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有元美津世のGet Global!

ベトナムのサッカー文化2019.01.29


 UAEで行われているアジア杯(AFC Asian Cup)。準々決勝でベトナムは日本に惜しくも負けてしまいましたが、ベトナムでは日本でのW杯のような盛り上がりでした。私の大家さんのように、普段サッカーを見ないような人もベトナム戦だけは観戦するという感じで。

熱気では日本に圧勝


 ベトナムでは、元々、サッカーが盛んで、一番人気のスポーツです。一日中、サッカー(プレミアリーグなど欧州リーグ)の試合を放映しているTVチャンネルが少なくとも2つあります。街のカフェでは複数のテレビが置かれ、皆で集まってサッカーの試合を観戦します。国際大会でベトナム代表チーム(Golden Dragons)が勝つと、ファンたちがクラクションを鳴らしながら、大きな国旗を手に、バイクで列になって街に繰り出します。

 12月に、東南アジアの選手権スズキ杯(AFF Suzuki Cup)で、ベトナムが10年ぶりに優勝した際には、夜通しバイクの暴走が続き、交通事故が多発して14人もの死者が出たくらいです。今回のアジア杯で、予想外にヨルダンを破って準々決勝進出を決めた夜も、市中は勝利を祝う人たちで溢れました。(首相からチームに祝福の手紙も届いたらしい。)

 そして、対日本戦では、試合会場のベトナム人ファンの多かったこと。(選手たちに手料理を届けようとした)地元で働くベトナム人労働者以外に、1000人ほどがベトナムから訪れたそうですが、準々決勝進出が決まってから応援に行くことを決めた人たちは、旅費に13万円もかけたとか(ベトナム都市部の平均月収は数万円。)UAE戦では、地元なので当然UAEの応援ファンは桁違いに多いですが、その他の国では(準決勝前の時点では)ベトナムのファンが一番多かったと思います。

 テレビや新聞でも、試合前は「いかに日本を破るか」という議論がなされ、試合中は解説者が叫びまくり、試合後は「日本を含む海外のメディアがベトナムの健闘を称えた」といった記事がいくつも掲載されました。そして、週末には、対日本戦を連日再放送。

新たな東南アジアの雄

 そんな熱気の中、対ベトナム戦でPKを決めた堂安選手が注目を浴びました。私もユニフォームの”DOAN”を見て「日本の名前には見えない」と思っていたのですが、これがベトナムによくある名前であることから、* ベトナムでは「堂安選手って、ルーツはベトナム?」といった声が。実は、以前にも何度か話題になり、メディアで「堂安選手は兵庫生まれで、両親ともに日本人。ベトナム人ではない」と紹介されていました。

 それよりも、ベトナムのサッカーファンの間でもっと騒ぎになっていたのが、タイ選手のTristan Do。彼の祖父母はベトナム出身のため、「なんでベトナムでなく、タイ代表チームでプレイしているのか?!」と一部のファンから批判が出たのです。そこで、同選手はインスタグラムで英語で下記のような反論を投稿しました。

僕は祖父がベトナム人で、人生の大半をタイで過ごしたことを誇りに思う。同様に、父がタイで生まれ育ったこと、母がフランス人であることも誇りに思っている。<中略> 僕がタイでプレイするのは、父が生まれ育ったところだから。父はタイで育った後、フランスに移住し、成人するまでベトナムには行ったことがなかったし、タイ語しか話せない。これによって、僕のルーツが失われたわけでも否定されたわけでもない。サッカーやアジア杯のような大会は、人々がひとつになるためのものだ。フェイクニュースを基にヘイトや誹謗を拡散する、幸いにも、ほんの一部の人に、このメッセージを届けたい。ベトナムチームの健闘もASEANサッカーの発展も、うれしく思っている。ASEANチームが強くなることで、僕たちが皆、引き上げられ、強くなる。Open your mind it’s 2019.

 
 日本では「大坂なおみ選手は日本人か?」という議論が起こりましたが、その逆と言えそうな。「祖父母がベトナム人の選手が、ベトナムでなくタイチームでプレイするのは売国奴」みたいな批判は、選手が気の毒ですね。日本語を話せない海外在住の日系ブラジル人(韓国人?)三世が日本代表チームでプレイしないのは売国奴、と言っているようなものですから。

 しかし、同選手を批判しているベトナム人に言わせると「彼が批判されるのは、彼がずっとベトナムチームを見下すような発言をしてきたから」「タイでプレイするのは、タイの方がベトナムより格上と思っているから」。**  FIFAランキングではベトナムの方が上ですが、東南アジアのサッカーの雄はタイと考えられてきたため、対抗心もあるのでしょう。

 両国が競争しながら、東南アジア、そしてアジアのサッカー向上に貢献してくれるのが一番なのですが。

 

 

 

* ベトナム代表チームにも、Đoàn という名前の選手が。Toàn という名前の選手も。なお、「堂安」をベトナム語で表すとĐường Anになる。

** 数年前にU23のベトナムチームから誘われたのだが、タイチームでプレイすることを選んだ。

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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