須のビジネス・スキルです。あなたの仕事のレベルを決められてしまうことを、どうか忘れないでください。
グローバル・キャリア・カウンセラー /(株)AT Globe 代表取締役
日本GEの人事でキャリアをスタートさせ、モルガン・スタンレー、イートンのアジア・パシフィック本部などを経て、日本DHLの人事本部長に就任。1万人を面接した自身の転職経験と英語や異文化と格闘した体験を元に、外資への転職を希望する方・外資でキャリア・アップしたい方を全力でサポート。
英検1級、TOEIC960点。iU情報経営イノベーション大学・客員教授。ルミナスパーク・リーダー認定講師、STAR面接技法・認定講師、ホフステード異文化モデル公認講師
NY生まれでオーストラリア居住経験あり。映画とコーヒーが大好き。
著書「やっぱり外資系がいい人のAtoZ」(青春出版社)
「英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業出版社)
強みを活かし個の力を最大限に発揮できるグローバル人材を、一人でも増やすことで母国の発展に寄与することをミッションとする。 企業向けには異文化理解・海外赴任前研修を、個人向けには外資への転職サポートを提供。