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アメリカの学生ビザ取り消し — 魔女狩り

アメリカでは、今週末も各地で反トランプ抗議デモが起こりました。抗議対象には移民の権利や言論の自由があります。

コロンビア大学でパレスチナ支持活動に参加していた大学院生らが3月末に逮捕されましたが、今も拘留が続いています。永住権保有の学生でさえも、移民局(ICE)が永住権をはく奪して強制送還しようとする中、合法移民の権利や言論の自由をめぐり、多くの団体や弁護士によって、各地の連邦裁判所で数々の訴訟が繰り広げられています。*

やはりコロンビア大学での抗議デモで逮捕された永住権所持の韓国人学生は、法廷で拘留および強制送還の一時差し止めを勝ち取っています。なお、この学生と上記の主導的立場の大学院生が、(超親イスラエル派の)ルビオ国務長官によって「これら異邦人(aliens)の存在はアメリカの外交に悪影響を与え得る」として名指しでターゲットにされた書簡が法廷で開示されています。

他にも、(フルブライド奨学生の)トルコ人博士課程学生や(交換訪問者用)Jビザ・博士号保有のインド人講師・研究者(fellow)が抑留されたたままで、イギリス籍のコーネル大学の博士課程の学生は、自主的にアメリカを離れました。

国土安全保障省(DHS)は、AIを使ってソーシャルメディアも検索しており、パレスチナを擁護するような投稿をすると「テロリスト(ハマス)支援」と見なされ、ビザや永住権がはく奪される恐れがあるということです。(下記では、学生ビザ保有者の軽犯罪を含む犯罪歴もAIで検索)

過去のスピード違反でも学生ビザ取り消し

当初、在留資格を取り消されるのは、こうしたパレスチナ支援活動に関わっていた学生だったのですが、今月に入り、そうでない留学生も学生ビザを取り消されるケースが続出しています。

今では、全米240校以上で、OPT(Optional Practical Training)で就労中の卒業生を含め、1400人(4700人以上という説も)が学生ビザを取り消されています。ハーバードやスタンフォードなどの有名私立大学(ノースウエスタンでは40人以上)だけでなく、州立大学でも起こっており、UCバークレーでは20人以上、CSU(California State Univ)全体では70人以上がビザを取り消されているそうです。この中には、自国政府の国費留学生(つまり非常に優秀な学生)も含まれています。

ビザ取り消しの理由には、何年も前のスピード違反のチケットや友人との喧嘩などの微罪(軽犯罪)も含まれ、起訴はもちろんのこと、逮捕もされていないケースもあります。

5月の卒業を前に、今月、ビザを取り消されて卒業ができないという留学生もおり、卒業一ヵ月前に、人生を狂わされるわけです。(卒業後は、どうせ帰国したかもしれないのに)

日本人大学院生も

日本人留学生にもビザを取り消された人が出ています。あと一年で博士過程を終える予定の人が、今月、4月末までに(つまり2週間以内に)アメリカから退去するように命じられたということです。政治的な活動はしたことがなく、犯罪歴といえば、6年前のスピード違反チケットと釣りで(catch and release)の違反(それも取り消された)くらいだそうです。

この方には5人のお子さんがいて(そのうち二人はアメリカ生まれ)、子供の学校もあり、一家7人、2週間で国外引っ越しというのは不可能に近い… 結局、AI検索による間違いだったようで、ビザの取り消しは取り消されましたが、弁護士を雇って法廷で争わないといけないので、学生にとっては大きな負担です。(弁護士を雇えない学生は、泣く泣く自主退去するのか、無料で支援してくれる非営利団体があるのか。)

大学も蚊帳の外

通常、留学生のビザが取り消された場合、在籍する大学に連絡が行くのですが、今回、大学に通知されることはなく、各大学は、学生ビザ保有者データベースで検索をして自校の留学生のビザが取り消されたことを知る次第だそうです。

一時帰国は危険

移民専門弁護士らは、留学生にはいったん出国すると再入国できない恐れがあるので、できるだけ出国しないようにと警告しています。親が病気になったり、友達の結婚式に出席するために一時帰国するつもりだったのを取りやめたという留学生もいます。

司法救済

学生ビザを取り消され、法的手続きなく国外退去を命じられた留学生や、在籍する大学によって、全米各地では訴訟も相次いでおり、連邦裁判所がビザ取り消しの一時停止を命じる判決も出ています。

永住権保有者も

最近、永住権保有者でも、再入国の際に拘束されるケースが出ています。10年以上前の軽犯罪(大麻所持)で拘束されたドイツ人や、(罰金支払済みの何十年も前の横領罪)の在米50年のフィリピン人などが、一時帰国から戻った際に空港で拘束され、1ヵ月以上も拘束されたままです。**

永住権保有者に対しても、軽犯罪(misdemeanor)であっても犯罪歴のある人は出国しないように弁護士らは呼びかけています。

税金の無駄使い

元々、トランプ大統領の公約は、1800万人以上という不法移民の摘発であったはずです。それが、いつの間にか、合法的に入国した人たち(それも、将来アメリカ経済に貢献しそうな有能な人たち)がターゲットとなり、魔女狩りのようになっています。

前政権下で、何の審査もなく大量に入国した不法移民には、ギャングのメンバーもいれば、犯罪歴のある人もいます。一方、学生ビザを取得するには面倒な手続きを経ねばならず、留学中に必要な学費・生活資金の証明はもちろんのこと、大使館・領事館での面接が必要とされるのです。(アメリカのイメージを損なう)不必要な摘発のために、不法移民の摘発に割かれるべき人員や経費が無駄に費やされているわけです。

今年に入り、すでにアメリカを目指す留学生、とくに大学院生が減っていますが、アメリカ人学生が減った分(10年で10%減)、穴埋めをしてきたのが留学生で、大学や地域経済にとって打撃となるでしょう。留学生の米経済への貢献額は500億ドルと言われ、高等教育は米第10位の輸出産業なのです。

* 覆面をした移民局の職員が、突然、自宅に現れて、令状もなしに無印の車で連れ去る。ゲシュタポ並み?
** 私はアメリカで賃貸経営を20年以上行っており、入居審査で賃貸応募者の犯罪歴もチェックするが、昔々の大麻所持(やスピード違反)で落としていたら、貸す人がいなくなる!

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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