Global Career Guide
元・外資系人事部長、現グローバル人材プロデューサーの鈴木美加子です。今日は、外資系で必要になる想定外に対応する力をテーマにします。
連休に、専門性があり英語も問題ない方とキャリア相談しましたが、外資に向いていないように思えました。「リスクを取りたくない気持ちが非常に強い」「慎重」「前例が知りたい」タイプです。職種によって程度は変わりますが、外資が求める最低限の想定外対応力を持っていないとお見受けしたのです。
前もって予測できない事態に対処することは得意ですか? 答えがNOの場合、程度によっては適している職場は日本企業かもしれません。
そもそも想定外対応力とは何でしょうか?
外資系の人事に25年勤務した中で、様々な「想定外」を見てきました。実例をあげます。米系IT企業に勤めていた時のことです。第1四半期、イケイケどんどんで採用していました。第2四半期が始まった途端に採用凍結になりました。ここまでは外資では良くある話です。採用凍結は、会社の経営状態が思わしくないなどの理由で、固定費である人件費を増やさないことが目的です。転職市場に漏れると、経営状況が良くないことがわかってしまいますので、なるべくゆっくりお断りをするなどの方法を取りました。
ところが第3四半期になったら、再び採用して良いになりました。私の人事史上初めての経験です。「これはおかしいな」とピンと来ましたが、とりあえず責任を果たすしかないので、大変失礼ながら一度お断りした候補者に再びお声がけするよう頼み、採用活動を再開しました。
そして迎えた第4四半期、再び採用凍結。異例の事態です。怒っていても仕方ないので、その路線で対処しながら個人的には覚悟しました。それから10ヵ月後、全ての海外法人が閉鎖になりました。
上記の例は極端で、同じようなことが日々起きるわけではないので安心してください。ただ外資は、物事をスタートさせる前に考え抜いてプロジェクトを立ち上げるのではなく、見切り発車して、走りながら考え方向転換する必要があったら途中で転換する経営スタイルです。進むスピードは早いですが、変化が多く、日々の生活に波風が立たないことを願うのは無理です。
現実の職場のお話をしたので、理論も少し。ホフステード異文化モデルの指標の一つUAI(Uncertainty Avoidance Index=不確実性回避)について、説明します。
UAIは将来が不確定であること、予想できない状態を避けたいと思うかどうかを測る指数です。簡単に言うと「石橋を叩いて渡りたいか」どうかになります。
UAIのスコアが高い国は、不確実を回避して石橋をたくさん叩くので、「専門家を信頼する。フレームワークがあることを好む。安心できることが重要。ストレス度が高い」です。
UAIのスコアが低い国は、とりあえずやってみようと石橋を叩かないで飛べるので、「専門度が高くなくてもOK。フレームワークや前例を必要としない。リスクを取る。ストレス度が低い」です。
次にUAIが、職場でどのような影響をもたらすかを見てみましょう。例えば、プロジェクトを始める時、UAIが高い国は不測の事態が起きることを避けようとするので、スケジュールをきちっと決め、リソースの配分に問題がないかなど、プランニングにかなりのエネルギーを費やします。結果として、プロジェクトは立ち上がるのに非常に時間がかかりますが、一回立ち上がってしまうと、ほぼすべてのことが決まっているので、目覚ましいスピードで進むことになります。踊り場が長く、そこからは直線で立ち上がるわけです。
UAIが低い国は、「とりあえずやってみよう」精神でプロジェクトに取りかかります。細部まで詰めないでスタートしているので、途中で微調整や再考が必要になり、プロジェクトは階段状に進んでいきます。
外資系の親会社に多そうな国のUAIスコアを見てみましょう。1~100で数字が高いほど石橋を叩きたいことを意味し、低ければ叩かないでも渡れる傾向にあります。アメリカ46、イギリス35、ドイツ65、 フランス86などになります。アジアに目を移すと、中国30、シンガポール8、韓国85、マレーシア36、インド40などになります。一概に欧米だから、アジアだからと一括りにできないことがわかります。
肝心の日本のスコアですが、いくつぐらいだと思いますか?
日本のスコアは92です。世界でもかなり高い方に入ります。
先ほど、UAIが高い国でプロジェクトを進める場合どうなるかをお話しましたが、まさに日本そのものという気がしませんか? 不確実を避けるため、緻密にプランニングする。想定外である「不良品」を排除することを目指して改善を続ける。高水準の安全を担保しようとする。前例のないことには手を出さないなど、一般論で言うとUAIが高いことを表しています。もちろん個人差は存在するので、日本人UAIが低い人もいることをつけ加えておきます。
日本の慎重さは素晴らしいところもありますが、グローバルビジネスにおいては、予測不可能なことが多々起きるので、石橋を叩きすぎると、ビジネスチャンスが失われることもあります。何より、ビジネスをしている相手の国のUAI度を理解し少しは合わせる努力、もしくは日本流の良さを説明できる英語力と論理力を持ちたいものです。何より外資に転職すると決めたら、想定外を楽しんで逞しく乗り切ってください。
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グローバル・キャリア・カウンセラー /(株)AT Globe 代表取締役
日本GEの人事でキャリアをスタートさせ、モルガン・スタンレー、イートンのアジア・パシフィック本部などを経て、日本DHLの人事本部長に就任。1万人を面接した自身の転職経験と英語や異文化と格闘した体験を元に、外資への転職を希望する方・外資でキャリア・アップしたい方を全力でサポート。
英検1級、TOEIC960点。iU情報経営イノベーション大学・客員教授。ルミナスパーク・リーダー認定講師、STAR面接技法・認定講師、ホフステード異文化モデル公認講師
NY生まれでオーストラリア居住経験あり。映画とコーヒーが大好き。
著書「やっぱり外資系がいい人のAtoZ」(青春出版社)
「英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業出版社)
強みを活かし個の力を最大限に発揮できるグローバル人材を、一人でも増やすことで母国の発展に寄与することをミッションとする。 企業向けには異文化理解・海外赴任前研修を、個人向けには外資への転職サポートを提供。