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隣の芝生は青く見える(2)- イギリス

今年になり3%まで落ちたものの、2022年に11%超、2023年も7%という激しいインフレに見舞われたイギリスでは、今も「生活費危機」が叫ばれています。昨年の調査では、(労働者階級の)大学生の3割以上が食事の回数を減らしていたのが、今では、最高3日、食事にありつけず、キャンパス内のフードバンクに頼らぜるを得ないという学生もいるそうです。

昨年、インフレに見合った待遇の改善を求め、教師や医療従事者、鉄道運転士など公務員によるストが、過去10数年で最大規模で行なわれました。イギリスの国民保険サービス(NHS)は、長年の予算削減で、質の低下、待ち時間の長さ(生死にかかわらない手術は1年以上待ち)、人員不足などが問題となってきましたが、近年、さらに悪化しています。「イギリスが直面している懸念事」に関する世論調査では、割合的に「NHS」は常に上位(30%)なのですが、今年3月には「インフレ」(29%)を抜き、1位となりました、

なお、先月8月に行われた調査では、その「NHS」(30%)を抜いて、8年ぶりに一位に踊り出たのが「移民」(34%)でした。これは、8月初旬に起きた反移民デモ・暴動、それに続いた移民排斥への抗議デモが影響していると思われます。同時に「犯罪・法と秩序」(25%)が懸念事として大幅に増加し、「経済」(29%)に次いで4位となりました。

壊れたイギリス

イギリスでは、数年前から「イギリスは終わった」という声が聞かれるようになり、”Broken Britain(壊れたイギリス)”といったキャッチフレーズまで生まれています。(健康、教育、交通、インフラなどを基に自治体307の「壊れ度(The Broken Britain Index)」を算出している団体あり。)たとえば、昨年、築30年以上の学校施設は崩壊の恐れがあるため(2018年に実際に崩壊した学校が)、100校以上が閉鎖されました。

こうした傾向は、アンケート調査にも表れており、「イギリスの状態は、過去より悪化している」という人が76%で、2017年に比べ9倍以上に増加しています。「社会契約(国と国民の関係)は破綻している」という人は62%、「イギリスでは、もう何も功を成さない(救いようがない)」という人も58%に達しており、6年前の何倍もに増えています。

また、「自分の人生の方向性を自分で何とかできると思えない」という人も、半数近く(48%)にのぼっており、「イギリスの将来を楽観視している」に同意する人は3割で、同意しない人が4割を超えています。「大半の国に比べ、イギリスは将来への準備ができていない」という人も57%に達しています。

ロンドン vs 東京

先週、日本での金銭事情に関するオンラインコミュニティで「東京とロンドンで仕事のオファーをもらったが、どちらにも住んだことがある人に聞きたい。生活水準に大きな違いはあるだろうか?ロンドンの方が物価が高いので、東京での生活水準を保つにはロンドンではいくら稼がないとダメかな?近いうちに自宅を購入したい」という投稿がありました。

オフォーがあったのは、どちらも金融の仕事で、年収は東京が年収1350万円で、ロンドンが9万5000ポンド(1800万円近く)ということです。この30歳の独身男性は、今、東京在住らしいですが、ロンドンにも住んだことがあり、日英両語とも流ちょうに話せるそうです(海外育ちの日本人のもよう)。

「どちらにも住んだことがある」という人が20人ほど返答し、キャリア的には「ロンドンの方がキャリアアップできる」というものの、大半の人が「東京の方が質のいい生活ができる」「生活費はロンドンの方が2~4割高い」「その給料で、ロンドンで家を買うのは、ほぼ無理」という意見でした。

ロンドン出身という人も何人かいて、「その給料だったら、東京の方がずっといい生活ができる。東京で、年収1000万でも王様のような暮らしができたけど、その後、給料が上がって、もっといい生活をしをしている。」

「ロンドン出身だけど、東京を選んで後悔したことはない。生活費、旅行のしやすさ、それに日本文化を体験でき、安全で(刺されたり、強盗にあったり、子供が襲われたりするのを心配しなくていいのは大きい)、すべての面で東京の方が生活の質が高い。」

東京に9年住んでいるというオランダ人は、「15年前にロンドンに住んでたけど、当時でもロンドンの方がはるかに物価が高かった。今は、それ以上。それに、生活費を別にしても、社会的騒乱や政治混乱で、ロンドン、イギリスでの生活はあんまりだね。 東京はクリーンだし、食文化は優れているし…」

「迷うことなく東京だね。刺傷、刺傷、刺傷というのが、ロンドンの生活」「ロンドンは、汚くて、壊れてて、犯罪多発」という声もありました。* 

富裕層の脱出

イギリスでは、以前から、スペインなど暖くて天気のいい国に移住する人が多く(東南アジアや南アジアにもたくさん)、また芸能人などの超富裕層は、税金が安めのアメリカに移住する人が多いのですが、最近では、富裕層の海外移住がより顕著になっています。

今年6月までの富裕層の純移住数をベースにした今年一年の純流出数では、世界的に中国(-15200人)に次いで2番目に多かったのがイギリス(-9500人)でした。**

7月に行なわれた総選挙で、14年ぶりに労働党(左派)が政権を奪還しましたが、新政権は「国の再生と国民のために尽くす政治に戻るための変革」を掲げ、「所得税や消費税は増税しない」と発言しています。そのため、今秋、提出される予算案では、富裕層への増税(とくにキャピタルゲイン税と相続税)が行なわれる恐れから、選挙後、海外移住コンサルタントへの富裕層からの相談が急増しているそうです。

今年、イギリス人とフランス人を対象に行なわれた調査では、富裕層の44%が「選挙の結果で、海外移住の可能性が高まった」と答えています。なお、若い富裕層(18~34歳)に人気の移住先は、一番がアラブ首長国連邦(UAE)という結果でした。(富裕層全体ではアメリカが人気だが、もしハリス副大統領が米大統領になれば、超富裕層に対し増税するらしいので、アメリカは避けられるか?)スペインやアイルランドも、イギリス国外の資産には課税しないので人気の移住先です。

* 一番面白いコメントは、「そのオファー、どうやってもらったの?」

** 同調査での「富裕層」(High Net Worth Individual or Millionaire)の定義は、投資可能な流動資産100万ドル保有者(つまり不動産は含まれない。)なお、純流出数3位がインド、4位が韓国、5位がロシア。純流入数400人の日本は、富裕層移住先10位。

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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