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隣の芝生は青く見える(1):カナダ・オセアニア

前回はアメリカの状況について書きましたが、今回は他の英語圏に目を向けたいと思います。数カ月前に、カナダやオーストラリアなどで学生ビザの発行が厳格化されていることを書きましたが、その背景にあるのが、住宅価格や家賃の高騰による住宅危機(housing crisis)です。

カナダ

カナダの住宅価格の高騰はアメリカより激しく、かつ給料はアメリカほど高くありません。家を購入するには、2023年時点で全国平均で世帯収入60%が必要でしたが、バンクーバーでは98%、トロントでは80%必要と言われています。そのため、やはり若い世代は自宅の購入はあきらめざるを得ません。

「年収10万加ドル超でも、家賃と生活費ですべてなくなり、まったく貯金ができない」とぼやく人は多いですが、トロントでは、家族4人が生活するには年収25万加ドルが必要であると言われています。

従来、移民先として世界的に人気で、未だにネットの検索でも「移住したい国」でカナダが一番人気なのですが(次いで日本)、2022年の調査では、近年、カナダに移民した人たちの35歳未満の30%、大卒以上の23%が「2年以内にカナダを去ると思う」と答えました。その理由として、18~34歳の75%が「高騰する生活費」を挙げています。

また、80%以上が「カナダ国外での資格や経験を考慮してくれない」ため、仕事が見つからないと言います。たとえば、カナダで医師免許を取得しても、海外での医師としての経験が考慮されないため、医師として仕事に就けない人が多いのだそうです(医師や看護師の不足が深刻なのに)。インドでエンジニアをしていた人が、カナダでエンジニアとして就職できないので、タクシーの運転手や警備員をしているといったことは珍しくありません。

カナダからの移住先としてダントツなのが隣国のアメリカなのですが、2022年には、過去最高の12万人以上がカナダからアメリカに移住し、10年で7割増加しています。そのうち42%はカナダ生まれ(コロナ前の50%増)、33%はカナダからアメリカに戻ったアメリカ人、そして24%はカナダに移民した後、アメリカに移住したという人たちです。

アメリカに移住するカナダ人には、高学歴、高スキルの人が多く、その理由として、アメリカの方が就労機会が多く、給料が高く(とくにITと医療)、税金が安いという点があります。(たとえば、両国で不足している看護師などは、アメリカが積極的にカナダからリクルートしている。)カナダ人に人気の南の暖かい州では、米加の両海岸ほど住宅価格が高くないのも魅力のようです。(アメリカ国内でも、住宅費のバカ高いニューヨークやカリフォルニアは人口が減っている。)

・国が崩壊?

「ここ8~10年でカナダは大きく変わった」*「もはや昔のカナダではない」という声はよく聞くのですが、今年6月に行なわれた世論調査では、回答者の7割が「カナダは崩壊している」と答えました。18~34歳の若い世代では、78%に達しています。

過去12ヵ月、一人あたりの実質GDP成長率がマイナスで、生活水準の低下が憂慮されています。なお、イギリスと同様、カナダでも公的医療の崩壊が社会問題となっています。

ネットコミュニティでも、日本や他国に住むカナダ人が「カナダに戻ろうと思う」と投稿すると、カナダ在住者から「やめておいた方がいい」というコメントが寄せられます。

さらに、最近では、失業率が6%を超えており、「何ヵ月も仕事が見つからない」という声が増す中、カナダ政府は、短期の労働ビザの発行数の削減を発表しています。(国連に外国人労働者の奴隷化を指摘されたこともあるが。)

オーストラリア

カナダと同様、流入移民の増加が住宅危機を引き起こしていると学生ビザの発給を削減したオーストラリアですが、やはり住宅価格の高騰で、若い世代が家を購入することができなくなっています。また、生活費の高騰で、親と同居する若者が増えており、18~29歳では3割以上が親と同居しています。

2023年の調査では、消費者の50%が「2022年に比べ経済的に苦しい」と答え、複数の仕事を掛け持ちする人の割合も過去最高に達しました。また、オーストラリア各地で万引きが1年前に比べ29%増加し、これも記録的な数字だそうです。

オーストラリアからは、従来、英連邦のイギリスやカナダに移住するケースが多いですが(その逆の方が多いが)、距離的に近い東南アジアを目指す人が多いのが特徴でしょうか。ちなみに、オーストラリアのデジタルノマドの間では、タイに次ぎ、2番目に人気があるのが日本です。

ニュージーランド

今年になって聞かれるようになったのが「ニュージーランドを去る人が増えている」というニュースです。ニュージーランドも経済低迷で失業率が上昇し、海外に移住する人が過去最高にのぼっています。今年去った人たちの13万人のうち6割がニュージーランド市民で、コロナ前の倍に達しています(同国の人口は530万人)。一番多いのが、やはり25~44歳のZ世代とミレニアル世代です。

なお、最大の渡航先は、隣国オーストラリアで(13万人のうち34%)、就労機会が多く、給料が高いというのが理由ですが、オーストラリアでは、看護や教育など人材不足の分野で積極的にニュージーランド人をリクルートしています。(医療分野は、世界的に人材争奪合戦が繰り広げられている。)

オンラインコミュニティでの「オーストラリアより給料は安いのに物価は高い」「島国根性で妬み嫉みがひどい」(日本に似てる?)「こんな国でやってられるか」というKiwiらの愚痴はすごいです。「ニュージーランドより酷い国はカナダくらい」と言いながら、カナダに移住して「カナダの方が物価が安く、ワークライフバランスがいい」との声も。

実は、Daijobの前進の会社を立ち上げたのはニュージーランドから移住した人なのですが(高校中退、ワーホリで来日、日本で計18社創業)、30年ほど前には「日本の方がビジネスチャンスがある」と他のKiwiからも聞きました。その後、ニュージーランドの経済が好転し、ニュージーランドに帰った人もいるのですが、またニュージーランドを去る人が増えていたとは…

* トルドー首相の任期と一致.同首相の支持率は2022年の40%から30%に低下しており、辞任圧力も高まっている。 

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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