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タカシの外資系物語

世界史から得られるダイバーシティの要諦とは?!(その4)2018.01.30

“悪” とは何か?!


(前回の続き)グローバル標準の考え方を身に着けるため、“五十の手習い” よろしく、世界史の学びなおしを始めたタカシ(今年、マジに50歳!)。日本人が弱い分野であるナチスドイツやホロコーストの知識を得るため、『否定と肯定』という映画を観たのでした・・・


ナチスドイツやホロコースト関連の映画には、以下の3種類のアプローチが存在します。

 

(1) 第二次世界大戦という戦争そのものを描いたもの ・・・ 代表作 = 『Uボート』『ダンケルク』等。MARVELの娯楽大作 『キャプテン・アメリカ』の初回も、実はこの範疇に入ります

(2)第二次世界大戦を民衆の視点で描いたもの ・・・ 代表作 = 『シンドラーのリスト』『戦場のピアニスト』『ソフィーの選択』『ライフ・イズ・ビューティフル』等。映画の題材としては、この分野が圧倒的に多い。あの名作ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』だって、この範疇ですからね

(3)戦後のナチスドイツ系裁判を描いたもの ・・・ 『顔のないヒトラーたち』『愛を読むひと』等


基本的に、日本人にとって(1)(2)は非常にわかりやすいストーリーになっています。なぜなら、

 

ナチスドイツ=悪   連合国・ユダヤ人・大衆=善

 

という具合に、明確な対立軸として描かれているからです。ここで注意しないといけないのは、戦時下において “悪” とされたナチスドイツを、どう定義つけるか? ということです。悪いのは、ヒトラーだけなのか? ナチ党党員全員なのか? ドイツ人のどこまでが悪いのか? この難解で複雑な問いに、いくつかのヒントを与えるのが、(3)の映画の主題となります。

ナチスドイツ系裁判の中で、最も有名なものは、「アドルフ・アイヒマン裁判」です。アイヒマンは、アウシュビッツ強制収容所の所長だった人で、戦後は、アルゼンチンに身を隠しています(その逃亡を助けたのが、バチカンのカトリック教会だったりするもので、すんごい複雑なんですが・・・)。1960年、イスラエルの諜報組織モサドが、潜伏中のアイヒマンを逮捕し、イスラエルで裁判を開きます。ユダヤ人のみならず、世界中が注目する裁判で、公の場に登場したアイヒマン。しかし、その姿は、大方の予想とは大きく異なるものだったのです!

ユダヤ人哲学者アーレントの結論とは?!


民衆の前に現れたアイヒマンは単なるおっさんでした。数百万のユダヤ人の命を、いとも簡単に奪った現場の責任者は、どこにでもいる普通の人間だったのです。このことは、世界中の人々を困惑させました。アイヒマンが、極悪非道を絵に描いた、怪物のような人ならわかりやすかったのですが、そうではなかった。判決は死刑だったのですが、当事者であるイスラエルを含め、なんだか腑に落ちない状況に陥ります。

その状況を、言葉にして表現したのが、哲学者のハンナ・アーレントです。彼女自身、ユダヤ人として、自分の家族を収容所で亡くしています。その彼女が、アイヒマン裁判を傍聴した結果、アイヒマンは普通の人だと断じます。そして、アイヒマンの罪は、「人間であることをやめ、思考停止になったこと」にあるとし、その状況に陥った人間は、大量殺人のような重罪を、いとも簡単に犯すことがありえる、と分析します。いわく「悪は悪人が作り出すのではなく、思考停止の凡人が作る」と。そして、彼女はそれを “悪の凡庸さ” と呼ぶのです。

 

アーレントは、アメリカの有力大学(バークレー、シカゴ、プリンストン、コロンビア)で教鞭をとり、20世紀の政治哲学における、大きな潮流を作り上げました。そして、その思想は、アメリカの知識層の思想的ベースとなり、今日に至っているのです。

 

・・・って、こんな感じなんですけど、みなさんは、ハンナ・アーレントのことをご存知でしたか?! アーレント自身の功績もそうなんですが、欧米においては、“戦争” とか “悪” ということについて、徹底的な議論がなされているという点において、私は驚きを隠せません。そして、アイヒマン裁判に次いで、大きな議論を巻き起こした裁判が起こります。それが「アーヴィング対ペンギンブックス・リップシュタット事件」であり、映画『否定と肯定』のベースとなった裁判なのです。

世界史の教訓とは?!


「アーヴィング対ペンギンブックス・リップシュタット事件」とは何か? 簡単にいうと、ナチスドイツ支持のアーヴィングという歴史学者が、アウシュビッツの実態を暴いた本を出版した著者のリップシュタットおよび版元のペンギンブックスを訴えた裁判です。要は、「アウシュビッツやホロコーストの真偽」を、法廷に問うたというもの です。

 

イスラエルで開かれたアイヒマン裁判が有罪(死刑)ありきだったのに比べ、この裁判はイギリスで行われたため、オープンかつ公正な手続きで進められることになります。また、イギリスの裁判では、原告側ではなく、被告側が事実認否を行わねばならない(例えば、原告から「名誉棄損だ!」と訴えられた場合、被告側がその訴状内容1つ1つを否定していかねばならない。アメリカの場合、その逆で、原告側が、その訴状内容1つ1つを肯定していくアプローチをとる)ため、裁判は長期化していきます。ユダヤ人で映画監督のスピルバーグが、リップシュタット側に資金援助を始めるなど、この裁判は、世界的に注目を集めることになります。


映画『否定と肯定』は、被告であるリップシュタットの視点で進められます。自身もユダヤ人で、親族をアウシュビッツで亡くしているリップシュタットは、アウシュビッツで生き残った人を証人として法廷に立たせようとしますが、リップシュタットの弁護団が、それを阻止します。なぜか? 弁護団の戦略は、この裁判は、感情に訴えるのではなく、事実を積み重ねていくべきであるというものだったからです。また、アウシュビッツの経験者を法廷に立たせることは、彼ら・彼女らに、当時を思い出させる、極めて残酷なアプローチだとしたから・・・。リップシュタットと弁護団の葛藤が、この映画の見どころの1つといえるでしょう。

 

裁判はリップシュタットに有利に進み、最終局面を迎えます。そして、ある日、裁判長が、以下のような主旨のことをつぶやきます。

 

「原告のアーヴィングは、単にナチスドイツを信じている普通の人である。人が何かを信じるということは、そのことの真偽を問わず、自由なはずであって、この裁判は、単にそれだけの話なのではないか・・・」

リップシュタット側は、裁判長のこのつぶやきに驚愕します。もしかしたら、この裁判自体がなかったことになるんじゃないか、いやそれ以上に、今更なんやねん! って感じでしょうか・・・。

 

結局、原告アーヴィングの主張は全て退けられ、リップシュタットは無罪ということになります。結果は当然なのでしょうが、リップシュタットを支持した側は、なんともやりきれない感覚に襲われます。裁判長のつぶやきが正しければ、いや、そう考える人が世界中に多く存在するとしたならば、アウシュビッツとは、そこから得られる教訓とは、いったい何なのか・・・?

上記の通り、欧米では、先の戦争に対する議論が、様々になされています。そこにタブーなどありません。その結果、多様な考え方があることが認識され、社会に共有されています。一方、日本においては、戦争を語ることは、依然としてタブーです。太平洋戦争は日本人のせいで起こり、原爆を落とされたのも仕方ない・・・ といった、いわゆる自虐史観がまかり通っています。私は、当時の日本が悪くない、と言っているのではないので、そこは誤解いただきたくないのですが、それに関する議論が圧倒的に足りない。だから、多様な意見を受け入れる、社会的な土台が、極めて脆弱なのです。

世界史を学ぶということは、多様性を知るということです。世界史を学べば学ぶほど、日本が真にグローバルの一員となるためには、まだまだ足りないものがあるように思えてなりません。では、また!

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

「タカシの外資系物語」の作者、奈良タカシさんへメッセージをお寄せください。

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