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民主主義を考えよう(2)二大政党制2020.11.17


 大統領選勝利宣言で「分断でなく団結、融和」といったバイデン氏の演説を「すばらしい」と誉める声が日本にありますが、そのような演説をした大統領は、オバマ元大統領を含め、他にもいました。しかし、アメリカの分断は、どんどん悪化するばかりです。[i]

 「こんなに選挙で熱くなれるなんて羨ましい」という声も日本にありますが、それは日本の人がアメリカの分断の厳しい現実を理解していないからです。大阪都構想住民投票で、多くの大阪市民は熱くなりましたが、あの住民投票が自分たちの今の生活、大阪の未来を大きく左右するのが見えていたからです。[ii] アメリカの場合、選挙結果は、それよりもっと大きな影響を及ぼすのです。
 アメリカの人にとって、どちらの候補が勝つかは「政治」という範疇にはおさまりません。相手候補が選ばれれば、宗教などの信条に基づく自分たちの人間としてのあり方、自分たちの生き方を否定されることになるのです。(そうした人が国民の半数近くを占める。)
 大統領選前の1万人以上の選挙登録者に対する世論調査では、自分が支持していない候補を支持する人たちとは「政治において優先順位が違うだけでなく、アメリカの芯の部分の価値観や目標に関して根本的な相違がある」と答えたのはバイデン氏支持者では80%、トランプ氏支持者では77%で、「違いは政策や政治に関してのみ」と答えたのは、わずか20%でした。
 さらに、相手方の候補が勝った場合、「国にとって長期にわたる悪影響がある」と答えた人が、バイデン氏支持者では90%、トランプ氏支持者では89%にのぼったのです。
  アメリカでは「国が、これだけ分断されるのは、南北戦争(Civil War)以来」という人たちも少なくありません。

パンデミックで分断が悪化


 真っ二つに分かれるような国民の分断は、EU離脱(Brexit)でイギリスでも顕著になりましたが、上述の世論調査でも、他の先進国に比べてアメリカが一番激しいと結論づけています。
 コロナ対策においても、アメリカは分断されており、「アメリカはうまくコロナに対処できている」と答えたのが、共和党支持者(共和党寄りの無所属を含む)では76%に対し、そうでない層では29%のみでした。この47ポイントの差は、調査対象国14カ国で最大です。(アメリカに次いで大きいのがフランス、スペインの34ポイント、イギリスの33ポイント。日本は25ポイント。一番小さいのは、デンマークとオーストラリアの5ポイント。)

 さらに、「パンデミック発生後、国の分断がさらにひどくなった」というアメリカ人は77%に達しています。他国13ヵ国の中央値は47%です。(私は、5~8月、アメリカの中でも有数のコロナ感染拡大地域にいる間、国が壊れていっているような感じがした。)

二大政党制が原因


 この世論調査では、アメリカの分断の原因として、硬直した二大政党制を挙げています。アメリカが調査対象の他国と違うのは、この制度だからです。(世界的に少数派。)
 二大政党制は、両党の違い、人々の考え方の違いを現実より大きく見せることになり、とくに支持者の数が緊迫していると、一方の利益が相手の損失になるという熾烈なゼロサム(zero sum)の戦いになるというのです。結果として、アメリカは、ウイルスという共通の敵を前にしても、共通の目標に向かえない状態に陥っています。
 日本では、二大政党制を理想化する人たちがいますが、私は30年以上、地元住民としてアメリカの二大政党制を見てきて、ずっと真似すべきではないと思っています。
 たとえば、財政政策は保守で社会政策はリベラルといった人は、アメリカにもいくらでもいますが、共和党支持であれば、諸々すべて保守、民主党支持であれば、すべてリベラルの政策を支持しなければならず、選択の余地がないのです。アメリカ人の40%ほどは無所属だというのに。
 共和党支持のゲイの人たちが「ゲイであることをカミングアウトするより、共和党支持をカミングアウトする方が大変だった」と言っているように、「共和党を支持している」などと言えばLBGT擁護者が多いリベラル派に袋叩きにあうからです。ハリウッドも同じです。共和党支持宣言は、俳優・監督生命を揺るがすことになるのです。実際に、保守寄りの発言した俳優らがSNSや(主流)メディアでボコボコにされています。[iii]
 アメリカでは、小選挙区制や選挙人団制度(electoral college)などのため、制度的に第三政党が台頭できない仕組みになっており、毎回、大統領選挙で、リバタリアン党などから候補者が出ますが、象徴的なもので、実際に勝つことは不可能なのです。[iv]
 今回の大統領選前に行われた世論調査でも回答者の60%が「効果的な政治制度のために第三政党が必要だ」と答えています。共和党支持者の間では51%、民主党支持者の間では61%ですが、無所属(independent)では68%に達しました。(私のように二大政党制にウンザリしている人たちが、かなりいる。)
 当のアメリカ人たちが「二大政党制は機能していない。変えよう」というのに、それを称賛する日本人がいる… これからの日本を担っていく皆さんには、こうした二大政党制の現実を理解してほしいと思います。 




[i]  「アメリカを分断したのはトランプ大統領」という人がいるが、修復不可能な分断はトランプ大統領が誕生する前から起きており、分断しているからトランプのような人(部外者のイロモノ)が大統領に選ばれた。私は10年以上前から、アメリカは二国に分裂するしかないと思っている。
[ii] 都構想住民投票投票率は62%。今回の米大統領選挙は65%だが、通常は50%台。
[iii] 日本では「アメリカでは芸能人が政治的発言することがあたり前」という声があるが、それはリベラル派に限ったこと。

[iv]  第三党が可能であれば、B・サンダーズ氏のような改革派が第三党として出馬でき、民主党内でつぶされずにすむ。

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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