Global Career Guide
元・外資系人事部長、現グローバル・キャリア・カウンセラーの鈴木美加子です。本日は、人事がいない外資系の日本法人に勤めていたら、解雇予告が突然アジア・パシフィック本部から届いたという知り合いの話を紹介します。
週末、知り合いから相談を受けました。彼女が勤める日本法人には人事部がなく、外資に多いマトリックス組織のため上司は二人という体制です。上司の一人は経理部のアジア・パシフィックのトップでインド人、もう一人は日本法人の社長で日本人です。1か月前に入社して引き継ぎがないまま仕事を始め、やり方がかなり手作業なのに驚きましたし、効率が悪くて時間がとてもかかるので残業続きで参っていました。これまでの職場なら、ソフトにやらせる集計を手入力させるなど、とにかく非効率的な職場です。
先週の金曜日、突然、アジア・パシフィックの上司から英語でWarning Letter(警告)がメールで届きました。レポートなどの締め切りが守られていないこと、風邪が悪化して海外での研修に参加できなかったことを、理由を事前に伝えてあったにも関わらず怠慢だとされ、このようなことが続くと会社はさらなる手段を取る、その中に解雇も含まれると書いてあります。彼女は「改善します」のサインをするように求められています。
本人は、語調の強さからこのまま解雇に進むのではないかと怯えていました。警告レターをよく読んで明らかなことは、日本の労働基準法を全く理解していない、人事ではない人が弁護士に相談しないで書いていることでした。日本では試用期間中でも2週間過ぎている社員には、1か月の事前通告もしくはそれに替わる1か月分の給与の支給が必要で、一方的に解雇することはできません。
どこの国の人事でも、まともであれば、この状況で一方的にメールを送りつけることはしないでしょう。少なくともビデオ電話なりオンラインなり、相手の顔が見える状況でまずは話し合いの場を持つと思います。
彼女が労働法に詳しい英語ができる弁護士を雇って戦えば、勝てる確率はかなり高いです。ただ、それは得策でしょうか? 裁判となれば長期化し、莫大な費用と労力がかかります。彼女自身にこの会社で働き続ける意志がすでに全くないことも、解決の上で重要ポイントです。
私が彼女にしたアドバイスは、まずは日本での雇用ルールをわかりやすく相手に伝え、労働法をわかっている社員だという印象を持たせ、簡単に解雇できないと警戒させること。時間を稼いでいる間に、次の転職先を早く見つけることでした。
「外資系はどこもこんなに簡単に解雇しようとするのか」と誤解されてしまうのは本意ではありません。この会社はかなり非常識です。実は彼女の転職の際、私はこの会社に入社することに反対しました。3つの理由の一つが、「日本法人に人事部がない」でした。
人事は、売り上げに直接貢献する部署ではありません。50名以下の会社で人事部があるのは、
a) 社長が立ち上げの時、採用する人材の質を良くするため専門家の人事から入れて採用を任せた か、
b) ある程度、組織がしっかりして必要な部署の人員は揃ってきた。傍で人にまつわる問題も生じるようになったので人事を置くことにした。人事の人件費を賄うだけの余裕が会社にある のどちらかなのです。人事部が存在しないこと自体が、組織の状況を如実に表していてリスキーです。
入社前に会社の評価を知りたい時は、オープンワーク(http://vorkers.com) が役に立ちます。個々の上司との折り合いなど数値化できないものは出ていませんが、会社の「待遇面の満足度」「人事評価の適正感」「社員の士気」「人材の長期育成」など8項目が数字でグラフになっています。また、「組織体制・企業文化」「働きがい・成長」「ワークライフバランス」「女性の働きやすさ」など、コメントを寄せられる欄も多く、よく読むと組織の実情が浮き彫りになります。
転職を繰り返さないように、入社の時はよく調べてください。理不尽な扱いをされていると感じたら、人事や労働法に詳しい人に必ず聞くことをお勧めします。
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グローバル・キャリア・カウンセラー /(株)AT Globe 代表取締役
日本GEの人事でキャリアをスタートさせ、モルガン・スタンレー、イートンのアジア・パシフィック本部などを経て、日本DHLの人事本部長に就任。1万人を面接した自身の転職経験と英語や異文化と格闘した体験を元に、外資への転職を希望する方・外資でキャリア・アップしたい方を全力でサポート。
英検1級、TOEIC960点。iU情報経営イノベーション大学・客員教授。ルミナスパーク・リーダー認定講師、STAR面接技法・認定講師、ホフステード異文化モデル公認講師
NY生まれでオーストラリア居住経験あり。映画とコーヒーが大好き。
著書「やっぱり外資系がいい人のAtoZ」(青春出版社)
「英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業出版社)
強みを活かし個の力を最大限に発揮できるグローバル人材を、一人でも増やすことで母国の発展に寄与することをミッションとする。 企業向けには異文化理解・海外赴任前研修を、個人向けには外資への転職サポートを提供。