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モルディブ(1)- リゾートだけではない

先々週、スリランカでは、大統領に退陣を迫る市民らが大統領官邸を占拠し、ラージャパクサ大統領(弟)は間一髪で軍用機で出国しました(当初、スリランカ航空で脱出する予定だったが、従業員らが乗務を拒否)。モルディブに向かったのですが、最初は着陸を拒否されたものの、ラージャパクサ一家と親交のあるモルディブの大統領が介入し、着陸を許されました。(その後、シンガポールに飛び、正式に大統領を辞任。大統領でなくなると刑事免責特権を失うので国外に出るまで辞任しなかった。)

それに対し、モルディブ在住のスリランカ人が抗議デモを行ないました。私自身、シェフや美容師など何人も会いましたが、モルディブにはスリランカからの出稼ぎ者が結構いるのです。

スリランカと同様に、モルディブも中国からの借金でインフラを構築し、かつ私腹をこやす政治家は後を絶たず、よく抗議デモが行われています。

観光業が主産業

国土の99%が海というモルディブは、南アジアで一番小さな国で、人口(55万人)も、アジアではブルネイに次いで2番目に少ないです。イスラム教が国教で、外国人以外は、他の宗教の信仰は禁止されています。

公用語はディベビ語(Dhivehi)ですが、旧イギリス領なので英語も通じます。ただし、いろいろな国の人が出稼ぎで働いているので、英語が話せない外国人もいます。私がウクルハス島(Ukulhus)で宿泊したゲストハウスでは、ネパール人とバングラデッシュ人が働いていましたが、二人とも簡単な英語もできませんでした。

モルディブは、1970年代まで漁業などが主産業で、世界的に最貧国のひとつでした。その後、観光開発に力を入れ、今では観光業がGDPの3割近く、外貨獲得源の6割以上を占めています。コロナ禍で、2020年春、いったん鎖国したものの、7月には観光客受け入れを再開せざるを得なかったのも、そのためです。(当初、観光客を受け入れていたのは地元民が住まないリゾート島のみだったが。)

コロナ前は中国からの観光客が一番多く、その次にインドでしたが(日本も10位以内)、パンデミック勃発後は、タイやスリランカと同様、ロシアからの観光客が首位に躍り出ました(ウクライナ侵攻前まで)。

現地の人が「モルディブでは何でも高いんだよ」と言うように、物価は、近隣諸国や東南アジアに比べて高いです。法定最低賃金は月2万円ほどで、平均的な年収は100万円未満なのに、あの物価で、どうやって暮らせるのか不思議なのですが、物乞いをする人、ホームレスの人は見かけません。

リゾート島だけではない

モルディブといえば、透き通るようなエメラルドグリーンの海に「豪華リゾート」「水上コテージ(water villa/overwater cottage)」を思い浮かべる人が多いかと思いますが、リゾート(resort island)ではない地元の人たちが住む島(local/inhabited island)に滞在することも可能です。

モルディブは1200ほどの島から成りますが、そのうち160ほどがリゾート島(1島につき1リゾート)で、800島ほどが手つかずの無人島です。残り200島ほどに現地の人が住んでおり、ゲストハウスやホテル、レストランもあります。私は3月に、そうしたローカル島2島に2週間ずつ滞在しました。

リゾート島は、モルディブ政府から借地して、民間企業や富豪がリゾートを建設したもので、モルディブ政府とは別に、リゾートごとに独自のルールが設けられています。

ローカル島の利点

ローカル島がリゾート島と比べて優れているのは、何と言ってもコストでしょう。リゾートは、一泊最低でも2万円(雨期の海が見えない部屋)、上は一泊数百万円といったものまであります。

ローカル島の場合、海が見える(ocean view)部屋でなく、ビーチフロントでなくてもよければ、一泊数千円で泊まれるゲストハウスはいくらでもあります。マーフシ(Maafushi)のような大きめの島であれば、プールやジムも完備したホテルもあります。

リゾートでは、食事やアクティブティも込みのall inclusiveを選択することも可能で、丸投げしたいという人には便利でしょうが、(私のように)自分で計画を立てて手配したい、管理されたくないという人にはリゾートは窮屈なのです。

ネット掲示板で、リゾートに滞在中のアメリカ人観光客が「地元の料理が食べたいのに、リゾートでは食べられない」と愚痴っていましたが、「モルディブ料理が食べたい」「現地の人の生活を垣間見たい」「地元民と交流したい」という人にもリゾートは向きません。リゾートというのはクルーズ船のようなもので、食事は万人受けする(特徴のない)料理であり、従業員の多くは外国人です。

ローカル島の難点

モルディブにはリゾートしかないと思っている人が少なくないのも一因ですが、多くの観光客がローカル島に滞在したがらないのには、いくつか理由があります。

ローカル島では、観光客用に「ビキニビーチ」と指定されたビーチでしか肌を露出した水着では泳げません。イスラム教では、公の場で女性が肌を露出することは禁止されているからです(が、ビキニでなくてもラッシュガードでOK。ラッシュガードなどで保護しないと死ぬほど焼ける)。

といっても、私が滞在したウクルハス島では、地元民向けビーチは端の方にある小さなのがひとつだけで、残りはすべてビキニビーチでした。つまり、島のほとんどでビキニで泳げるということです。 

もう一点、やはりイスラム教の戒律により、ローカル島では飲酒が禁止されています。私のように下戸の人間にとっては何ら問題ないのですが、多くの人にとっては、これは耐えられないようです。ただし、マアフシ島のように、島によってはバーを備えた飲酒用の船(booze boat)がビーチの近くに停泊しており、そこで飲酒は可能です。

次回は、リゾートについて書く予定です。

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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