Global Career Guide
このコラムでも繰り返し述べてきた通り、外資系企業で仕事をうまく回していくためには、同僚の外国人との「円滑な」コミュニケーションが欠かせません。「円滑なコミュニケーションをはかるためには、まず英語力 ! 」 … 確かに英語は前提ですが、それが全てではありません。コミュニケーションとは、「出し手と受け手のキャッチボール」ですから、たとえどんなに流暢な英語を使っていても、出し手がボールを投げ、受け手がそれを捕球しなくては話になりません。
具体的に話をしましょう。以前このコラムにて、同僚マネージャーであるジョーンズのお話をしました。ジョーンズは中途入社したてのマネージャーで、自分のプロジェクトにアサインするスタッフを探していました。同僚の日本人マネージャーあてに「人材求む ! 」のリクエストを出したものの、日本人マネージャーの反応が悪く ( というか、反応皆無だったため )、それを役員にチクって大騒ぎになったという話でした。(No.337 & 338 『“えらいさん” に呼び出された理由』 参照 )
このときのコラムで私が言いたかったことは、「外資系企業において、同僚 ( 特に外国人 ) から何らかのリクエストがあった場合、「OK or NO」の返事を速攻で返す必要があるということ」です。とかく日本人というのは、OK であろうが NO であろうが ( 特に NO の場合ですが )、その理由を付けないと返事をしない傾向があります。一方、米国流の考え方では、「理由はどうでもいいので、先に OK or NO を言ってくれ。でないと、先に進まない … 」 となります。
「スタッフは出せないので、速攻で NO と返した … 」 とりあえず、コミュニケーションの 50% はこれにて達成です。ジョーンズにしてみれば、「タカシは NO か … それなら他を当たろう ! 」ということで、別のアクションに移ることができます。短期的には、これで OK です。
今回のコラムでは、残りの 50%、つまり NO の理由を告げるときについてお話したいと思います。
Title : Staffing request for XXX project by Jones
This opportunity is closely in-line with XXX’s overall strategy of IT planning.
We need the following resource to start on mid-August:
Senior Consultant: Full time. Experienced/expert with IT governance model …
「おいおい、ジョーンズからまたもやスタッフリクエストが来たよ、どれどれ … 」
私がジョーンズから送られた要員に関するリクエストメールの内容を確認しようとしていると、数本のメールが矢継ぎ早に送られてきました。「Re: Staffing request for XXX project by Jones」… 何と、ジョーンズのメールに対する、同僚スタッフからの返事ではありませんか !
Manager A 「Sorry, no resource in my team」
Manager B 「NG … Sorry, Jones」
Manager C 「NO !」
「NO」「NO」「NO」… って、こいつら、真剣に検討する気あるんかーーーーーーーーっ !(T-T) ハァハァハァ … ( って、私が涙を流す話でもないのですが )
「OK or NOの返事は速攻で ! 」と言っても、これではあまりにもジョーンズがかわいそうです。私は同僚の日本人マネージャー A のところに行って、状況を確認してみることにしました。
私 「ジョーンズからのリクエストなんだけど … 」
A 「あぁ、リソース ( 人員のこと ) の件ね。申し訳ないけど、出せないねぇ」
私 「でも、この間のミーティングで、ナオキが空いてくるって言ってたんじゃなかったっけ ? 」
先日、A と打ち合わせた際に、A 配下のスタッフであるナオキくんが、8 月から空いてくるという話を聞いていました。
A 「あ、ナオキね。8 月から空いてくるけど、さ。ジョーンズの案件って、英語が前提になっている上に、少人数でやることが多いから、若いスタッフにはハンドリングが厳しい場合が多いのよ。だから、断ったの ! 」
確かに、ジョーンズが持ってくる案件は、クライアントのところにコンサルが 1 人で乗り込んで切り盛りするような案件が多く、若いスタッフでは対応できないケースが多いことは事実です。私のチームから、ジョーンズの案件にアサインしたオサムくんも、「 1 人じゃ無理っすよ、タカシさん … 助けてぇー」なんて、言ってましたっけ … ( ちなみに私の方針では、「多少の Stretch ( 背伸び ) がないとスタッフは伸びない」ということと、「【助けてぇー】と言える段階ならまだ余裕がある」 ということで、放置ですが … 鬼か、わしは ! )。ジョーンズ自身も、短期間に業績を上げようとして、少し無理な案件を持ってきているフシもあります。
私 「でも、それならそれで、ジョーンズに本当のところを伝えてやんないと、一向に解決しないし、またモメるだろーが … 」
前回のように、上司のバートに日本人マネージャー全員が呼び出されて説教を受けたくはありません。
A 「そりゃそうだけど … 英語で説明すんの、面倒じゃん。どっちにしても、スタッフを出す気ないんだから、理由を説明しようがしまいが、一緒だろ ? 」
… なんじゃ、そりゃ ! しょうがねぇなぁ …
これではコミュニケーションもへったくれもありません。私はジョーンズあてに、「NO」と答えた日本人マネージャーも CC に入れて、以下のようなメールを返信しました。
Jones,
Thank you for introducing my team staffs a job opportunity.
I have examined, however, decided to decline this job opportunity.
Reasons are as stated below.
1. I expect my staff to provide a service on a team based project, but this opportunity is for a single staff.
2. Since my team staffs are a very junior, they cannot manage not only clients but themselves alone.
Thanks,
Takashi
( スーパー意訳 )
ジョーンズ、
案件の紹介ありがとう !
ちょっと考えてみたんだけど、このプロジェクトに、うちのメンバーをアサインするのは難しいな …
理由は、私の方針として、チームベースの案件にスタッフを入れたいと思っているんだ。そもそもスタッフ 1 人の案件というのは厳しいよ。若いスタッフには、自分の管理とクライアントの管理の両方を求めるのはキツいんじゃないのかな …
タカシ
すると、ものの 5 分も経たないうちに、ジョーンズから返事が来ました !
Takashi,
Thanks for the message.
I appreciate your thoughts and understand the reason of other manager’s responses.
Please advice continuously!
Jones
( スーパー意訳 )
タカシ、
メール返信ありがとう。
タカシの考えを聞いて、みんなの対応がイマイチな理由がわかったよ。
今後とも、アドバイスしてくれよな !
ジョーンズ
見たかーーーーーーーーーっ ! 話せばわかるやないかーーーーーーーーーーっ ! (T-T) ハァハァハァ ( 怒らせたらどうしよーかと思ったぁ … 良かったぁ … ホッ ! )
冒頭に述べたように、コミュニケーションというのは、どんな言語を使おうが、お互いにキャッチボールできなければ意味がありません。速い球を要求されたら速い球を返すだけダメ。英語だからと面倒がらずに、ときには相手の良くない点も知らせてやらなければ、いつまでたってもコミュニケーションなど成り立つわけはないのです。
それにしても、この一件以来、どうもジョーンズが私になついたフシあり … これはこれで、困ったもんだわい、トホホ …
1968年7月 奈良県生まれ。
大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。
みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。
書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ