Global Career Guide
最近、アメリカでよく聞かれる表現に”quiet quitting”があります。元々は10年以上前に生まれた言葉なのですが、最近、TikTokで流行り、ミレニアム世代を中心にソーシャルメディアを通じて世界に広がりました。
一見、「Quiet quittingって、黙って仕事を辞めること?」と思う人は多いようで、日本語でも「静かな退職」と訳されていますが、それだと”ghosting”(バックレ)と同じような意味?ということになります。そうではなく、”quiet quitting”とは「職場で最低限の仕事しかしない」「仕事に生きない」という意味です。
Quiet quitting is doing the bare minimum at work, stop putting in that extra effort.
(Quiet quittingとは、必要以上に努力することをやめ、最低限の仕事をすること。)
You aren’t quitting your job, but you are quitting going above and beyond your duties—you refuse to answer emails after work hours or go for drinks with your co-workers after work.
(仕事を辞めるわけではなく、勤務時間外にメールに返信したり、仕事が終わった後、同僚と飲みに行ったり、自分の責務以上のことをすることをやめること。)
Quiet quitting is dropping out of the rat race and doing just enough work to collect one’s paycheck.
(Quiet quittingとは、出世競争から降りて、給料をもらうために必要なだけの仕事に徹すること。)
仕事よりもプライベートを大事にする、ということで、下記のようにも表せます。
I’m living for the weekend.(週末のために生きている。)
I’m watching the clock. (時計を見つめている=時間ばかりを気にしている= 終業時間が待ち遠しい。)
Work is just a paycheck(仕事は、ただ給料をもらうためのもの、生活の糧にすぎない。)
「与えられた仕事だけをこなす」=「怠けている」「やる気がない」と解釈する人もいますが、いい意味でとらえれば、下記のように言うこともできます。
Quiet quitting is setting boundaries at one’s workplace for better work-life balance.
(Quiet quittingとは、ワークライフバランスの向上のために、職場で[これ以上はやらないという]一線を引くこと。)
Employees shouldn’t be ashamed or accused of quiet quitting because they want to have a life.
(人生を楽しむために仕事に生きることをやめることを社員が恥ずかしく思ったり、批判されるべきではない。)
Quiet quitting is becoming the new normal. (Quite quittingが、ニューノーマルになりつつある。)
動詞として使う場合は、”quiet quit”になります。
Goodbye, hustle culture. I’m going to quiet quit.
(仕事至上主義にサヨナラ。私は、仕事に生きることをやめる。)
Workers feeling stuck in their jobs are beginning to quiet quit their jobs.
(仕事で行き詰まりを感じている労働者が、仕事に生きることをやめ始めている。)
また、”quiet quit”する人は、”quiet quitter”と呼ばれます。
Quiet quitters don’t work a penny or minute over what they think that’s worth.
(Quiet quitterは、その価値がある以上のことは一銭たりとも、一分たりともしない。)
Quiet quitters shouldn’t expect a raise or promotion.
(Quiet quitterは、昇給や昇進はあきらめるべきだ。)
生きがいを趣味など仕事以外に見つけて、仕事は生活の糧と割り切り、昇給や昇進などは目指さず、職場では最小限をこなすという人は、昔からいます。しかし、最近、こういう人たちが増えたのには、コロナが影響していると言われています。
コロナ禍で、自分の人生を見つめ直し、自分にとって本当に大事なのは何なのか、どのように人生を送りたいかを自問した結果、「仕事優先の生活はイヤだ」という人が増えたということです。以前、取り上げた”Great Resignation”(大退職時代)と同じ傾向です。
こうした傾向はアメリカだけではなく、世界的に見られます。2021年から2022年にかけて160ヵ国以上を対象に行われたアンケート調査では、「職場でエンゲージしている(engaged)」と答えたのは、就業者の21%のみでした。(engaged = 興味、やる気をもって自発的に取り組む姿勢)
また、コロナ禍が勃発した2020年には、「日々、多くのストレスを感じている」という人は43%と、それまでの最高を記録したのですが(2019年には38%)、2021年には、さらに上昇して44%に達しました。大半の人が「自分の仕事に意義があると思わない」「自分の人生はうまく行っていない」「将来に対して希望が持てない」と答えています。
労働市場は、今、売り手市場ですが、今後、大方の予想通り世界的に不景気になって、労働市場が変化しても、quiet quittingが続くのかどうか… 一時のトレンドなのか、それとも定着するのでしょうか。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。