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有元美津世のGet Global!

始まった観光客誘致合戦2022.06.14


 やっと日本も、先週から団体旅行客に限って観光客の受け入れを開始しました。「マスクの着用や除菌ジェルの利用などを強要され、添乗員に監視されるのなんてイヤだ」という声はあるものの、元々、ツアーでしか旅行しない人もいますし、「日本に行けるなら、どんな形でもいい」という熱烈な日本ファンもいます。

 韓国やタイでは、日本行きツアーへの予約や問い合わせが殺到しているようですが、アジア人は、だいたい自国でもマスクを着けていますし、フェイスガードやビニールの手袋を着用するなど、日本人以上に感染防止対策をする人もいます。(1月にバンコクの空港で、白い化学防護服[hazmat suit]を着たアジア系旅行者3人を目撃!勝手に台湾人かシンガポール人かと推測している。もう一人、機内でも見た。)

 観光客受け入れに反対する人は未だに多いようですが、個人旅行が解禁されても、ビザ免除措置が再開されない限り、大量の観光客が入国することにはなりません。

 一旦、ビザ免除の個人旅行受け入れが再開すれば、また観光客は殺到すると思います。「さっさと開国しないと、観光客を他国に奪われる」と危惧する声もありますが、鎖国中は他国に流れても、また戻って来ると思います。(すでに2023年、2024年の日本旅行の計画を立てている人も少なくない。)2011年の大震災発生直後は、「放射線汚染が危ない」といって九州や沖縄への寄港すらキャンセルするクルーズ船が後を絶ちませんでしたが、2012年には、訪日外客数は、ほぼ2010年並みに回復し、2013年には、それまでで最高の1000万人を記録しました。(皆、すぐ忘れるから。People have very short memories.)

観光客争奪合戦


 コロナで2年近く旅行ができず、世界的に海外旅行に対する繰延需要(pent-up demand)は高いですので、それを狙って、失われた観光収入を取り戻そうと、各国が観光客誘致合戦を始めています。先週、タイやアメリカが、新たなツーリズム戦略を発表しました。

 タイ政府は、2030年までに観光業がGDPに占める割合を30%に増やすことを目標とし、観光業の持続可能な開発を進めるために、”SMILE”という新たな戦略を打ち出しています。

S = Sustainability 持続可能性
M = Manpower 観光業就労者のスキルを国際水準レベルに向上
I = Inclusive economy   経済のすべてのセクターを観光業界に包摂
  (経済のすべてのセクターが観光業の恩恵を受けられるようということかと。)
L = Localization  地域社会のユニークな面を名所・持ち味としてPR
E = Ecosystems  エコツーリズムと地元の環境をPR

 実は、同じ日にアメリカの商務省も、新たな国家旅行観光戦略を発表しました。2027年までに、年間9000万人の観光客を呼び寄せようというものです。アメリカをトップクラスの旅行先(travel destination)としてPRし、これまで目立たなかった地域も旅行先として宣伝し、気候変動への寄与を減らすことを目的に、より強靭で持続可能なツーリズムの促進を目指しています。

 2021年10月に77万人だった海外からの米入国者は、今年4月には3倍に増え、200万人以上に達しました(私は4月に入国したが、入国審査は長蛇の列で、コロナ前より混んでいた。)2019年には、海外から8000万人近くの旅行者が訪れていますので、5年後に9000万人というのは十分、達成可能でしょう。

回復に向かう国際ツーリズム


 以前、書いたように、去年後半から観光客に対し開国ラッシュが始まりましたが、世界の旅行者数(海外からの入国者数)は、今年の第一四半期には、前年同時期に比べ3倍近くに増えました。とくにヨーロッパで伸びており(欧州圏内の旅行が中心)、4倍増となっています。ただし、それでも、2019年のレベルの43%にしか達していません。

 ちなみに、世界では、すでに45ヵ国がコロナ関連の入国制限渡航前のコロナ検査ワクチン接種済みを入国の条件など)をすべて撤廃していますが(つまりコロナ前の形で入国可能)、そのうち31ヵ国がヨーロッパの国です。

 ただし、まだ開国していない国(日中台)があるアジアでは、旅行者数は第一四半期時点で2019年のレベルを93%下回っていました。業界人に対するアンケート調査でも、他の地域では、ツーリズムが2019年のレベルまで回復するのは「2023年」という回答がもっとも多い一方、アジアでは「2024年」という回答が7割近くに達しています。

 アジアでは、日本を含め中国人観光客への依存度が大きかったので、中国が開国しないことには、2019年のレベルには戻るのは難しいのではないでしょうか。(私の中国人の友人によると、中国では、パンデミック発生後、パスポートを没収されたり、更新を拒否されているとか。)

 ただし、アジア各国は一ヵ国に大きく依存した政策を反省し、日本と同じように富裕層の取り込みなど多角化を目指しています。(富裕層の取り込みを含め、次々に目標を掲げるタイでは、インド人観光客一日3000人という目標も。)

 このように「コロナ前に戻るだけではダメだ。これを機にツーリズムの在り方を考えよう」という気運は、世界的に高まっています。上記のタイやアメリカの例に見るように、今ではツーリズム戦略の中に”sustainability”を含むことが当たり前となっています。

 そこで、次回は、”Sustainable Tourism(持続可能なツーリズム)”について書きたいと思います。

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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