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先週は、ホームレスの移民によるパリの劇場の不法占拠が3ヵ月続いているという話が世界的なニュースになりました。これは、元々、12月に左派支持で知られる劇場が、移民のための会議に(主に10代の西アフリカ)移民の団体を招いたことが発端で、そのまま250人ほどが住みついてしまいました。彼らは、滞在許可や教育を受ける権利を求めて居座っており、その数は、今では450人にまで膨れ上がっています。2月には、裁判所が今月12日までの退去命令を出しましたが、不法占拠は続いています。
劇場内は不衛生な状況になっており、占拠で営業もできないため、スタッフに給与を支払うこともできず、また周辺の店舗も商売あがったりで、廃業の危機に迫っているということです。
アメリカでも、不法移民の大量強制送還(mass deportation)を推し進めようとするトランプ政権の政策に対し、米各地で抗議デモが起こっていますが、メキシコの国旗を降っている人たちも少なくありません(日ごろから、メキシコ移民の多い州ではメキシコの国旗を掲げている家庭は珍しくない)。とくに不法移民(illegal immigrant)の場合、「アメリカに住みたい」「アメリカでの滞在を認めてほしい」というのなら、ウソでもアメリカの国旗を掲げないものかと不思議に思います。*
大量の強制送還は、実際に実施することは難しく、大して進んでいません(バイデン政権下の方が強制送還数は多かった)。そこで、トランプ政権は、不法移民らに”self-deportation”(自主退去)を促す方針に転換し、2億ドルを投じてテレビやソーシャルメディアで”Stay Out and Leave Now”という広告を打ち出しています。** また、退去の自己申告ができるアプリも展開しています。
移民に関しては、多くの国で意見が真っ二つに分かれており、国を分断する事態になっています。先月、総選挙のあったドイツですが、AfD(ドイツのための選択肢党)の掲げる政策に”border control”があると書きました。「国境管理」という意味の”border control”自体は中立(neutral)ですが、「国境管理の厳格化」=「移民規制」=「反移民(anti-immigration)」のレッテルを貼られる傾向にあります。(AfD自身、「移民規制」の意味で使っているが。)
シュンゲン圏内は、国家間を自由に移動できることになっていますが、ドイツやオランダのように、最近、国境で出入国管理(パスポートチェック)を行う国が出てきています。
More voters believe border controls need to be tightened.
(国境管理の厳格化が必要だと考える有権者が増えている。)
The party is pushing for stricter border controls.
(その政党は、国境管理の厳格化を推し進めている。)
In December, Netherlands introduced land border control until June 2025.
(12月に、オランダは、2025年6月まで限定で、陸路での出入国管理を開始した。)
In Germany, border controls are in place with all neighboring Schengen countries.
(ドイツでは、シュンゲン圏の近隣諸国すべてとの国境で出入国管理を行っている。)
日本では、今回のドイツの選挙は「反移民を掲げた保守の勝利」という人たちがいますが、実態を見ると、CDU(ドイツキリスト教民主同盟)が、それほど移民対策をしようとしているようには思えません。
昨年から今年にかけて相次いだ難民などによる殺傷事件で、移民規制を求める世論が高まる中、AfDに票が流れるのを恐れたCDUが、1月に移民を規制する動議(motion)を議会に提出したのですが、AfDの協力を得て3票の差で可決されました。ところが、CDU党内で投票棄権に回る議員が出たため、結局、否決されたのです。
なお、「AfDの動議への支持は求めないが、支持するのであれば受け入れる」と発言したメルツ党首は”極右”とは組まないという「防火壁(firewall)」を破ったことでSPD(ドイツ社会民主党)だけでなく、(移民政策を推進した)メルケル元首相からも「AfDとの協力は間違っている」という批判を受けました。
現在、CDUは、SPDとの連立政権樹立に向けて協議していますが、移民推進派(pro-immigrant)といわれるSPDでは、さらに多くの外国人就労者の確保やドイツ国籍取得条件のさらなる緩和など移民推進政策を連立の条件としているので、移民規制は進みそうにありません。
”Border control”を一番打ち出しているのがAfDですが、”remigration”を推し進めようとしているとドイツだけでなく、ヨーロッパ各国から批判を受けており、同党が”極右”と呼ばれる一因です。
”Remigration”(re+migration 再移住)”とは、「移民が元の国に帰る」という意味ので昔から存在します。元々、ラテン語で「家に帰る」という意味で、アカデミアの世界でも「移民が自ら自国に帰る」という意味で使われてきました。
しかし、近年、ヨーロッパを中心に、とくに移民排斥派によって「移民を元の国に送り返す」という意味で使われており、「強制送還を婉曲的に表現するものだ」という批判もあります。
”Remigration”には、移民が自ら母国に帰るのを促すといった考えから、ヨーロッパ生まれの移民二世までも強制送還するといった極端な意見まであります。ユダヤ系というだけで、自国民も排斥したナチの過去があるドイツでは、非常にデリケート(sensitive)なテーマなのです。(第二次世界大戦中に、財産を没収され、強制収容所に収容された日系アメリカ人も同様だが。)
* 欧米では「不法移民の強制送還」を打ち立てても「反移民」のレッテル。日本で「他の国は不法移民を強制送還しているのに、日本は甘い」とか言っている人がいるのには驚き。アメリカでは、2021年ごろから、事実上、メキシコとの国境は開放状態で、中南米から移民が押し寄せ、”border crisis”が起こっていた(ことも知らない人たち?)もちろん、入国審査などしていないので、犯罪者も入国。アメリカ在住の不法移民は1800万人以上と言われており、近所に不法移民が住んでいるのは普通にあること。10年ほど前に、テキサス州が不法移民の取り締まりをした際、一夜にして飲食店からヒスパニック系の従業員が消え、行きつけのベトナム料理店でも、ベトナム人オーナー夫婦が自ら調理していた。建設業界も、不法移民なしでは成り立たない。
** “Leave now. If you don’t, we will find you and we will deport you. And you will never return.”(今すぐ、退去しなさい。さもなければ、見つけて強制送還します。そうすれば、二度と戻って来れません。)自主退去すれば、将来、合法的に入国が可能。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。