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先週、トランプ次期大統領が夏時間廃止を提唱すると、ネットで「サマータイム」という言葉を見かける機会が一気に増えました。「サマータイム」は、元々、イギリス英語に由来するもので、イギリスではBritish Summer Time (BST)と呼ばれます。アメリカやカナダでは”daylight saving(s) time”(日照節約時間)と言い、DSTと略されます。*
アメリカの夏時間は、ヨーロッパに続いて、第一次世界大戦中に省エネのために始められ、1966年に法制化されました。現在では、毎年3月の第二日曜に始まり、11月第一日曜に終わります。つまり、一年の3分の2は夏時間ということです。
夏時間は、たった1時間早くなるだけなのですが、睡眠が乱されるんですよね。とくに開始時は一時間早く起きることになり、睡眠時間が減る傾向にあります。時差ボケと同じで、慣れるのに、最低でも数日かかります。時計の針を進めるのを忘れて「寝坊して遅刻した」なんていう人もいますし、年に二回、時計の針を進めたり遅らせたりするのも面倒です。とくに複数の時計を使っている人は。
年に二回の時間の変更は、睡眠に悪影響をもたらすだけでなく、心臓発作や気分障害(mood disorder)、交通事故などのリスクが増し、仕事や学業の不振につながるという研究結果もあります。
また、州によっては、夏時間になると、朝、起きたときに外はまだ真っ暗というところもあり、暗い中で出勤しなければならないのです。朝のラッシュアワー時に、高速道路はヘッドライトで埋め尽くされます。下記のアンケート調査でも、「朝は外が明るい中で始めたい」という人が52%で、「外が暗いうちに始めたい」(19%)人を大きく上回っていました。
また、アリゾナ州のように夏時間を採用していない州もあり、そういう州に住んでいたり、そうした州とやり取りする場合、ややこしいのです。
ただし、「仕事から帰宅後、まだ日が高いので屋外で過ごせる時間が増える」と夏時間賛成派がいることも確かです。
2023年にアメリカで行われたアンケート調査では、回答者の63%が「夏時間の廃止」を望んでいました。「廃止に反対」という人は21%のみで、残りの17%は「わからない」という回答でした。2022年の調査でも61%、2021年の調査では71%が廃止を望んでおり、アメリカでは廃止するかどうかの議論が何年も続いてきました。**
2023年には、「通年で夏時間(夏時間の恒久化)」という法案が上院で可決したのですが、下院で通りませんでした。州レベルでも、2018年から11の州で夏時間を恒久化する法案が可決されていますが、連邦政府の承認なしでは施行ができない状態が続いています。今年の選挙で、上下院とも共和党が過半数を占めましたので、大統領の提唱の下、来年、可決される可能性が高まりました。
上述のアンケート調査でも「夏時間の廃止を希望」という人のうち、50%が「通年で夏時間にしてほしい」と答え、「通年で標準時間」という人(31%)を19ポイント上回りました。議会では、コンビニ業界などを中心に夏時間を恒久化しようというロビー活動も行われています。人々が1時間長く屋外で過ごすことで、消費活動が進んで売上が伸びるそうです。ただし、医者や科学者らは、人間の体には標準時間の方が適しているという意見です。
夏時間は、すでに多くの国で廃止されていますが、夏時間を恒久化した国が多数派です。なお、EUでも2018年、欧州委員会(EC)が夏時間廃止を提案し、2021年に廃止される予定でしたが、加盟国の足並みが揃わず実現していません。
下記では、DSTに関する英文例を紹介します。時間変更という意味で、”clock change” ”time change”といった表現も使われます。
The President-elect will push to end daylight saving time.
(次期大統領は、夏時間の廃止を推進するつもりだ。) ** 当選後、就任までは、”-elect”が就く。
With daylight saving time, you give up an hour of sleep.
(夏時間で、一時間睡眠時間が減る。)
With DST, you move/turn forward clocks in March and move/turn them back in November.
(夏時間制度では、3月に時計の針を進め、11月に遅らせる。)
When do the clocks change in the UK?
(イギリスでは、いつ時間が変わるのか?)
In the UK, the clocks go forward an hour to BST in March and back an hour to GMT in October.
(イギリスでは、3月に一時間進んでBSTになり、10月に1時間戻ってGMTになる。)
The twice-a-year time changes are said to affect many people’s sleep cycle.
(年に二回の時間変更で、多くの人々が睡眠サイクルを狂わされる。)
* イギリスは、夏時間でない間は、GMT(Greenwich Mean Time = グリニッジ標準時)を採用。現在、国際的な基準時刻はUTC(Coordinated Universal Time)だが、今もGMTがほぼ同義語として使われている。
** それなのに、子供のとき数年、アメリカに住んでいたという日本人女性に「夏時間で省エネが可能で、こうしたエコ政策を採用しない日本は遅れてる、許せない」みたいなことを延々と語られたことが。実際にアメリカに住んでない人には、その体への負担や面倒さはわからない。アメリカに住んでいる人でも、夏時間中、暗い間に起きて出勤しないといけない地域もあることすら知らない人もいる。暗いから、朝、1~2時間、電気をつけないといけないので、エコにもならない。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。