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有元美津世のGet Global!

インドの多様性(3)― 多宗教国家2018.04.03


  「インドといえばヒンディー教」と思う人もいるかもしれませんが、ヒンディー教徒は確かに人口の8割を占めるものの、他の宗教の信者も4分の1ほど、3億人以上います。

 ヒンディー教徒に次いで多いのがイスラム教徒ですが、全体の14%といっても1億7000万人以上にのぼり、日本の人口よりも多いのです。インドで、結構イスラム教の人に出会うのもうなずけます。

 インドのイスラム教徒の半数近くが、北部3つの州(ウッタルプラデーッシュ、西ベンガル、ビハール州)に住んでいます。タージマハールのあるアーグラや、以前、紹介したバラナシは、UP州に位置します。

 インドは、ヒンディー教、仏教、ジャイナ(Jain)教、シク教 * が生まれた地であり、憲法では世俗主義(政教分離)をうたっているものの、今も非常に宗教色が強い国です。

宗教対立


 前回、民族間の対立について書きましたが、対立の一番の火種は宗教でしょう。

 イギリスからの独立運動が高まる中、ヒンディー教徒とイスラム教徒の対立が激化し、独立にあたり、1947年にイスラム教国家として生まれたパキスタンは人口2億人。(ベンガル人の独立運動により)1971年にパキスタンから独立したバングラデッシュは、人口1.6億以上。パキスタンがインドから分離していなければ、インドはイスラム教徒が半数を占めていたと思われ、マハトマ・ガンディーが最後まで反対した宗教による国家分離は、遅かれ早かれ避けられなかったのではないでしょうか。

 この分断によって、パンジャブ、ベンガル、アッサムの三州は、インドとパキスタンの2つに分割されてしまい、ヒンディー教地域のイスラム教徒はイスラム地域へ、イスラム教地域のヒンディー教徒やシク教徒(パンジャブはシク教徒の多い地域)はヒンディー地域への移住を余儀なくされました。その過程で、1400万人もが難民化し、異教徒間で多くの衝突、虐殺が起こりました。**

  分断後も、インド各地でヒンディー教徒とイスラム教徒の対立による暴動、虐殺などが起きています。つい先週も、西ベンガルでヒンディー教の祭典中に、対立する政党支持者らのラリーがヒンズー教徒とイスラム教徒の衝突に発展し、死者まで出ています。

 とくに、2014年にヒンディー教至上主義団体を支持基盤とする保守政党が政権を握った後は、一部のヒンディー教徒が過激化し、イスラム教徒やキリスト教徒に対する暴力が多発しています。モディ政権はインド各地で牛保護政策を進めていますが、「牛肉を食べた」と言いがかりをつけられたイスラム教徒がヒンズー教徒に殺害されるなどの事件も増えています。

  実は、インドではイスラム教徒の増加率がもっとも高く(ヒンズー教徒よりイスラム教徒の出生率の方が高い)、2050年までにイスラム教徒が3億人に達し、インドネシアを抜いて世界でイスラム教徒がもっとも多い国となると予測されています。ヒンディー教徒には、そうした傾向に危機感を抱いている人もおり、残念ながら、今後も異教徒間の対立は沈静化しそうにありません。

    

 

*  「シク(Sikh)」は、首長を意味するアラビア語の「シーク(Shiek)」とは異なります。アメリカでは、9.11以降、ターバンを巻いているため、イスラム教徒と間違えて襲撃、殺害されたシク教徒が何人もいますが、イスラム系のターバンとは見た目も違います。

 

** シク教の総本山の黄金寺院(Golden Temple)で有名なアムリトサル(Amritsar)に行かれた際には、ぜひ2016年にオープンしたPartition Museum(印パ分離博物館)を訪れてください。印パ分離時の混乱、虐殺を行き残った人たちのインタビュー映像がたくさん鑑賞できます。

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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