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有元美津世のGet Global!

マレーシアの頭脳流出(4)-- 現地での就職2024.03.12

 

マレーシアの頭脳流出 (brain drain)については、10年前に書いたのですが、その現状は、10年後の今、さらに深刻化しています。「頭脳流出」とは、「大卒以上の高技能者が永久に就職するつもりで高等教育を受けた国とは別の国に移住すること」と定義されています。この10年ほどで、マレーシアからの海外移住者は倍増しました。

マレーシアの場合、移住先は隣国のシンガポールがダントツ1位で、100万人近くのマレーシア人が居住しています。先月、発表されたマレーシア政府の調査では、シンガポールで働くマレーシア人の74%(39%がskilled、35%がsemi-skilled)、ブルネイで働くマレーシア人の92%(68%がskilled、24%がsemi-skilled)が高度・技能人材であることがわかりました。(”Skilled”は、通常、大卒のホワイトカラー。)

また、シンガポールで働くマレーシア人の67%が月に1500~3599星ドル(16万円~40万円)、19%が3600~9999星ドル(40万円~110万円)の給料を得ています。ブルネイでは、後者の額を稼いでいる割合は、4割以上にのぼります。(ブルネイの方が、skilledの割合が高く、高給な人が多いのは、石油産業に従事している人が多いのが理由かと。)

頭脳流出の背景には、以前、書いたようにマレーシア政府のマレー系優遇政策があるのですが、華人だけでなくマレー系の頭脳流出も増えているのは、同じ仕事でも、シンガポールの方が、給料が何倍も高く、かつリンギット安という経済的な側面が大きいようです。マレーシアの通貨リンギット(ringgit)は、今年に入り、米ドルに対し、98年のアジア通貨危機以来の最安値を記録しています。とくにシンガポールドルに対して、コロナ禍以降、暴落しています。(対日本円では、円が盛り返したというか、リンギットがさらに下落したからか、10年前とあまり変わらない。)

以前、書いたように、頭脳流出は、弁護士などの専門職を含め、あらゆる分野で起こっていますが、医療分野で顕著です。マレーシア最高峰のマラヤ大学の医学部では、毎年、トップの学生の少なくとも30人がシンガポールで就職するそうです。

シンガポールの方が、医療が国際標準に沿っているので、シンガポールで経験を積むと、オーストラリアやニュージーランド、イギリスなどに転職がしやすいという面もあるようです。シンガポール以外にも、より高い給料を求め、中東に向かうマレーシア人もいます。中東では、自国より給料が高いことから、アジア各国からの医師や看護師が働いていますが、イギリスから移住する看護師もいます。

 

中所得国の罠

 

マレーシアでは、2020年までに高所得国の仲間入りをすることを目標としていたのですが、残念ながら、達成できませんでした。高所得となるには、経済成長を牽引する頭脳が国外に流出することは障害となりますから、流出した人材を呼び戻すなどマレーシア政府は何とかしたいのですが、解決策を見いだせていません。

頭脳流出は、中所得国で顕著な現象です。「高所得(high income)」「中所得(middle income)」というのは、世界銀行(World Bank)の定義によるものですが、国民一人当たりのGNI(Gross National Income)が(2023年度は)13,206米ドル以上で「高所得」となります。世界的に高所得の国は81カ国あり、2023年にはルーマニアとパナマが加わりました。なお、ロシアのように、いったん高所得国になっても中所得国に戻る場合もあります。

1960年に中所得国だった国のうち、2008年までに高所得国になったのは、日本を含む13カ国のみで、残りは中所得国のままか、多くが低所得国に転落してしまっています。実は、世界の国の半数以上が中所得国で、世界の人口の75%が中所得国に居住しているのが現状です。

高中所得国(upper middle income country)になって15年以内に高所得国にならないと、技術的に進んだ先進国と安価な労働力が豊かな後進国との間に挟まれて、成長が鈍化し、「中所得国の罠(middle income trap)」にはまってしまうと言われています。

マレーシア(GNI $10,740)は、1997年に高中所得国となり、すでに20年以上が経っています。しかし、今後、GDPが年5%以上のペースで伸びれば、数年で高所得国になれる可能性があります。一方、やはり中所得国の罠に陥っているタイ(GNI $7090)は、2037年までに高所得国になることを目指しています。

 

マレーシアでの求人

 

頭脳流出が続くマレーシアでは、ハイスキルの人材は不足しており、IT分野や製造業での人材需要は高いままです。たとえば、電気電子分野では5万人ほどのエンジニアが必要なところ、毎年、工学部を卒業するのは5000人のみだそうです。そこで、マレーシア政府は、留学生が卒業後に現地で就職できるよう政策を転換することを検討していますす。(できない国の方が珍しい。)

Daijob.comで、マレーシア勤務の求人広告を見てみると、200件以上あり、エンジニアやプロジェクトマネジャー、エグゼクティブクラスの求人もあります。アメリカ企業のマレーシアオフィス勤務のものもあり、当然、こうした職種では、ビジネスレベルの英語力が求められます。

ただし、求人で一番多いのは日本語を要するカスタマーサポートの仕事で、それほど英語力は求められず、英語のレッスンを提供している企業もあるようです。中には「英語不問」や「新卒・未経験者歓迎」でというのもあります。 日本で在宅勤務可能というのもありますが、日本で在宅だと、マレーシアの安い生活費の恩恵を受けることができませんね。(地元の人に言わせると、マレーシアも物価高だが、10年前からマレーシアに通っている私としては、相変わらず安い!)

私は、英語が通じて食べ物がおいしいマレーシアが非常に気に入っていますが、行ったことのない人は、一度、訪れてみてはどうでしょうか。

 

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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