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タカシの外資系物語

外資における間接部門の評価 ( その 2 ) : 人事部採用部門編2007.04.24

VOC ( Voice of Customer ) の重要性

( 前回の続き ) 前回のコラムでは、お客様との直接の接点がない外資系企業の間接部門では、内部社員を「顧客」とみなすことによって、その成果・評判等を評価指標としているお話をしました。よって、外資系企業のシステム部門やヘルプデスクなどでは、どれだけ迅速にトラブル対応をしてくれたか、対応は満足のいくものであったか、など「顧客の声 ( VOC: Voice of Customer ) 」をアンケート等で集めることで社員の間接部門に対する満足度をはかっています。 


ここで、「顧客の声( VOC: Voice of Customer ) 」について、少し説明をしておきましょう。 VOC というのは、「シックスシグマ」 ( ※ ) という経営品質管理手法に出てくる重要な観点です ( ※シックスシグマについては、話し出すと長くなるので、今度あらためてお話しますね )。シックスシグマでは、「顧客満足度の向上なしに企業の発展はありえない ! 」という考え方のもと、アンケートや苦情・市場調査などから VOC を抽出し、顧客満足を最大化するプロセスやシステムを設計・開発・運用していきます。 


私は外資系コンサルティング会社において、企業向けにコンサルティングを行っている関係上、シックスシグマや VOC という考え方を、日常的に使っています。例えば、システムの要件を決める際にも、 VOC は非常に役立ちます。システムの「あるべきモデル ( To-Be Model ) 」を作るためには、まずは、その基準となる考え方が必要です。では、一体何が満たされていれば、そのモデルは「あるべき姿」と言えるのでしょうか ? 


満たされるべき基準というのは、以下のようなものが想定できます。 

 

1) スピードが速い 

2) ミスがなくなる 

3) 24 時間いつでも注文することができる 

4) マイレージのようなポイントが豊富につく 等々 ・・・

 

以上のような要件が、すべて満たされれば問題はないのですが、それは非常に難しい問題です。少し考えればわかりますが、( 1 ) と ( 2 ) というのは、現実にはトレードオフの関係にあります。もちろん、 ( 1 ) と ( 2 ) を最大限に実現するシステムを作るのが理想ですが、全てを 100% 実現するのは不可能です。そんなときに役立つのが、 VOC です。今、お客様が最も欲しているのは何か ?   24 時間注文できなくてもいいから、とにかく速い処理を期待しているのか ?  処理は速くなくてもいいから、マイレージがたくさん付くほうがいいのか ?  等々 ・・・ 企業が取り組むべきは、 VOC を最大限に高める経営戦略や業務プロセスの実現のはずです。このように、 VOC をベースに「あるべき姿」を作り上げていくというのは、システム開発だけでなく、企業経営においても、基本的な考え方となっているわけです。

採用担当ナオコの悩み

さて、以上のような VOC を重視する経営を、間接部門にも適用するというのは、何となくうまくいきそうな気がしますよね。私も基本的には、それで OK だと思います。しかし、相手が社員の場合には、気をつけなければならない点があるのです。 

  
トゥルルルルー、トゥルルルルー ・・・ 

  
「はい、タカシですが ? 」 

  
「あ、タカシさんでいらっしゃいますか ? 人事部採用のナオコです ・・・ 」 

  
採用担当のナオコさんです。ここ最近、わが金融コンサル部門では、積極的な中途採用を行っており、ナオコさんは金融部門の中途採用を専門に対応してもらっています。 

  
ナオコ 「本日19時より予定いただいております、○○社の△△さんの中途採用面接についてですが、部屋は New York でお願いいたします」 

  
New York というのは、会議室の名称です。わが社では、来客用会議室に、世界の都市名をつけています。会議室に都市名をつけるのは、外資系企業でよく使う手でして、そう言えば前職の会社でもそうでした。(『今日の会議はどこですか ? 』 参照のこと )


  
「会議室予約システム」を見ると、確かに New York に私の名前で予約が入っています。ふと、隣の会議室を見ると、同僚のマネージャー M の名前、その隣も同僚の名前 ・・・ 

  
私 「あれ ? 今日って、金融部門の中途採用面接ラッシュじゃないですか ! 全部で 4 件か ・・・ 景気いいですね ? 」 
  
ナオコ 「はぁ ・・・ まぁ ・・・ 」 

・・・ あれ ? なんか元気ないなぁ、ま、いっか・・・ 

  
そんなこんなで、時計の針は 20:00 を少し回ったところ。私は○○社の△△さんの中途採用面接を終え、その評価シートを書いて、ナオコさんに送りました。ふと、社内のチャットシステムを見ると、ナオコさんがオンラインで仕事をしています ( わが社のチャットシステムは、だれがオンラインでネットワークに入っているか = つまり、 PC を立ち上げて仕事をしているか、わかる仕組みになっています)。私は念のため、評価シートを送ったことをナオコさんに連絡するため、電話することにしました。 

  
私 「あ、もしもし、タカシです。今、△△さんの評価シート送りましたから。今日は金融で 4 件も面接があったから、評価シートが 4 枚も来ますね ! 大変だぁ ・・・ 徹夜でしょう ? 」 

ナオコ 「は、はぁ ・・・ それが、タカシさんのしか来ないと思います ・・・ 」 
  
私 「は ? だって、評価シートは、原則、面接者がその日のうちに人事部に送付するんじゃなかったでしたっけ ? 」 
  
ナオコ 「いや、あくまでも “原則” ですから ・・・ みなさんお忙しいようなので ・・・ 」 
  
私 「そりゃ、いかんじゃろーーーーーーー ! 中途面接の方は、同時に競合他社とも面接してる可能性が極めて高いんですから、いい人には速攻でオファー出さないと、他社に取られちゃうじゃないですかーーーっ ! 」 
  
ナオコ 「それが理想なのですが、面接いただくマネージャーの方々の “声” として、『採用業務の負担が大きい ! 』 という意見もありまして ・・・ 人事部としても、あまり強く言うわけにもいかないものですから ・・・ 」 

  
なんじゃ、そりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ ! ( 怒 ! ) 

本来の目的を見失うな !

つまりこういうことです。評価シートは、原則、中途採用面接の当日に人事部に送ることになっているのですが、何人かのマネージャーは、それをやっていない。人事部ではそれを把握していたが、マネージャーたちの VOC に配慮した結果、それについて、間接部門の人事部からは強く言えない ・・・ ま、一番悪いのが同僚のマネージャーであることは間違いありません。彼ら ( 彼女ら ) が当日中に評価シートを送れば問題はないのですから。これについては、次回のマネージャー会議で、私から Thomas にチクって、カミナリを落としてもらうことにしましょう ( 嫌われるかな ・・・ ま、いいや ・・・ )。それはそうと、人事が VOC に配慮するあまり、マネージャー連中に強く言えないっちゅうのは、いかんじゃろーー ! 


後日調査したところ、評価シートの送付遅れが原因で、中途採用に影響が出たケースはなかったとのこと。ひとまず、ホッ ! でも、人事部とわが部門の関係は、再度見直す必要があるのは言うまでもありません。 

  
人事部からすると、われわれ現業部門は「お客様」にあたります。ですから、 VOC に配慮するのは当然でしょう。しかし中途採用の目的は、「迅速に良い人材を獲得」し、それによって、部門、ひいては「会社の業績を UP する」ことにあるはずです。今回のケースは、間接部門である人事部が社員の VOC に配慮しすぎたばかりに、本来の目的を見失いかけたところにあります。これが日系企業ならどうでしょう。日系企業の人事部といったら、一般社員にとっては「神様」みたいなものです。なので、面接したマネージャー連中は、いくら忙しくても、徹夜してでも、評価シートを当日中に送っていたに違いありません。外資では、その主従が逆転した結果、何やら怪しいことになっているというわけです。確かに VOC は重視すべき概念ですが、こと社員を相手にするときには、その運用に十分注意しなければならないということでしょう。 

  
さてさて、いかなる制度も、完璧なものはありません。改善すべき点が見つかったなら、改善すればいい、それをスムーズに受け入れてくれるのも、外資系のいいところです。「外資のいい点を残しつつ、日系の良さを取り入れていく ・・・ 」 これは、外資で過ごす私の楽しみの 1 つでもあります。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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