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有元美津世のGet Global!

AI時代のキャリア選択(2)- 新たな職業も登場2023.04.11

 

  昨年11月に公開されてから世界を騒がせたChatGPT3.5ですが、3月には、すでにChatGPT4が公開されました。

  その後、個人情報の扱いを理由に、イタリアではChatGPTが禁止されるという事態に至りました。一方、今月に入り、オーストラリアでは、ChatGPTに「犯罪歴がある」という誤情報を流されたという人が「訂正されなければ、名誉棄損で開発元を提訴する」という騒ぎも起こっています。訴訟が起これば、世界初のChatGPTに対する名誉棄損の訴訟となります。

 

淘汰か効率向上か

 

  何かとお騒がせのChatGPTですが、3月末、ペンシルバニア大学がChatGPTの開発元とともに、GPT(Generative Pretrained Transformer)などの大規模言語モデルの米労働市場への影響の可能性に関する研究結果を発表しました。

  GPTによって、アメリカの就業者の約80%が、少なくとも自分が行なう仕事の10%に影響を受け、就業者の19%は少なくとも仕事の50%に影響を受けるという結果でした。

  「影響を受ける」というのは、「仕事が自動化される、人間の仕事がなくなる」ということではなく、「人が行なう作業時間が短縮される」ということだそうです。作業時間が半減するというのはすごいですし、10%削減というのは個人レベルでは大したことはないかもしれませんが、就業者全体で見ると、かなり効率が向上することになります。

  ただし、GPTによって、どれだけ影響を受けるかは、業界や職業によって大きく異なります。業界別では、ITなど情報処理産業が、もっとも影響を受け、製造業、農業、鉱業が一番影響を受けないということです。(これは、GPTに関するものなので、工場などでの自動化・ロボット化は含まれない。)

  職種では、一番影響を受けるものとして、ブロックチェーン・エンジニア、数学者、会計士・税理士、法務アシスタント、広報担当者、ライター、通訳・翻訳者などが挙げられています。まったく影響を受けないのは、電気工事士、機械工、鉄道作業員、料理人、理髪師などで、現場で手作業を必要とするものです。

  この研究では、年収が8万ドルに近づくと、影響が増すということで、大卒以上の高給のホワイトカラーが一番影響を受けやすい一方、比較的低賃金のブルーカラー職が影響を受けにくいと結論づけています。

  他にも、「AIによって置き換えられる職種ランキング」といったのが、あちこちで出回っていますが、だいたい同じような職種が並んでいますね。

 

翻訳者

 

  上記のChatGPTに影響を受けやすい職業に、翻訳者がありますが、ちょうど先週、ネットコミュニティで、日本に住む英語ネイティブが「翻訳の仕事を紹介してくれない?フルタイムでやりたいんだけど」と投稿していました。それに対し、現役の(日英)翻訳者らが下記のように答えていました。

「過去5年、機械翻訳のために、翻訳料金がどんどん下がっている。(機械翻訳がやらない)残りの仕事をベテラン翻訳者がやるから、新米翻訳者に回る分はないよ。」
「これまで、翻訳でいい対価をもらっていたけど、先週、送られてきた仕事は、すでにChatGPTが翻訳したもので、それをチェックするだけの仕事だった。」
「GPTのような大型言語モデルの影響で、ここ5年かそこらで、翻訳業界自体が消滅してしまうというのが、業界内での認識。」

  元々、翻訳(にしろ通訳にしろ)、「二カ国語できるから」というだけで食べていける分野ではないのですが、たとえば医学や〇〇学といった、よほど専門的な分野の知識がない限り、今から目指すべきき職業ではないでしょうね。(元々、翻訳で食べていけるのは、すでに専門性を持っていた人が語学力を身につけたというケースが多く、特殊な専門分野なしに、語学ができるだけでできるような一般分野の翻訳で食べるのはむずかしい。)

 

Post Editor

 

  あるアメリカのオンラインマガジンのベテラン編集者(5ヵ国話者)は、何年も前から機械翻訳を使っているそうです。機械翻訳の質が今ほどよくなかった頃も、グーグル翻訳を使って翻訳した単語を並べることで、タイプする量(作業量)を減らしていたのそうですが、機械翻訳の質がよくなってからは、機械翻訳(DeepL)で下訳し、それを校正、編集するそうです。

  日本の翻訳者も、「下訳を得るため」という理由で機械翻訳を使っている人が多数を占めるようです。「翻訳業務を効率化するため」というのが最大の理由で、実際に翻訳時間が短縮され、かつ労力、疲労の軽減にもつながっているとのことです。

  フランスの「ル・モンド」紙では、昨年、英語のデジタル版でAI翻訳を使い始めました。2025年までに購読者を100万人に増やすために、大量の英語コンテンツをリリースするためだそうです。やはり、AIが翻訳したものを編集者が校正、編集して、記事に仕上げるという形です。

  こうした作業は”post edit”と呼ばれ、こうした作業をする人は”post editor”と呼ばれます。すでに、日本でもpost editorの求人はありますが、今後、機械翻訳が普及すればするほど、”post editor”の需要は増えると思われます。なお、post editorになるための講座も提供されています。

  下訳など、ChatGPTでできる仕事しかできないのでは淘汰されてしまうということですが、どんどん人間の仕事が減っていくわけではなく、このように新たな職業も生まれてくるわけです。時代の流れに応じて、必要なスキルを見極め、常に自分のスキルをアップデートしていくことが必要ということですね。

 

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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