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民主主義を考えよう(1)Democracy is messy

大接戦のアメリカ大統領選でしたが、まさか日本でこれだけ盛り上がるとは… 日本のテレビ局がこぞって開票速報をリアルタイムで報道するなんてことは、過去にあったでしょうか。一説によると、4年前に“イロモノ枠”“エンタメ枠”のトランプ大統領が選出されてから、ワイドショーが取り上げるようになったとか。

リアルタイムで追跡可能

大半の日本人は、大統領選挙では国民一人一人が投票するから「アメリカの大統領は直接選挙で選ばれる」と思い込んでいました。国民が大統領候補の名前を書いて一票投じるという意味では、直接選挙なのですが、実際に選ぶのは「選挙人団(electoral college)」であり、実質、間接選挙なのです。

日本のメディア関連者でも、複雑な大統領選の仕組みを理解している人は少なく、解説などは見ていられないレベルでした。しかし、今回、「選挙人制度」の説明をするテレビ番組も増え、たとえ“イロモノ枠”でも、理解が広まったのは一歩前進です。

そして、今回、(日本のメディアを通じず)ネットでアメリカの開票速報を直接見ている人たちもいたようで、時代は変わったなあと思いました。さらに、アメリカ国内でも偏向の激しい主流メディアが流さないような情報を得て人たちもいて(陰謀論ではなく)、感心しました。そう、今の時代、知りたければ、いくらでも自分で調べることはできるのです。

世界が見守る民主主義の行方

今回の米大統領選では、コロナ禍の中、投票所に行けない人、行きたくない人のために、大規模に郵便投票が取り入れられました。国民の基本的な権利を守る上では重要だったでしょう。しかし、以前からの期日前投票(absentee and early voting)も、運転免許証など身分証明書のコピーを送付するわけでもなく、「どうやって本人と確認するのだろう」と私は不思議に思っていました。(実際にサインを偽造して捕まっている人が。)[i]

まず、投票するには有権者登録が必要で、投票を希望する人は郵便で投票用紙を取り寄せてから、記入した投票用紙を郵送します。しかし、今回、投票用紙を取り寄せていない人にまで、登録者には全員、投票用紙を送る州もありました。投票所への投票用紙到着期日も州でマチマチですが、到着が選挙日の17日後までOKな州も![ii]

そもそも「アメリカ市民」を証明しなくても有権者登録ができる州などいくらでもあります。(私も、何度も「私が有権者登録して投票してもわからないよね?」と誘惑に駆られたことも…)[iii]
また、今回、投票所に選挙管理人(election inspector)の立入を禁止された接戦州までありました。
どちらかの候補の当選に躍起になっているアメリカ人より、「こんないい加減な選挙方法で大丈夫?」という日本人の方がまともでしょう。

アメリカはトランプ大統領が誕生するずっと前から修復不可能なくらい分断されており、今回の選挙でも接戦で、国民の半数に近い人が意見を異にしているわけですから、本当に国を融和したいのなら、誰の目から見ても公正な選挙をすることは肝要だったのです。

民主党、その支持者(かつ米主流メディア)が、過去4年、トランプ大統領を引きずり降ろそうとしたように、今後4年は、反対のことが起こるわけです。オバマ政権時が、そうだったように。[iv]
そして、今回、アメリカ国外の人たちが大きく首を傾げた選挙人制度。2016年の大統領選でも2000年の大統領選でも、一般投票(popular vote)の総数で勝利した(民主党)候補が選挙人投票で負けるという事態が発生しました

米最高裁判事にしても、その時の大統領が任命し、その判事の信条で判決が左右されるのですから、「終身制っておかしいよね?」という感覚の方がまともでしょう。[v]

「欧米のやり方=正しい、民主的」と子供のときから刷り込まれている多くの日本人。大統領選は、民主主義を考えるのによい機会となりました。とくに、これから社会を担っていく若い皆さん、社会の事象を疑うことなしに受け入れるのではなくメディアの誘導にも惑わされず、自分で調べて、自分の頭で考えていってほしいと心から思います。民主主義って面倒なんです。Democracy is messy.



[i] ちなみに、私は昔々、アリゾナ在住時、フィットネスジムの従業員にサインを偽造され、知らないうちに年間契約書にサインしたことになっていた。債権回収業者からの通知で発覚。
[ii] カリフォルニアに至っては、消印は11/3までで、到着は11/20まで有効!
[iii]   民主党が牛耳っている州では有権者登録に身分証明書が必要でないところも。
[iv] トランプ大統領は、オバマ政権時、執拗にオバマ元大統領の出生を疑っていたので、ブーメランとなったわけだが。
[v]  最高裁判事が、自分の信条とは関係なしに判決を下すと思っている初心(naïve)な人は過去の判例を調べてみるべし。

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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