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スリランカ(10)- デフォルト脱却、途上国の実態

今月、スリランカが、また全国規模で停電になったというニュース(英語)が流れていました。「猿が発電所に侵入し送電線に触れたため」ということでしたが、実際には、原因は別にあるようです。発電所の警備員も「爆発が起こり、発火が起きた。猿はしょっちゅう侵入してくるので、一匹の猿が停電を起こすとは考えにくい」と証言しています。(スリランカのオンラインコミュニティの地元民らも、猿が原因だとは思っていない)

停電が始まったのは日曜だったのですが、日中の電力需要は平日が高く、日曜は低いところに、太陽光熱の供給が増加したことで送電配網が不安定になってカスケード故障(cascading failure)が生じたようです。屋根上の太陽光パネルによる電力は発電所には見えないため、調整できないそうです。

スリランカの送電網は古く、日本からの資金で改良する計画もあるようですが、コロナや経済危機で遅れているらしいです。(なお、タジキスタンはスリランカよりも頻繁に停電が起こっているもよう)

スリランカでは、今年1月、海外からの観光客が、昨年同時期21%増で25万人に達しました。2024年の観光客数は200万人で、目標の240万人に届かなかったのですが、このまま行けば2025年は300万人も夢ではありません。しかし、こうした停電のニュースで二の足を踏む人も出てくるでしょう。とくにデジタルノマドにとっては、停電でインターネットが使えなくなるのは致命的なのです。

なお、12月には海外の債権者らが債務再編に合意したため、スリランカの格付け(Moody’sとFitch)が最低の格付けから引き上げられました。これをもって、スリランカ政府は「デフォルト(債務不履行)脱却」宣言を行いました。

汚職は減少か?

新たな大統領が誕生して4ヵ月、スリランカのオンラインコミュニティでは「何か変わった?」「AKD をどう評価する?」といった投稿があり、議論が行われています。アンチを除いて「4ヵ月では成果は見えない」というのが大半の意見です。「私の住む町では、警察の汚職が減った」という人もいます。

私が12月にスリランカに滞在中に出会った人たち(30~40代)は、新たな大統領に投票したようで、国政が変わることを期待していました。

Beruwala/Aluthgama のホテルで働いていた40代の男性Aは、2022年、大統領公邸も占拠された反政府デモに参加していたそうです。その際、10人が亡くなり、600人以上が逮捕されましたが、その男性も警察に追われたものの、友人宅に隠れるなどして難を逃れたそうです。

食べるために出稼ぎ

昨年12月、Aさんという方と出会った際、オーストラリアのクルーズ船でバーテンダーとして半年働いて帰国したところだということでした。そのホテルでの仕事も、観光シーズン中の2~3ヵ月だけで、「この後の仕事を見つけないといけない」と悩んでいました。

オーストラリアのクルーズ船での仕事は、給料は月に1250米ドルで、毎日12時間超の労働で、半年間、休みはなかったそうです。船内での宿泊と食事は無料ですが、飲料水代やインターネット使用料は別途徴収されたそうです。

まず、その仕事を得るために、仲介業者に3000米ドル払っているので、仲介料を取り戻すだけで2ヵ月以上かかるということです。その後は、国に残した妻子に送金するために、休みもなく働く毎日です。

「仲介業者を通さずに、直接、応募できないの?」と聞くと、代理店を通じないと大半の国でビザが降りないらしいのです。オーストラリアに着いた途端、(よりよい仕事を求めて)失踪する出稼ぎスリランカ人が後を絶たないそうで、豪政府にとしては、信用のある仲介業者を通じてしかビザを発行できないということなのでしょう。*

それでも、スリランカ国内よりは稼げるからと、Aは妻子を残して、次はどこに出稼ぎに行くか思案していました。Aは単車すら持っていません。通勤は、徒歩(片道30分)か自転車、バスとなります。バスは安いですが、通勤・通学時間は満員で、暑くて臭くて痴漢だらけです。

「途上国」とは

一部の日本人や日本のメディアは「日本は後進国」といった表現をよく使いますが、彼らは、実際にスリランカのような開発途上国(developing country)を訪れたことがあるのでしょうか。まず、「後進国」という差別表現を使っている時点で見識を疑います。嘲笑的に、そんなに軽々しく使う表現ではないのです。

世界には、このスリランカ人のように、家族を食べさせるために海外に出稼ぎに行って、過酷な条件で働かざるを得ない人たちが2億人以上もいるのです。(カタールでのW杯会場建設でのように、現地で亡くなる労働者も珍しくない)

国際通貨基金(IMF)では、世界で152カ国を開発途上国(developing country)と定めています。(同基金発行の”World Economic Outlook”では、”advance economies”と”emerging and developing economies”に分類。)IMFによれば、名目GDPP2位の中国や4位のインドも、中所得国(middle-income countries)であるマレーシアもタイも新興・途上国です。

昨年も書きましたが、経済危機以降スリランカでは、道で物乞いをする人たちが増えましたが、お金を渡そうとすると「食べ物をくれ」と言われます。マレーシアのセンポルナ(Semporna)では常に、バジャウ族の子供たちが飲食店でお客に食べ物を乞っていますが、今回、食べ物をあげたら、胸に手を合わせて”Thank you”と言ってきました。コタキナバル市内でも、物乞いをする人たちがいます。

先進国のお花畑脳

インドのスラムに行って「日本より皆の目が輝いている」というワケのわからないことを言う日本人バックパッカーもいます。スラムには水道もトイレもありません。100人以上もの人と共有のトイレを使うのに、夜は真っ暗な中、屋外に出なければならず、襲われる女子だっているのです。そんな戯言は、スラムに一週間でも住んでから言え、と思います。 

スラム賛美、「日本は後進国」というのは、そうした国の人たち、スラムの住人らをバカにしたものだと思います。結局、途上国の生活の実態を知らない(生まれたときには自宅に水洗トイレのあった)”先進国のお花畑脳”ということです。

* 11月には、韓国で、ビザ免除で済州島から入国したベトナム人観光客38人が失踪(済州島では独自に、64か国に対し滞在30日以内のビザ免除。)日本では、技能生の失踪が問題となっているが、労働条件の問題だけでなく、失踪ありきで入国するケースも。

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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