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ユーゴスラビアの崩壊について書いてきましたが、西側の人々は「共産主義が崩壊し、民主主義になってよかったね」と思う人が多いのではないでしょうか。しかし、旧ユーゴスラビアの人には、「ユーゴスラビア時代は、よかった」と懐かしむ人も少なくないのです。こうした現象は「ユーゴノスタルジア(Yugo-nostalgia)」と呼ばれています。
2016年に行われたアンケート調査では、「ユーゴスラビアの解体は、有益だったか、有害だったか」という問いに対し、国ごとに下記のような回答結果となりました。
有益 | 有害 | 失業率(2018年/2019年) | 人口 | |
セルビア | 4% | 81% | 12% | 690万人 |
ボスニア・ヘルツェゴビナ | 6% | 77% | 16% | 330万人 |
モンテネグロ | 15% | 65% | 17% | 63万人 |
北マケドニア | 12% | 61% | 17% | 200万人 |
スロベニア(2014年調査) | 41% | 45% | 5% | 200万人 |
クロアチア | 55% | 23% | 7% | 400万人 |
コソボ | 75% | 10% | 31% | 180万人 |
(Gallupの世論結果結果に失業率と人口加筆)
セルビアやボスニア・ヘルツェゴビナでは、若い世代も含めて、「ユーゴスラビアの解体は有害だった」と見る人たちが大多数です。
私の方で失業率を加えたのは、昔を懐かしむ傾向と、現在(ユーゴ解体後)の経済状態との関係を見るためです — 国の経済がうまく行っていない国ほど、昔を懐かしむ傾向があるということを。
「ユーゴスラビア時代はよかった」と思う理由は、社会主義の下、医療や教育が無償で社会保障が行き届き、貧富の差がなく、誰も生活に困ることがなかった、つまり「今より、よかった」という点です。また、(少なくとも表面的には)「複数の民族が仲良く共存できていた」ことを挙げる人もいます。
失業率が一番高いコソボだけは例外で、これは念願の独立を果たすことができたからでしょう(一部の国にしか承認されていませんが)。
しかし、いち早くユーゴスラビアから独立し、生活水準も西欧並みのスロベニアですら、半数近くの人が「解体は有害だった」と考えているのが意外です。スロベニアは、当時から製造業が発達し、人口ではユーゴスラビア全体の8%しか占めていなかったにもかかわらず、GDPの20%、輸出の30%を担っていました。そのため、コソボなどの貧しい地域を経済的に支えることを嫌がったのです。また、住民の90%がスロベニア人で、民族が入り混じった西バルカンの民族対立に巻き込まれるのを嫌ったという点もあります。
どの民族も、人口が一番多く優勢なセルビア・セルビア人に支配されたくないというのもあったのですが、バルカンでは優等生のスロベニアも、西欧の大国主導のEUでは影が薄い…
一方、ユーゴスラビア時代を覚えていない若者には、このノスタルジアをビジネス利用する人たちもいます。
セルビアでは、当時の住宅を再現したゲストハウスが人気を呼んでいます。部屋はユーゴ時代のレトロなデザインで、当時のユーゴ製の家具や日常雑貨などが並んでいます。旧ユーゴ国だけでなく、世界各地から訪れる観光客で予約はいっぱいだそうです。
そして、1980年代にアメリカでも走っていたユーゴ製自動車「Yugo」に乗って、ユーゴスラビアの史跡を巡る観光ツアーも人気です。
「ユーゴスラビアが解体してよかった」という人が多いクロアチアでも、昨年、故チトー大統領の別荘があったヴァンガ(Vanga)島が、大統領の死後38年ぶりに一般公開され、見学ができるようになりました。故大統領が所有していたキャディラックにも乗れるそうで、中国人観光客に人気のようです。
モンテネグロの首都、ポドゴリツァ(1992年にTitogradからPodgoricaに改称)では、2018年に故チトー大統領の銅像が公共の場に戻されました。チトー大統領は独裁者とされ、最近まで銅像などはすべて公共の場から撤去されていたのですが、この銅像も、今では新たな観光スポットとなっています。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。