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IT人材獲得のツールとなるデジタルノマドビザ

デジタルノマドについて書いてから一年が経ち、その間にデジタルノマドビザ(DNV)を発行する国も一気に増え、すでに60ヵ国ほどに達しています。

一番最近では、先週、スリランカがビザの発行を閣議決定しました。申請料は500米ドルですが、配偶者や子供にも適用されます。スリランカは、元々、観光で最高270日まで滞在できるので、一年滞在するためにわざわざ500ドル払う必要があるのか、と思うデジタルノマドは多いでしょう。

ヨーロッパでは、先月、チェコがDNVを発行することになり話題になっています。ただし、DNVの申請ができるのは、日本や台湾、韓国を含む8ヵ国に限られます。それも、大学での専攻がSTEM(science, technology, engineering, mathematics)、またはIT分野で3年の実務経験がある人で、かつ社員数が50人以上の外国企業に勤務しているか、フリーランサー(チェコの営業免許要)であること、さらに、月収がチェコ平均月収の1.5倍、2700ドル以上あることという条件があります。

チェコとしては、国内で不足するIT技術者を補いたいと思惑があるようです。「外国企業で働いているから、国内のIT人材の補給にはならないよね?」と思うのですが、カナダのように、その先まで見込んでいるのではないでしょうか。

カナダでも、今年中のDNVの発行を進めていますが、滞在期間は半年と他国よりは短いものの、滞在中にカナダ国内で就職先を見つければ、そのまま滞在できるという特典付きです。「カナダ国内で仕事のオファーがあろうがなかろうが、世界の優秀なIT人材がカナダで働けるようにする」とカナダ政府も発言しています。

2021年に法案が議会に提出されたスペインでも、やっと今年1月からデジタルノマドが使えるビザの発行が開始されました。スペインの場合、「スタートアップ法」の下、やはりフリーランサーか外国企業で勤務するリモートワーカーにビザが発行されますが、フリーランサーの場合、所得の2割を上限として、地元の企業にサービスを提供できるという点がユニークです。(大半のDNVは、地元の雇用、就労機会を奪わないことを原則としている。)

スペインに入国後、3年の在留許可が得られ、在留許可(residency card)を得ると、EUのどこにでも滞在できるようになるのは、大きなメリットでしょうね。早くからDNVの発行を開始したクロアチアも、今年EUに加盟しましたから、やはりDNVを取得すればEU内を自由に行き来できるというのは魅力です。

日本政府も、6月の「骨太の方針」で、デジタルノマドの呼び込みのために、年内に制度化することを決定しました。

すでに、日本に2~3ヵ月滞在している外国人はいますからね。「ビザランしたら、さらに90日、滞在できる?」とデジタルノマドのオンラインコミュニティで質問している人もいます。(※1) 元々、イギリスやドイツ、メキシコなど7カ国の人は、ビザ免除で半年、滞在できます。(入国時には90日の滞在許可しか与えられないが、入国管理局に行けば、簡単に90日間できる。)

躍起になる理由

各国がDNVの発行に躍起になるのは、まずデジタルノマドの方が滞在期間が長い分、観光客より地元に落とす金額が多いため、地元経済への貢献が期待されるからです。また、リモートワークができるということは、ITを活用できるホワイトカラーの就業者であり、比較的所得が高い分、出費も多くなることも期待されています。

さらに、上記で見たように、DNVはIT人材の争奪のツールとしても利用されつつあります(成果は、まだ不明だが)。IT技術者の不足は世界的な現象で、各国、あの手この手で、人材を呼び込もうとしています。ただし、今年、欧米人のデジタルノマドを調査したアンケートでは、19%はIT関連ですが、メディア・広告・マーケ関連も19%で、IT関連者がずば抜けて多いわけでもなさそうです。

なお、一年前に書いたように、デジタルノマドが増えると地元の家賃が高騰するなどのマイナス面もあります。

人気のDN先

先の調査では、欧米人デジタルノマドがお気に入りの渡航先は、圧倒的にポルトガル(27%)で(自治州でデジタルノマド・ビレッジの7位のマデイラを含めると31%)、タイ、スペイン、アルゼンチン、メキシコが続きます。ただし、次に渡航したい国としては、今年からDNVの発行を開始したスペイン(15%)を筆頭に、ブラジル、マデイラ、スリランカ、タイの順でした。(マデイラを含めるとポルトガルは21%なので、やはり一位。)

渡航先を決める際の要因では、ダントツでコスト(47%)が一番で、太陽(15%)、安全性(12%)、Wifi(9.4%)、優れた医療(6.1%)がトップ5です。ノマドかどうかにかかわらず、渡航先として生活費の安い東南アジア(とくにタイ)に人気があるのは、この点が大きいですね。ポルトガルは、日本と変わらず、物価(および賃金)が安いですし、ヨーロッパの中では気候が温暖なため、以前から避寒地として人気です。

以前、書いたように、会社員が海外でノマドするにはハードルが高く、この調査でも、会社員は32%のみで、残りはフリーランサー、起業家・会社経営者、自営業者です。アメリカ国内の調査によると、海外でのノマドを禁止する企業が多いためか、デジタルノマドの半数以上が国内でノマドをしているそうで、「一年、海外で過ごすつもり」というのは10%のみでした。なお、勤務先に内緒でノマドしているのは3割ほどのようです。

また、会社員であるデジタルノマドの一番の心配は、「雇用主が許可してくれるか」「雇用主にバレないか」なのですが、その次に多いのが「滞在先と勤務先(または契約先)との時差にどう対処するか」というものです。「アジアに滞在しながらアメリカの勤務時間に、どうやって対応している?」(昼夜が逆になるので)という質問は、オンラインコミュニティでも、よく見られます。

そのため、アメリカ人デジタルノマドに人気なのは、時差の問題がないメキシコやコロンビアなのです。メキシコにはDNVはないですが、以前から1年滞在できる一時居住ビザがありますし(現地での就労は不可)、コロンビアは、昨年、DNVの発行を開始しました。

ノマドというより海外移住?

最後に、先の欧米人デジタルノマドを調査したアンケートでは、半数が各渡航先での滞在期間が4カ月以下で(1~2ヵ月が29%)、8~12ヵ月というのは5.5%、一年以上というのは4.5%のみです。DNVを取得するには、取引先との契約書や所得証明などが必要で面倒ですので、滞在が一年未満であれば、わざわざ申請しないと思います。

そもそもノマドというのは、元々、遊牧民という意味なので、一ヵ所に一年滞在しても「ノマド」と言えるのか… 一ヵ所に一年滞在したいという人は、ノマドというより、海外移住に興味がある人ではないのかという気もします。そうであれば、人材獲得としてDNVを発行するという各国政府の思惑は的確と言えそうです。

(※1)Visa runとは、その国での滞在許可を延長を目的として他国に出国し、再入国すること。

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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