Global Career Guide
前回、休暇中も働くというWorkationについて書きましたが、一方、「旅行しながら働きたい」という若者も世界的に増えているようです。
過去のものとなってしまった安定雇用、いつクビを切られるかもわからないのに休暇もなかなか取れない職場—そうした中、仕事と生活のバランス、柔軟なワークスタイルを求める若い世代が増えているのです。「仕事に追われて旅行もできないのはいやだ」という人や、「どうせ働くなら、ビーチやエキゾチックな異国で」「日常の喧騒から離れた方が仕事に集中できる、いいアイデアが生まれる」という人もいます。
こうしたノマドワーカーを支援するビジネスも登場しており、IT環境完備のオフィススペースを共有し、一種の協働コミュニティを形成する「コワーキングスペース」は日本でも各地にできていますが、インドネシアのバリやスペインのカナリア諸島など世界的な観光地でも、次々にコワーキングスペースが登場しているのです。こうした観光地のコワーキングスペースで働きながら休暇も楽しむことを意味するCo-working holidays(コワーキング休暇)という言葉も生まれています。
そうした各地のコワーキングスペースと提携し、世界中からノマドワーカー希望者を募ってツアーを企画運営するビジネスも登場しています。
2014年にコスタリカを第一弾として始まったHacker Paradiseは3ヶ月ごとのプログラムで、1ヶ月ごと違う国を訪れるのですが、2週間から参加可能です。今年6月、初のツアーを開始したRemote Yearでは、1年かけて11カ国を回るという長期プログラムを提供しています。どちらもヨーロッパ、東南アジア、南米を回り、日本も含まれています。
Hacker Paradiseでは、旅費は個人負担で、2~3週間参加の場合、宿泊費込みで850ドル、Remote Yearは、旅費や宿泊費込みで年2万7000ドルです。
「そんなに料金を取られるなら、自分で旅行した方が安上がり」と思う人もいるでしょう。
しかし、こうしたプログラムが、一般の旅行と違う点は、キャリアに重きを置き、そのための労働環境、支援体制を整えている点でしょう。
彼らは各地でオフィススペースだけでなく、グループで協働し、助け合う環境、つまりノマドワーカーのコミュニティを提供しているのです。各自が抱えているプロジェクトに協力したり、労働(スキル)をバーターしたり、アイデアを交換でき、また他のメンバーも面白いプロジェクトに携わっているため、参加者にとっては、いい刺激になるわけです。
たとえば、Hacker Paradiseでは、参加者は、毎週、個々の目標を設定して発表し、目標達成のために他のメンバーがいかに協力できるかをアドバイスするといった仕組みを設けています。また、自分の仕事やプロジェクトをプレゼンし、グループからフィードバックを得ることも可能です。
さらに、孤独な一人旅と違い、仕事の後はお酒を飲んだり、旅行をしたりする仲間がいるのも魅力のようです。
ただし、申し込めば誰でも参加できるわけでなく、審査過程があります。Remote Yearでは、フルタイムの仕事があることが条件で、ただ旅行がしたいという人は受け付けていません。短期プログラムのHacker Paradiseでも、参加前に自分でプロジェクトを用意することが条件です。どちらも仕事の斡旋はしていません。
Remote Yearでは2万5000人が応募し、1500人がエッセイを提出した後、300人近くが面接を受け、最終的に参加したのは75人という狭き門です。
参加者の年齢は22~49歳で、半数以上をアメリカ人が占め、残りは14カ国から参加してます。Hacker Paradiseと同様、ソフト開発者やウエブデザイナーなどのIT従事者が半数を占めているようです。75人中35人がグーグルやマイクロソフトなど大手企業勤務者で、残りはフリーのライターや自営業者、小規模企業勤務者ということです。サラリーマンの場合、勤務先の許可が必要で、中には勤務先から許可が出ずに参加を断念した応募者もいるそうです。
1年参加するのですから、相当の覚悟が必要でしょうが、短期のHacker Paradiseは旅行気分で参加できそうです。興味がある人は、まずはHacker Paradiseに挑戦してみてはどうでしょうか。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。