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和製英語ネタは、まだまだあるのですが、ここでいったん中断し、時事ネタを少々。
先週、京都の小さなホテルが、イスラエルからの観光客が予約を拒否したため、在日イスラエル大使館から抗議を受け、京都市が行政指導を行なっていたことが発覚し、日本国内でニュースになりましたね。「国際的に恥ずかしい」(日本人的反応)という日本人もいますが、海外では、イスラエルやアメリカの親ユダヤ系メディアでしか報道されていません。
宿泊拒否をしたのがブラジル人マネージャーということで、予約をしようとした人に対して送られた英語での宿泊拒否のメールがネット上(Arab News)に掲載されています。主旨は「イスラエル軍関係者によって戦争犯罪が行なわれた可能性があるとの報告があるため、イスラエル軍と関係がある恐れのある人からの予約は受け付けられない。宿泊させると、戦後、戦争犯罪で起訴された際に、当方も共犯・従犯と見なされる恐れがあるため」。
…we’re sorry to inform you that due to reports of possible war crimes being committed by IDF members in conflict taking place in Gaza between Israel and Palestine, we are not able to accept reservations from persons we believe might have ties to the Israel Army. Offering lodging persons who might have assisting in the execution of warfare activities forbidden by international humanitarian law based on the Geneva Conventions and their Additional Protocols could put us at risk of being considered accomplices and/or accessories to a person who could be facing prosecution for war crimes as soon as the conflict is over. |
なお、ブラジルの大統領はイスラエルのガザ侵攻をホロコーストになぞらえて批判したことから両国の関係は悪化しており、先月、駐イスラエル大使を召喚しています。(ブラジルだけではないが。)
一方、モルディブの議会では、今月10日に、イスラエルのパスポート所有者(他国との二重国籍者を含む)の入国を禁止する法案が満場一致で通過しました。(※1)
日本では、ほとんど報道されていないようですが、日本の宿泊拒否よりも、国際的に大きなニュースになっています。
しかし、イスラエルのパスポートを所有するアラブ系・パレスチナ系住民もいることから(イスラエル国民の18%ほどはイスラム教徒)、イスラエルのパスポート所有者の入国を一律に禁止するわけにはいかないという慎重論も出てきており、実際に法制化されるかどうかは、まだ不明です。
モルディブでは、観光業がGDPの3割近くを占め、雇用の7割を担っているため、当然、リゾート運営者からは反対の声が上がっています。ただし、モルディブを訪問するイスラエル人観光客は全体の0.6%未満で、2023年には1万人強だったので、直接的な影響はほぼなさそうです。
なお、モルディブには、2023年、人口の3倍以上にのぼる史上最高の188万人の観光客が訪れました。一番多いのはインドからで、次いでロシア、中国、イギリス、イタリア、ドイツです。(なお、日本からの観光客は、今年4月だけで3000人近くで、昨年に比べ急増。)
私が1月にモルディブを訪れた際には、モルディブの国旗をはるかに上回る数パレスチナの国旗があちこちに掲げられていました。(リゾート島ではなく、地元民が住むローカル島の話。)
モルディブは国民のほぼ100%がスンニ派で、パレスチナもイスラム教徒のほとんどがスンニ派です。以前からパレスチナシンパが多く、イスラエル人の入国禁止は、何ヵ月も前から市民が抗議デモを行うなどして求めてきたものです。
1988年に、多くのイスラム教国が、社会主義諸国と並んで、パレスチナを国家として認めましたが、モルディブも、そのひとつでした。先月の国連総会で、パレスチナの国連加盟を支持する決議案の採決が行われ、採択されましたが、アラブ諸国と共同でモルディブも発議(sponsor)に加わりました。
モルディブでは、毎年、パレスチナ難民のためにUNRWA (国連パレスチナ難民救済事業機関 )に寄付してきましたが、今年、寄付額を10倍に増やしています。また、今月には、パレスチナとの連帯をスローガンにテレソン(telethon)を行ない、全国規模で募金集めを行いました。
一方、イスラエル人入国拒否法案が通過した後すぐに、アメリカのユダヤ系民主党議員が、その法制化とともに、モルディブへの支援(2019~2023年の4年で3600万ドル)を打ち切るという議案を提出しました。(※2)
同議員は、昨年からアメリカ各地の大学でのパレスチナ支持や停戦を求める抗議活動に反対し、パレスチナ関連のセミナーなどを阻止しようとしたり、学長に辞任を迫るなどしているイスラエルシンパです。 先月5月に下院を通過した、パレスチナ支持運動の取り締まりを強化する「反ユダヤ主義啓発法 (Antisemitism Awareness Act)」は、同議員が提出したものです。(※3)
なお、昨年、ハーバードをはじめ、学生が抗議活動を行なう大学の学長らが「各大学で反ユダヤ主義が台頭している」と議会に召致され、詰問されました。先月、ハーバードでは、抗議キャンプに参加した学生の卒業を認めないと発表しており、先月から今月にかけ、UCLAやコロンビアでは、抗議活動をする学生らが逮捕されています。
(※1) 昨年時点で、28ヵ国がイスラエルを国として承認しておらず、マレーシアを含む17ヵ国がイスラエルのパスポート所有者の入国を禁止している。
(※2) ユダヤ教とルーツが同じことから、敬虔なキリスト教の多い共和党支持者の方がイスラエルを支持する傾向にあるが、昔からアメリカのユダヤ教徒は民主党支持者。米議会ではイスラエルロビーが強力で、これまでパレスチナ支持を公言するのはタブーだった。学生がパレスチナ支持で抗議活動をできるなどとは考えられなかった。
(※3) イスラエルを非難しなくても、パレスチナに同情するだけで「親パレスチナ(pro-Palestine)」ではなく「反ユダヤ主義(antisemitic}のレッテルを貼られる。上述の議員は、「反シオニストも反ユダヤ主義」と主張。アメリカの超正統派ユダヤ教ラビ(rabi)には、国粋的民族主義かつイスラエル建国支持のシオニズム(Zionism)に反対する人たちもいる。
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大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。