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世界的に広がる「子供を持たない」という選択

昨年、「結婚しないがニューノーマル」で、世界的に結婚しない人が増えている傾向について書きましたが、同時に、結婚しても(パートナーがいても)子供を作らないという人も増えています。

最近、SNSで、”DINK(s)”(double income, no kids)という略語が出回っているのにはビックリしました。これは「共働きで子なし」という意味で、80年代終わりにアメリカを中心に流行ったもので、死語だと思っていたので。とくにTikTokで、子供がいないことで時間やお金に余裕ができ、「子供がいなくて幸せ」とDINKライフを謳歌する 人たちの動画がバズっています。

それに対し、「私もDINK」や 「今は一人だけど、パートナーが見つかったら、私もDINKになりたい」、”We’re DINKWAD”(またはDINKWAC)””I’m SINKWAD”といったコメントが寄せられています。DINKWADは”dink with a dog(犬ありDINK)、DINKWACは”dink with a cat”(猫ありDINK)、SINKADは”single income, no kids, with a dog”(犬あり子なし独身)を略した新語です。

もちろん、DINKライフに賛同する人ばかりではありません。下記のような否定的なコメントだけでなく、誹謗中傷も受けるそうです。

「60、70歳になって、世話をしてくれる子供や孫もおらずに、孤独死だね」
「かわいそうだね」
「自分勝手」
「子供を産むまで、本当の愛は理解できない」
「人生の敗者」

とまで言う人も。

ちなみに、日本でも、#dink #dinks #childfree と並んで、#子なし夫婦 #夫婦二人暮らし #選択的子なしといったハッシュタグがSNSで流れています。

Childless by Choice

アメリカでは、2017年から2019年の時点で15~49歳の人の45%に子供がおらず、二年で3ポイント上昇しました。

また、今春行われたアンケート調査では、50歳未満で「子供を持つことはないだろう」と答えた人は、2018年(37%)から2023年(47%)の間で10ポイント上昇しています。

50歳以上では、その理由として「良きパートナーに巡り合わなかった」が一番多いのですが(33%)、50歳未満では「子供はほしくない」という理由が57%で、最多なのです(50歳以上でも31%)。つまり、子供を持たないという選択をする「選択的子なし」(childless/child-free by choice)の人が増えているということです。

子供を持たない理由として、ほかに「キャリアや趣味など他のことに専念したかった」(50歳未満44%、50歳以上21%)、「環境以外の社会状況への懸念」(38%、13%)、「経済的に無理」(36%、12%)、「気象変動など環境への懸念」(26%、6%)、「子供が好きではない」(20%、8%)が挙げられました。

50歳以上、未満ともに、子供を持たなかったことで「趣味や関心事に時間を割くことができる」「ほしい物を手に入れることができる」「将来に向けて蓄えることができる」「仕事・キャリアがうまく行っている」「プライベートが充実している」とプラス面を挙げていますが、とくに50歳未満では、子なし選択が生活にプラスに働いていると捉えているようです。

なお、アメリカでは、2014年から2020年にかけて出生率が年2%ずつ減少しているのですが、2023年、前年比3%の減少となり、史上最低を記録しました。

お隣りのカナダでも、2022年時点で、15~59歳の3分の1が「子供を持つつもりはない」と答えていました。また、2021年の国勢調査では、子供のいる世帯の45%が子供は一人だけで、38%が二人、三人以上は16%でした。国連によると、世界的にも、家族の規模がどんどん小さくなっているそうです。

カナダは、2023年、史上最低の出生率1.26人を記録し、日本を含むアジア諸国、イタリアやスペインなどの南欧と同じ「出生率が最低の国」の仲間入りをしました。とくにバンクーバーのあるブリティッシュコロンビア州が1.0人と国内最低の出生率です。

カナダでは、1970年代から出生率は低下していますが、大量の移民を受け入れることで人口減少を防いできました。出生率は1.3人を切ると、それより高いレベルに戻るのは難しくなると言われています。

流れを食い止めたいロシア

こうした世界的な「選択的子なし」という傾向を法律で食い止めようとしているのがロシアです。ロシアの連邦議会では、先月、「子なし主義」の拡散を禁止し、そうした風潮を促すインターネットやメディア、映画、広告などに対し高額の罰金を課すという法案が通り、プーチン大統領が署名しました。ロシアも、出生率は過去最低の1.4で、今世紀終わりには人口が半減すると予測されています。

同時にロシアでは、性転換が許されている国在住の外国人へのロシア人の養子を禁止する法案も可決されました。

人口が増える国の方が少数派

日本では、日本よりも低い韓国や中国の出生率、人口減少については報道されますが、同様に出生率の低い南欧や中東欧については報道されませんね。東南アジアでも、シンガポールに次いでタイで出生率が低く、2023年に(日本より低い)1.18人まで下がっています。同国の人口は2028年にピーク(6700万人)に達した後、60年で3300万人に半減すると予測されています。2020年には、退職世代(60~64歳)が働き始める世代(20~24歳)を上回り、初めて就労人口が減少しました。(ジャマイカも、同様に低いのにはビックリ)

国連によると、人口置換水準出生率(replacement fertility rate) 2.1人以下の国に住んでいたのは、2019年には世界の人口の4割だったのが、2021年には6割に増えています。人口置換が可能な国は、主にアフリカとUAEを除く中東くらいです。(UAEは出生率1.3)

日本において子どもを作らない理由として、「若い世代が結婚しない、子供を持たないのは経済的にできないから」が多く挙げられますが、私はそうではないと思っています。多くの国で「成人したら結婚して子供を持つのがあたり前」という社会通念が崩れており、「結婚しろ」「子供を産め」「孫の顔を見せろ」という社会的プレッシャーも減っている中、ライフスタイルが多様化し、結婚するのも子供を産むのも選択肢のひとつとなっているのが大きな要因ではないでしょうか。

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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