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タカシの外資系物語

人材育成の考え方2002.06.07

今私がビジネス上ターゲットにしているのは銀行・保険などの金融機関です。金融機関ではどこでも「中期経営計画」なるものがあって、そこに必ず盛り込まれている項目があります。


* 積極的な人材育成 … 地域の皆様に最高のサービスを与えることができるよう、積極的な人材育成をはかります。


私が銀行員の頃よくこんな話を聞かされました。「銀行の資産は君達そのものなのだよ。頑張って自己研鑚に励んでくれたまえ !」まぁ、そう言われても「受験勉強」という与えられた形式ならともかく「自己研鑽」といっても日本人にはなかなか取り組みにくいものなのです。私自身も、簿記・宅建・中小企業診断士などいろいろと手をつけてみましたが、どれも中途半端。身についたものは一つもありません。


しかし、そんな中でも英会話だけは別でした。銀行時代から海外支店とのコミュニケーションが必須だったものですから真剣に取り組みました。今でも英語は苦手ですが新卒時よりは上達したと思います。私が英語を勉強する上で銀行は何をしてくれたでしょうか。実は何もしてくれませんでした。一応、いろいろな教材を薦めてくれましたが、費用の援助があったわけではありません。私はアルクの「ヒアリングマラソン」を自費でやっていました。


一方で、社内の留学生試験に合格した人には「これでもか !」と言わんばかりの補助がなされました。まず忙しい業務をはずされ、日中から英語を勉強できるような部署 ( そんな部署があったこと自体が問題なのですが ) に異動になるのです。英会話学校もタダでした。銀行にしてみれば、「名のある大学院に入ってもらわなければメンツが保てない」と言ったところでしょう。


しかし、留学生試験に合格するためには、そもそも英語が出来なければならないことを考えると、最初から英語がそれなりに出来るエリートだけを対象にした制度だったような気がします。つまり、「英語ができないが留学はしたい、今からでも頑張ってみよう !」という意欲のある人のモチベーションを、ことごとく打ち砕く制度でした。つまり、銀行があらかじめ決めた基準に達していなければ、そもそも「人材育成」のレールに乗ることすら出来なかったのです。これは私見ですが、そういう制度の中から出てくる人材は、結局みんな同じような紋切り型の人材でしかなかったような気がします。いい大学を出て、真面目で、大人しい …… 金太郎飴のような人々 ……


一方、外資系企業における人材育成の考え方は、どのようなものでしょうか。実は「マネージャー ( 管理職 )」 と 「それより下のレベル」で考え方が違います。まず、マネージャーより下のレベルについて、人材育成は「会社の責任」であると考えます。つまり、若いスタッフについては、会社が期待するような人材に育つように、会社側は必要十分な措置 ( トレーニングや動機付け ) をするのです。一方で、それらを自分のものとし、成長していくか否かは、その本人次第です。研修に参加してグーグー寝ていようが、会社は文句を言いません。ただし、ある年数を経るまでに一定のレベルに達しない場合は会社は容赦なくその人をクビにします。一見ドライに感じますが、会社側は十分にトレーニングの機会を与えてきたわけですから、それをモノにできなかった本人が悪いという意味では筋は通っていると思います。


次にマネージャー以上ですが、このレベルに対しては、会社は何も与えてくれません。私を含め、多くの中途入社組がこれに当てはまります。会社側は「マネージャー以上の人たちを育てるために、オカネを使うつもりはない !」と、明確に言い放っています。これに対し、私の同僚のマネージャーが経営層に質問をしたことがあります。


( マネージャー ) 「『マネージャーは勝手に育て ! 』という発想は理解します。自己研鑽に励むのはもちろんだということもわかっているんですが ……」


( 経営層 )「で、何が言いたいんですか ?」


( マネージャー )「自分自身以外に、われわれマネージャーを育ててくれる人はいない、と考えればいいんですかね ……」


( 経営層 )「あなたはそんなこともわからないんですか。それは、『お客様』です。あなたたちマネージャーはお客様に育てられるのですよ。そう考えなさい。」


す、するどい …… やや抽象的ですが「マネージャーはお客様に育ててもらう」という考え方は、まさにその通りだと思います。確かに、マネージャーレベルになって、本や研修を通して新たに獲得する知識はそれほどないのかもしれません。しかし、お客様から得る知識は、どのようなレベル ( たとえ経営レベルになったとしても ) 尽きることはないのかもしれません。


「お客様に育てていただく」「お客様から物事を教わる」このような考えが外資系企業の根底に流れていることは、実はあまり知られていないのかもしれませんね。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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