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​ 外資・グローバル転職で役立つ英語表現(54)– Gerontocracy

バイデン大統領が大統領選からの撤退を発表したことで、米史上最年長のバイデン大統領(81歳)に代わり、トランプ前大統領(78歳)が史上最年長の大統領候補となりました。

こうした中、下記の例文のように、アメリカで”gerontocracy”という単語をよく目にするようになりました。”Gerontocracy”とは「高齢者によって支配される政治体制」という意味で、日本語では訳語として「長老政治・支配」がありますが、「シルバー民主主義」と同様の意味で使われています。

“Geront-”とは、元々、ギリシャ語で「老年」という意味で、”gerontology”といえば、加齢に関する
研究を行なう「老年学」のことです。

なお、シニアという意味の「シルバー」は和製英語です。

America’s gerontocracy problem goes far beyond the president.
(アメリカの長老政治の問題は、大統領に限られたものではない。)

Young voters feel powerless against a growing gerontocracy that doesn’t represent them.
(若い有権者は、自分たちの代表ではないシルバー民主主義の台頭に対し無力感を抱いている。)

In a gerontocracy, issues like social security reform, are more likely to be seen as top priorities. (※1) 
(シルバー民主主義では、年金改革などが最優先事項と見なされやすい。)

 形容詞は”gerontocratic”で、下記のように使われます。

The young mayor is bucking the trend of the country’s gerontocratic politics.
(その若い市長は、国の長老政治の傾向に抗する存在だ。)

He stands out in a country with a gerontocratic government.
(彼は、長老政治体制の国では、際立った存在だ。)

議員の高齢化

フランスの政治学者によると、”gerontocracy”には、古代ギリシャやローマのように、法律で年齢が制定されていたり(イタリアでは大統領の条件は50歳以上の規定。現大統領は82歳)、紳士協定や慣習に基づき最長者が担うことになっていたりという形があるものの、現在、多くの国に見られるのは、議員の年齢(中央値)の方が、有権者の年齢(中央値)より高いという現象だそうです。

たとえば、米上院議員の平均年齢は65歳で、60歳以上が64%、70歳以上が35%を占めています。(日本は衆議院、参議院を併せて62歳。)下院も、G7国で一番平均年齢が高いのはアメリカで58歳、次いで日本の55歳です。

バイデン大統領は、アメリカ史上最高齢で、かつ初めての80代の大統領となりましたが、80代の米上下院議員は30人以上おり、現在、91歳の共和党の上院議員が最年長です。昨年、90歳で亡くなった民主党の重鎮、D・ファインスタイン下院議員にも認知症の兆候が見られましたが、引退を拒み続けました。

やはり民主党の重鎮で、昨年まで下院議長だったN・ペロシー下院議員は82歳で、(史上最高の)16年間、共和党の上院院内総務(senate minority leader)を務めるM・マコーネル上院議員は82歳ですが、11月に同職から、やっと退くようです(議員は続ける)。昨年、100歳で引退した上院議員は、1902年生で、なんと70年近く議員を務めました(それ以前は州知事として4年。)

世界的に広がる”シルバー”民主主義

議員だけでなく、有権者にも目を向けると…   今月初めに、ウォールストリート紙でも”Older Voters are Gaining Power around the World”(世界中で高齢の有権者らが力を増している)という記事を掲載し、アメリカだけでなく、今年、選挙のあったイギリスやフランスでも、老齢年金などのシニアのための社会保障を守る候補者が選ばれる傾向にあると報じていました。

イギリスでは、インフレ対策として、過去2年、年金支給額が就労世代の昇給以上の割合(倍以上)で上昇しました。社会保障の変更で、過去10年ほどで、子供を持つ世帯の所得が減少したのに対し、年金取得者の所得は増えているそうです。また、ヨーロッパでは、シニアの社会保障の維持を主な政策とする政党も生まれています。

アメリカでは、2023年時点で、選挙登録者数の29 %が65歳以上(日本と同等)、29%が50~64歳(日本より高い)で、50歳以上で60%近くを占めています。*  なお、18~29歳は12%のみです。

アメリカでも、「なぜシニアの方が投票率が高いのか」というのは議論されていて、「年金などシニア向け社会保障を守るため」「社会的義務を果たすため」「若い世代は忙しい」などが挙げられていますが、「シニアの方が介護に従事している人が多く、介護関連の政策に熱心」という意見もあります。なお、アメリカには、世界最大の高齢者団体と言われる全米退職者協会(AARP)というロビー団体があり(入会資格50歳以上)、介護関連の法案を推しています。

私は、年齢を重ねるに連れ、家族ができて育児をしたり、住居を購入したりするなどの社会経験を通じて、社会の仕組みを理解するうちに、政治が重要だということがわかるようになるからだと思っています。

私は、アメリカで住んでいた都市で、10年前に新たに施行された条例を廃止させるために市議会に参加していましたが、傍聴している人のほとんどは白髪頭(gray haired)でした。

日本の場合、今の70代後半は大共闘の時代で、学生運動に明け暮れていた人たちもおり、元々、今の若い世代より政治意識が高いと思います。100年前に革命を目指して創られた共産党も、今では党員の半数が65歳以上ということです。

若い人には「先の大戦で命をかけて日本の未来を繋いでくれた方々に尊敬を抱きますが…」とか「戦後の焼け野原の復興の立役者だけど…」と言う人もいますが、戦時中、14~15歳で志願した特年兵だったとしても、すでに90代です。戦後の焼け野原を復興に導いた世代も(世界的に著名だったソニー創業者の盛田氏は、存命であれば103歳)、もう亡くなっています。

今の70代(団塊の世代)は戦後生まれで、今年80歳でも成人したのは60年代に入ってからなので、戦後の復興には関わっていません。なお、日本が高所得国の仲間入りをしたのは1964年です。

* アメリカの場合、投票するには登録(voter registration)が必要で、登録しない人は、端から投票する気がない。

(※1) social security(社会保障)は、アメリカで老齢年金のこと。

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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