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前回触れた、住宅に対する各国の満足度ですが、OECD加盟国で最低(17%)だったのがトルコでした。通貨危機を発端とした超インフレで、2022年には住宅価格が200%以上も高騰し、また、一挙に家賃が6割上昇したり、物件を売却したい家主から退去を求められたり、大半の人が住宅事情を不満に思っているのは当然といえるでしょう。
トルコでは、経常収支の赤字続きなどにより、2018年にリラが暴落し、通貨危機が起こりました。対米ドルで、2022年には84%、2023年には44%も下落し、5年で価値が5分の1にまで減少してしまったのです。(日本円は最安値の時点でも、5年で4割ほどの下落なので、その倍)
そこで、インフレが生じたのですが、通常、インフレになると中央銀行は金利を上げるところ、トルコは独自の金融政策で金利を下げたのでした(エルドアン大統領が中央銀行に指示し、抵抗する総裁は次々とクビに)。そのため、リラはさらに下落し、インフレが悪化しました。2022年のインフレ率は83%、今年5月には75%と驚異の上昇率でした。
しかし、その大統領も、昨年の再選後には利上げに政策を転換し、金利を昨年は40%、今年3月には50%まで引き上げました。と言っても、インフレ率は、それ以上ですから、実質金利はマイナスが続いています。(なお、利上げに踏み切ったトルコ初の女性総裁は、今年初めに辞任)
こうした中、賃金労働者の半数以上が、最低賃金(月3万円ほど)以下で働いており、国民の3分の1近くが、貧困ラインの生活をしていると言われています。中流クラスでも「外食は一切しなくなった」「肉類を食べる回数を減らした」という声がオンラインコミュニティでも聞かれます。インフレヘッジで「金を購入した」という声も多いです。
トルコリラ暴落で、観光業は旺盛を極めており、2023年には、(訪日客の倍の)5670万人がトルコを訪れ、観光収入も過去最高の500億ユーロ(8兆円)を記録しました(訪日客消費額は5兆円)。首都のイスタンブールは、2023年、世界でもっとも海外からの観光客が多い都市でした。次いで、人気のトルコ観光地は、地中海に面したビーチリゾートのアンタルヤ(Antalya)です。観光客の国別では、一番多いのがロシアとドイツからで、次いでイギリスでした。
私が8月に訪れた際も、イスタンブールもカッパドキア(Cappadocia)などの世界遺産も、観光客で溢れていました。(20年ぶりの訪問だったのだが、20年前は、もっと中東風で、イスタンブールの街中を歩いている地元民は男性のみ。女性を見かけることはなかった)
しかし、トルコ旅行に関する(英語)オンラインコミュニティでは、各国からの観光客が「観光名所の入場料がバカ高」「物価は西欧と変わらない」とぼやいていたので、私も覚悟していましたが、観光客が行くようなレストランの飲食代はアメリカと変わらないです(給料はアメリカの数分の一)。イギリスからは、毎年、トルコのビーチに旅行する観光客が多いのですが、昨年に比べても物価が急騰しており、「トルコ観光は、今年で終了」という声も聞かれます。
観光名所の外国人入場料は30~50ユーロ(4800~8000円)するので、家族で複数のスポットに行くと、かなりの額になります。* それでも、どこも長蛇の列でしたが… ちなみに、トルコの人は、物価の安い隣国ギリシャに旅行に行くそうです。
また、オンラインコミュニティでは、「顧客サービスが最悪」「ボッタくられた」「地元民が不親切」という不満も多く寄せられていました。地元民からは「私たちだってボッタくられる」「我々トルコ人っていうのは詐欺師なんだよ」という声も聞かれました。私も、とくに空港のスタッフの態度が悪いと思いましたが(ジョージアも)、経済危機でストレスがたまっている地元民が多いという説もあります。
先月、書いたように、トルコに日本人観光客が多いのには驚きました。昔から、日本ではトルコは人気の旅行先ですが、リラが日本円以上に暴落したおかげで、円安の影響を受けなくてすむという側面もあるようです。
出会う日本人観光客は若い人ばかりだったのですが、今年6~7月に日本国内で行なわれたアンケート調査では、「今夏、旅行の予定・検討あり」と答えたのは、20代(40%以上)が一番多かったのでした。海外旅行に限っても、10%を超えていたのは、20代の男性のみだったのです。(カッパドキアでも、男子2人組を複数見かけた)
ところで、長年、EU加盟を望んでいるトルコですが、 なかなか入れてもらえないため、** 今月、BRICS(Brazil, Russia, India, China, South Africa)への加盟希望を正式に表明しました。BRICSには、今年、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エジプト、エチオピアが加わり、10カ国で世界のGDPの36%、石油産出量の40%を占めるに至っています。
パキスタンやマレーシアも加盟申請済みで、タイも加盟を申請する意向です。他にも30ヵ国ほどが加盟をする意向です。(日本のメディアは、ロシアが世界的に孤立していると西側のプロパガンダを垂れ流してきたが、孤立するどころか、グローバルサウスとの連携を進めている。経済も好調。)
* 外国人料金は一律なので、新興国の人には気の毒。中央アジアからの観光客も、結構、見かけたが、カザフスタンの一人当たり国民総所得(GNI)はトルコとあまり変わらないが(1.1万ドル)、ウズベキスタンやキリギス、大半の東南アジア国は5000ドル以下。タジキスタンの家族が同じホテルに泊まっていたが、同国のGNIは1400ドル。
** 2022年にEUの機関のスピーチでスペインの外務大臣や欧州議会議長も務めたことのあるEU上級代表が「ヨーロッパはガーデン。我々は、政治的自由、経済的繁栄、社会的結束という最高の組み合わせを築くことができた… ヨーロッパ外の国は大半がジャングル。ジャングルがガーデンを侵略してくるということがあり得る」と発言。これがヨーロッパの本音。
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。