Global Career Guide
先週、「米メタ社が全社員の5%にあたる成績不振者を解雇する」というニュースが日本でも(米メディアの日本語版)流れていましたね。
この「成績不振者(low performers)」というのは、英語ではPIP(Performance Improvement Plan)を渡された人という場合が多いです。PIPには、日本語では「業務改善計画書」があてがわれているようですが、これは部署や会社全体の業務改善の意味でも使われ、個々の社員に対するPIPとは違います。英語のPIPは、「〇日までにX,Y、Zを達成しなければ、降格、減給、解雇に応じる」という内容の文書で、社員は、それに承諾のサインを求められます。
経営側に立って良いように言えば、「個々の社員の課題を指摘し、改善させること、社員を成長させるためのもの」ということですが、実際にPIPを受け取った社員に言わせれば、「PIPで提示される目標は、ほぼ達成不可能なもので、PIPは、社員解雇後に会社側が不当解雇で訴えられないように記録を残すもの」「社員を解雇するための口実」「社員が自ら辞めるように仕向けるもの(Quiet Firing)」です。
初めてPIPを提示された人がパニクってオンラインで相談していることがよくあるのですが、それに対する回答の大半は「99%の企業ではPIPを生き残ることはできない」「99%の確率で解雇される」ので、「提示された目標を達成するためにバカみたいに働かない方がいい」「さっさと次の仕事を探すべき」というものです。(実際に、達成しても解雇されたというケースは珍しくない)
下記の文は、日本国内の外資系を含み、実際にPIPを受け取った人たちが投稿しているものです。
I got my PIP two days ago.
(2日前にPIPを受け取った)
I was put on a PIP twice in four years.
(4年で2度PIPを受け取った)
I had to put my staff on PIPs, and I got laid off myself.
(スタッフにPIPを提示しなければならなかったが、自分もリストラされた)これも珍しくない。
I started looking for a new job as soon as I was placed on a PIP.
(PIPを提示されてすぐに、新しい仕事を探し始めた)
By the time you’re issued a PIP, your manager has already decided that you should be fired.
(PIPが提示された時点で、あなたの上司はすでに、あなたを解雇すると決めている)
ごく稀に、「PIPの条件を満たして解雇されずにすんだ」という人もいますので、そうした場合は、下記のように言うことができます。
I survived a PIP.
(PIPを生き残った。PIPを受け取ったが、解雇されずにすんだ)
上述の”PIP”は名詞ですが、下記のように、口語では動詞としても使われます。
I just got PIPed.
(PIPを受け取ったところ)
I was PIPed last week.
(先週、PIPを提示された)
My manager PIPed me today.
(今日、マネジャーにPIPを提示された)
American PIPing culture is getting out of control.
(アメリカのPIPの慣習は、収拾がつかなくなりつつある)
PIPが一部の勤務成績不良者に対して作成されるのであれば、「社員を成長させるためのもの」ということもあり得ますが、ここ数年、アメリカのIT企業を中心に行われているのは、毎年のように「社員の〇%を成績不良者として見極め、PIPを作成」というものです。
メタも、過去数年、毎年1月に社員の解雇を発表してきましたが、2023年には各部署に「人員の15%を成績不良者として名前をPIPツールに送付するように」との指示が出されました。2022年の年次評価(annual review)でも、「通常より倍の社員をPIPに」との指示が出ていました。
つまり、絶対的評価ではなく相対的評価で、強制的に低評価をつけられる社員が出てくるということです。上司は、指示通りしないと自分のクビが危ないわけですから、やらざるを得ません。
「会社の業績にかかわらず、毎年、成績不振者を強制的にあぶりだして解雇する」というのを始めたのは、GEのジャック・ウエルチ(Jack Welch)元会長・CEOで、80年代、「すばらしい経営手法」として称賛されました。社員のトップ20%(A評価)が一番生産的で、70%は十分(B評価)、底辺の10%は非生産的(C評価)なので解雇すべきという考えに基づき、管理職に毎年、スタッフをA,B、Cにランク付けするよう求め、Cランクの社員は解雇されました。
その後、同手法(rank and yankやstack rankingと呼ばれる)を導入する企業が続きました。近年は、こうした手法は社員の士気を低下させる、実証的根拠がないなどの批判を浴び、ウエルチの経営手腕も疑問視されているのですが、採用する企業が、また増えているようです。
アマゾンの毎年社員の6%の解雇は有名で、URA(unregretted attrition =) と呼ばれます。「後悔のない離職、つまり会社には損のない人員削減」ということですが、平たくいえば、「会社にとってのお荷物を整理」ということです。
アマゾンでは、強制解雇に苦悩するマネジャーが、自分の部署・チームを守るため、毎年、解雇人員を雇っていた(hire to fire)という証言もあります。(自分のチームがうまく行っているのに、人員を入れ替えれば、自分のチームの業績が下がり、ひいては自分のクビにつながる可能性があるのだから)
今回、「メタもアマゾン化しつつある」という声もあります。昨年までは、大量解雇の理由として「コロナ時に雇いすぎ」(経営陣の失策の何ものでもないが、経営陣が責任を取ることはない)「経営をスリム化」などを挙げていましたが、今回は解雇すると同時に、新たに人材を採用するということです。
なお、マイクロソフトも最近、(静かに)レイオフを行いましたが、さらに成績不良者を解雇する予定だそうです。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。