Global Career Guide

以前、友人が勤めていたExecutive Search Firm(エグゼクティブサーチ会社)を訪れた時のことです。受付のソファに二人の候補者らしき男性が座っていました。ひとりは落ち着いた雰囲気で履歴書を読み返していましたが、もう一人はどこか覇気がなく、目線も落ち着かず、姿勢も前かがみで自信がなさそうに見えました。後者は現職がないのではと感じました。精神状態は表情や仕草に表れるのです。
外資系への転職活動は、単なるスキルや経験のマッチングだけでは乗り越えられません。むしろ、長期間にわたって自分を奮い立たせ続けるためのメンタルタフネスが求められます。
一度でも外資転職に挑戦したことがある人なら、必要となるエネルギーの大きさを実感しているはずです。だからこそ、精神的に落ち込んでいる時に挑むのは危険です。自分に自信がなかったり、体調がすぐれなかったりする状態で面接に臨むと、声のトーンや表情にその暗さがにじみ出てしまい、面接官に「エネルギーレベルが低い人」と思われてしまうのです。
特に、仕事を失ってから転職活動をしている場合は、そのプレッシャーは想像以上です。応募しても書類で落とされ続けたり、一次面接まで進めても連続して不採用になったりすると、「また断られた」という経験が積み重なり、自分自身の存在まで否定されたような気持ちになります。
人間は繰り返し拒絶を経験すると、本当に自信を失ってしまい、負のスパイラルに陥ってしまうのです。そんなときに必要なのは、「なぜ受からないのか」を冷静に分析すること。例えば、キャリアチェンジを狙っているが経験が不足している、背伸びしすぎたポジションばかり狙っている、給与希望が相場より高すぎる──こうした理由が隠れていることも少なくありません。理想に固執せず、少しポジションを下げてでも早めに職に復帰することが、メンタルを守る意味でも有効なのです。
一方で、現職に就きながら転職活動を進める場合は、時間的にも精神的にも余裕があります。最大の強みは「今すぐ決めなくても良い」という安心感です。だからこそ、焦って妥協するのではなく、自分の経験を最大限に生かせるポジションをじっくり探すことができます。とはいえ、この場合でも三ヵ月程度結果が出ないと、人によっては焦りが出てきます。スタッフ職なら三ヵ月、マネージャークラス以上なら半年近くかかることも珍しくないと考えて、腰を据えて臨む必要があります。
外資の面接では、通常の面接に加えて英語面接が課されることが多く、準備の負担は大きくなります。疲れや焦りは、母国語以上に外国語ではっきり表れてしまうものです。だからこそ、「いま自分は元気に取り組めているか」を常に確認し、必要なら一旦活動を休むことも選択肢に入れるべきです。
同じことを考え続けると、人は視野が狭まり、思考が堂々巡りしてしまいます。そんな時こそ一度立ち止まり、心身をリフレッシュさせることが、結果的には最短ルートになるのです。また、親しい友人や先輩で口の堅い人に話を聞いてもらうことで、頭を整理したり自信を取り戻したりすることも助けになります。
そして肝心なことは、一喜一憂しないことです。第一志望の会社に面接で落ちたとします。がっかりするのは人間として当たり前の感情ですが、本当にがっかりすべきかは入社してみないとわかりません。「良い会社に見えている」ということはあり得るからです。
以前、米系製薬会社を受けた時のこと。非常に気に入ったのですが、一次面接後お断りが入り気落ちしたことがあります。でも半年後、その会社はM&Aで買収される側であることがわかりました。面接が進んでいた頃、M&Aは確定していて労働組合と対峙した経験がある人事部長を探していた会社は、私のことを落としたわけです。あの時、受かっていたら私のメインの仕事は人員整理になるところでした。ご縁なくて本当に良かった実例です。
外資への転職活動は、自分自身の心の強さを試される場でもあります。私がExecutive Search Firmで見た二人の候補者──片方は堂々と、もう片方は自信を失っていた──その対比は、今も強く記憶に残っています。そして改めて思うのです。転職活動において最も大切なのは、スキルや経験だけではなく、「自分を信じてやり抜くメンタルの強さ」なのだと。これも良い経験と割り切り、自分を励ましながら転職活動をエンジョイしてください。

Xでも毎日発信しています。 ID: @Mikako_Suzuki 良かったらフォローしてください。
グローバル・キャリア・カウンセラー /(株)AT Globe 代表取締役
日本GEの人事でキャリアをスタートさせ、モルガン・スタンレー、イートンのアジア・パシフィック本部などを経て、日本DHLの人事本部長に就任。1万人を面接した自身の転職経験と英語や異文化と格闘した体験を元に、外資への転職を希望する方・外資でキャリア・アップしたい方を全力でサポート。
英検1級、TOEIC960点。iU情報経営イノベーション大学・客員教授。ルミナスパーク・リーダー認定講師、STAR面接技法・認定講師、ホフステード異文化モデル公認講師
NY生まれでオーストラリア居住経験あり。映画とコーヒーが大好き。
著書「やっぱり外資系がいい人のAtoZ」(青春出版社)
「英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業出版社)
強みを活かし個の力を最大限に発揮できるグローバル人材を、一人でも増やすことで母国の発展に寄与することをミッションとする。 企業向けには異文化理解・海外赴任前研修を、個人向けには外資への転職サポートを提供。