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将来は週休3日がニューノーマルに?

日本政府が推進している「働き方改革」ですが、コロナの影響もあり、今年、政府は骨太の方針に「選択的週休3日制」を盛り込みました。

最近では、塩野義製薬やみずほファイナンシャルグループが、選択制週休3日制の導入を発表して話題になりました。実際には、日本では、2015年に、すでにファーストリテイリングが、全従業員の2割にあたる転勤のない地域正社員に対し、1日10時間の週4日勤務を導入していますし、佐川急便も、ドライバー不足を解消するために、2017年にセールスドライバーが週休3日を選択できるようにしています。他にも、コロナ以前から週休3日制を導入している日本企業が数々あります。

国家主導の国も

一方、ヨーロッパでは、国家主導で週休3日制を導入する国が相次いでいます。アイスランドでは、2015年から2019年にかけて、労働組合などの要望で、首都と国によって週休3日が試験導入されました。目的は、ワークライフバランスの向上だけでなく、生産性の維持・向上でもあり、給与はそのままで、週40時間勤務が週35~36時間勤務に短縮されました。 

労働時間を短縮しながら生産性を保つために、各企業では、会議よりもメールでのやり取りを奨励するなどして会議を減らし(午後3時以降の会議は禁止した職場も)、休憩時間も短縮して、プライベートの用事は勤務時間外に限定するなどの策が講じられました。

試験導入の結果が発表されたのは、今年6月なのですが、週休3日で生産性を保ちながら、就労者の健康や幸福感、ワークライフバランス向上させることができたそうです。今では、就労人口の86%が、労使交渉を通じ、実際に労働時間を短縮したか、短縮する権利を得ています。

今回のパンデミックをきっかけに、週休3日制を導入する国も出てきています。今年に入り、スペイン政府が、3年にわたる週休3日の試験導入を決定しました。週休3日の試験導入が全国規模で行われるのは、スペインが初めてとなり、イギリスなど導入を検討している国が注視しています。最近では、スコットランドが週休3日制の試験導入を発表しましたが、現政権が選挙公約と挙げていたもので、給与は変わらず、労働時間を2割短縮するという試みです。

成果が同じであれば給料は変わらない

日本では、社員が週休3日制を選択した場合、勤務時間に合わせ給料が減額されるという企業が多いようですが、ヨーロッパでは(かつ企業主導のアメリカも)週休3日を導入しても給料は変わらない企業の方が一般的です。一日の勤務時間も増えず、週32時間勤務に減らしているケースも見られます。

「成果が変わらなければ給料を下げる必要はない」という考え方です。多くの企業が、週休3日制を導入する理由として、「社員がコロナ禍でストレスを抱えて疲れているため、休みを増やすことでリフレッシュしてもらい、出社時には、よりよい形で仕事に集中してもらうこと」を挙げています。社員のメンタルヘルスやライフワーク・バランスを考えてのことで、結局は、それによって社員の生産性が増し、会社の収益につながるからです。

日本で、今春、行なわれた20代を対象にしたアンケート調査では、「給与が維持されるなら週休3日制を利用したい」と答えた人が69%で、「給与が減っても利用したい」という人も20%いました。
「成果が変わらなければ給料を下げる必要はない」を実行するには、勤務時間をベースとしない人事評価であることが前提ですが、働く側も、これまでと同じ仕事の量を短い時間でこなすための努力が求められます。「勤務時間が短くなるなら、これまでと同じ量の仕事はできません」というのなら、給料が減っても仕方がないということになります。

ニュージーランドの企業では、週休3日制導入後、自然に会議は減り、社員によるソーシャルメディアの利用も減ったと言います。仕事に集中するために、机に「邪魔しないで」という旗を挙げる社員もおり、短い時間で仕事を終わらせるために、社員同士の雑談も減ったというのです。勤務時間の短縮によって、効率的に働くことに対し、社員側にもインセンティブが生まれたと言えます。

将来のニューノーマル?

今では定着している週休2日ですが、その始まりは、1926年、ヘンリー・フォードが長時間働いても、生産性はそれほど伸びないことを知ってから、フォードモーター社で週5日、一日8時間勤務を導入したのがきっかけだと言います。なお、それまでに比べ、勤務時間は減ったものの、給料は変わりませんでした。日本では、1965年に松下電器産業が導入し、その後、80年代に広く普及しました。

アメリカでは、週休3日制を導入している企業にはスタートアップ企業が多いのですが、「頭を使う仕事では、週に30時間働くと疲れる」「人間の頭脳は、一日に4時間以上は深い思考が必要な作業はできない」といった研究結果を創業者が目にして導入するに至ったというケースが見られます。

週30時間勤務でも、週40時間勤務と同じ成果を得られる一方、週30時間勤務の方が社員の幸福感が高いという結果が多々、報告されています。生活の質が向上すると同時に、先述のように勤務時間が限られているため、社員の仕事への集中度も向上するというメリットがあるようです。

週休2日が世界的に広がったように(新興国には土曜出勤の国も多々ありますが)、アメリカで100年前に始まった慣習が、時代の流れとともに変わり、21世紀には週休3日制が定着することになるかもしれません。

ちなみに、日本では「週休3日制」という表現が一般的ですが、英語では「週4日勤務」を意味する”4-day workweek”と表現されます。これに関する例文は、また後日にでも。

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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