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タカシの外資系物語

外資流 タレント育成方法(その3)2018.10.09

君は、定義(define)できるか?!

 

(前回の続き)外資系企業における人材育成のことを、“タレント・アクイジション” といいます。タレント・アクイジションが備える機能として、(1)タレントの定義 (2)内部育成 (3)外部からの採用 というのがあるわけですが、日本人にとって最も理解しにくい(1)タレントの定義についてお話ししたいと思います。と、その前に、“定義” という行為について説明することにいたしましょう。


外国人と仕事をする上で、非常に重要かつ日本的にはあまり馴染みのない作業要素として、

 

モノゴトを定義(Define)する

 

というのがあります。ここでいう定義とは何か?

 

今をさかのぼること、約20年前の話になりますが、外資系コンサルに勤め始めたころの私は、この作業工程がよく理解できずにいました。例えば、こんなことがありました。プロジェクト開始前のある日、プロジェクト・リーダーがメンバー全員を集めて、このように言うのです。

 

「今回のプロジェクトを通じて、自分が達成すべき事柄を定義しなさい!!」

 

・・・。 

 

率直に言って、「なんやねん、それ・・・?」です。ま、仕方ない、定義してみましょうか・・・。第一に、クライアントからFeeをもらっている以上、納期を守って、高品質のサービスを提供することでしょう。第二に、その活動を通じて、自身のスキルを向上することかな。付け加えるならば、社内のプロジェクト・アワードを受賞して、高い評価を得たい ぐらい。

 

とかく、日本人はこういう作業が不得意です。なぜ不得意かというと、慣れていないからです。学生時代を振り返っても、訓練を受けた経験がない。社会に出てからも、機会がない。なぜか? それは、「答えがわかりきっているので、やっても仕方がない。当たり前のことを、わざわざやる意味がない」と、思いこんでいるからです。実は、これは大きな間違いなんですよねぇ、特にこれからの時代は・・・。

君は、空気を読めるか?!


“定義(define)” というのは、人々の頭の中にボンヤリと(=抽象的に)存在しているものを、言語で表現することで具体化するという意味です。日本人が、この作業に慣れていないというか、この作業を軽視する理由は、抽象を具体化しても、結果は同じであるとみんなが信じているからです。

 

実は「結果は同じであると、みんなが “信じて” いる」という部分が重要でして、実際には、みんなの考えが全て同じという状況はありえなくて、どんな場合でも少数意見というのは存在します。しかし日本の場合は、単一民族国家であるがゆえ、意見はほぼ同じに収斂する傾向が強い。つまり、少数意見の割合というのは本当に微々たるものなのだから、はなから無視しても構わんのではないか、とみんなが妄信してしまっているのです。

 

よって、常識的だと大多数の人が思っている意見や方向性に対して異議を唱えたり、レジスタンス的なふるまいをしたりすると、

 

空気読めや、オラーーーっ!!

 

などと怒られることになる。いわゆる KY というやつです。

 

しかし、よくよく考えてみると、この “空気” というのは、何なのでしょう? ここでいう空気というのは、定義が非常に難しい。ま、「その時点において、大多数の人が正しいと思っていること」程度の意味でしょうか。ただし、“空気” を読んだ結果として、企業の不正が正せなかったり、戦争に突き進んで国を亡ぼしたりする例は枚挙にいとまがない。つまり、空気を読んだ時点で、その空気が正しくない可能性があることを相当数の人が気付いているのです。

 

上記のことを踏まえると、“空気” というのは、

 

「その時点において、正しいか正しくないかわからんけれども、いや、実は正しくないことの方が多くて、みんな結構それに気づいているんだけれども、それが正しいかのように振舞わないと、仲間外れにされる可能性があるので仕方なく従う、不文律のルール」

 

という意味になります。なんやねん、これ・・・。これじゃ、空気じゃなくて、毒ガスみたいなもんじゃないですか、ねぇ・・・。

君は、常識をUPDATEできるか?!


実際、この「空気を読む」という日本人独特の行為を、外国人に説明するのは非常に難しい。というか、ほぼ不可能に近い。 “Read between the lines (行間を読め)” というのが、ニュアンス的には近いのですが、ちょっと違う。空気を読め、の方が、意味的にはより複雑だと思います。

 

“定義” の話に戻しましょう。欧米では、曖昧なものごとを定義する、という行為が、日常的に行われています。学校の科目でも、論理学(logic)というのがあって、そういう訓練を幼い時から行っています。これは、ロジカルに物事を考えることで、相手を打ち負かせてやろう! といった動機で始まったわけでなく(これは結果論にすぎない!)、多民族国家であるがゆえ、参加者のコンセンサス(同意)を取っておかないと、物事がスムーズに進められないという理由が大きいように思います。

 

様々なバックグラウンドを持った人がいれば、多様な “常識” が存在します。それを “空気” といった曖昧な形で取り扱うのではなく、“定義” という形で “常識” をUPDATEしていく行為が必要なわけです。だから、まずは “定義” する。そうするからこそ、多様な参加者が同じ方向を向いて、進むことができるわけです。

 

昨今、日本においてもダイバーシティや多様性という言葉が流行っています。上述の通り、ダイバーシティに取り組むということは、“常識” をUPDATEしていく行為を伴います。しかし残念ながら、そちらの取り組みはほとんどない。それどころか、“忖度” といった 空気を読む とほぼ同義の行為を、国家のトップ層が行っている。これでは、いかんでしょう。働き方改革云々の前に、ダイバーシティを受け入れる素地を作らなければ、素晴らしい政策も画餅に終わります。まずは、そういう危機感=日本人にはダイバーシティを取り込む素地がない を、国民同士で共有するところから始める必要があるように思っています。

 

今回のコラムは少し寄り道をしてしまいました。次回は話を戻して、「タレントの定義」についてお話ししたいと思います。では!

(次回に続く)

 

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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