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タカシの外資系物語

“時代劇” の衰退 から見た 日本の弱み (その2)2014.10.21

“人斬り抜刀斎” は、誰だ?!

前回の続き) 読書好きにもかかわらず、他人の批評(書評)にはほとんどの興味のないタカシ。しかし、ただ一人、そんなタカシがリスペクトする書評家に縄田一男さんという方がいらっしゃいます。その縄田さんが、日経新聞の書評で “★10コ” というありえない評価(★5つが最高評価です)をされていた本 『なぜ時代劇は滅びるのか?』(春日太一著:新潮新書)を読んで、タカシは愕然としました。というのも、時代劇の没落は、日の丸製造業の没落と非常に似た理由に拠っていたからです! さて、その理由とは・・・

 

日本の時代劇は滅んだ! 水戸黄門も終わったし、年末年始も時代劇特番の数は激減したし・・・ 確かに、TVにおける時代劇が衰退の一途をたどっていることについては、反論はないでしょう。

 

では、映画はどうか? 私は大の映画ファンでもあるので、洋画・邦画、またジャンルを問わず、これまでに相当数の映画を観ています。当然、映画の時代劇も、私の “ストライク・ゾーン” には入っていて、『世界のクロサワ』 から 『るろうに剣心』 まで、名作・話題作はほとんど観ています(私も一部のクライアントから、コンサル業界の “人斬り抜刀斎” (=『るろうに剣心』の主人公、緋村剣心の異名)と呼ばれているとか、いないとか・・・ って、一度も呼ばれたことないし!)

 

それにしても、『るろうに剣心』はいい映画でした。元々は人気マンガが原作なのですが、その世界観を壊すどころか、さらに大きくしたように思います。最近流行りの、「シリーズ最終作を、2本立てにして、時期を少しずらして上映する方式」も成功していました。『京都大火編』 『伝説の最期編』 とも、整合性が取れていて、無理やり作った感もなく、単独作品としても十分成り立っていました。

私見ですが、2作並行上映方式は失敗している作品が多く(元祖はキアヌ・リーブスの『マトリックス』、最近では、戸田恵梨香さんの左手がエライことになる某ドラマシリーズ等々)、その壁を打ち破ったという点でも、評価できると思います。

いくつか難点を言えば、クライマックスで藤原竜也さん扮する志々雄真実(ししおまこと、と読みます)の剣から火が吹き出ていたところ(ありえないし・・・)、江口洋介さん扮する斎藤一がタバコを吸い過ぎるところ(体に悪いし、教育上も悪いし・・・)など、いくつかあるのですが、私としては “★5つ” の評価だと思っています(まだ上映中の映画ですので、是非みなさんもご覧ください)。

Which is your favorite movie, this year ? 

『るろうに剣心』以外にも、近年、特に今年は、時代劇映画の佳作が多いように思います。

 

  • ・『柘榴坂の仇討』 ・・・ 中井貴一さん、阿部寛さんの名演もさることながら、浅田次郎さんの原作がいいんですよねぇ
  • ・『蜩の記』 ・・・ これも、葉室麟さんの原作に尽きます。堀北真希さんが、腰抜けるほどカワイイですな
  • ・『幕末高校生』 ・・・ 現代の高校生とダメ先生が幕末時の勝海舟のもとにタイムスリップするもの。中高生が歴史に興味を持つキッカケになるような作品
  • ・『舞妓はレディ』 ・・・ って、時代劇じゃないし! 主演の上白石萌音(かみしらいしもね)さん、超ウマいし、カワイイんですよ!
  • ・『喰女(クイメ)』 ・・・ マジ怖いし!
  • ・『偉大なる、しゅららぼん』 ・・・ 時代劇シーンほとんどないし!!
  • ・『All You Need Is Kill』 ・・・ 原作が日本人なだけで、トム・クルーズ主演の洋画だし!! それも近未来ものだし!!!

 

・・・エ、エヘン、少々取り乱してしまいました、すいません・・・。 このように、TVでは滅んだ時代劇ですが、映画ではそれなりに健闘していると思うんですけど・・・ みなさん、いかがですかね?

マーケティングの欠如 が 技術力(競争力)の低下 を招く・・・

実は、『時代劇はなぜ滅んだか?』を書いた春日太一さんも、映画はかろうじて首の皮一枚生き残っていることを認めていらっしゃいます。しかし同時に、「映画ではダメだ! 時代劇を復活させることはできない!!」ともおっしゃっている。なぜか? それは、TVは連続シリーズになるが、映画は単発で終えることが多いから、だそうです。うーーむ、この説明だけではわかりにくいですね、もう少し詳しくお話しましょう。

 

春日さんの 『時代劇はなぜ滅んだか?』 は、以下のような章立てになっています。

 

第一章   時代劇の凋落

第二章   時代劇は「つまらない」?

第三章   役者がいない!

第四章   監督もいなくなった・・・

第五章   そして誰もいなくなった

第六章   大河ドラマよ、お前もか!

 

第一章は、現状の事実認識ですので、特段の主張・メッセージはありません。第二章以降で春日さんによる時代劇が滅んだ理由が説明されるわけですが、それは大きく分けると2点に集約できます。

 

(1)      マーケティングの失敗(第二章・第六章) ・・・ 殺陣のうまいベテラン陣を中核に据え、古き良き勧善懲悪スタイルを求めている視聴者のニーズを読み違え、様にならないアイドルや強すぎる女性を前面に出した結果、新規ファンの獲得はおろか、従来の時代劇ファンまで去ってしまった

(2)      人材育成・スキル移転の失敗(第三章・第四章・第五章) ・・・ ドラマの連続シリーズが激減し、単発映画のみになってしまったため、経験のあるベテラン陣の確保が困難となった。結果、ベテランのスキルを受け継ぐ若手が育たず(というか、存在せず)、俳優人における殺陣や所作、言葉遣い、スタッフ陣における道具作成やあ・うんのカメラワークなどが消滅してしまった

 

いかがでしょう、上記(1)(2)って、日の丸製造業の没落原因に非常に似ていると思いませんか? 唯一違う部分があるとすれば、失敗の “順序” だと思います。

 

(日の丸製造業の場合) 

自身の技術力に過信するあまり、マーケティングをおろそかにしてしまった。そこで急遽、マーケティング重視策に切り替えたが、消費者ニーズの進化に追いつけず、そうこうしているうちに、技術そのものがコモディティ化し、より安価な新興国にやられた(ex. ケータイ、iPod vs ウォークマン等)

 

(日の丸時代劇の場合)

消費者ニーズを読み違えた結果、TV時代劇の視聴率が凋落し、スポンサー離れを起こした。単発の映画やスペシャル・ドラマはかろうじて残ったものの、継続的な人材育成・スキル移転が滞り、従来のような完成度の高い作品が作れなくなった。これにより、さらなる視聴者離れが進行した

 

結局、“ニワトリと卵” の世界になりますから、同じなんですけどね・・・

 

さて、この話をアメリカ人の同僚Aにしてみたところ、意外な回答を得ることができました。

 

アメリカ人同僚A 「・・・ふーーん、アメリカでもマカロニ・ウエスタンなどの西部劇には翳りが見えるけど、日本ほど凋落してはいないな。確固たるファンが多数いるし、若い連中でも西部劇好きが結構いるからね」

私 「ふーーん・・・ 日本の時代劇と、一体どこが違うんだろ?」

同僚A 「それは、“システム” の違いだと思うよ!」

私 「“システム” ?」

 

果たして、同僚Aの言う “システム”の違い とは、何を指しているのでしょうか? もしかしたら、それが日本の時代劇、いや、日の丸製造業も含めた復活のヒントになるかもしれません。続きは・・・、次回お話したいと思います。

(次回続く)

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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