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いきなりですが、みなさんは “運” というものを信じますか?
ま、そもそも、“運” という言葉の定義自体が非常に難しいのですが、とりあえず、
というWikipediaの記述を採用することにしましょう。
「自分ではどうしようもないことって、人生山のようにあるよな・・・」 そうですよね。だから、冒頭の質問は不適切かもしれません。ほとんどの人は、Yes という回答になってしまいますから。
では、改めて・・・ みなさんは “運がいい” “運が悪い” という状況を信じますか? さらに、“運を引き寄せる方法がある” と思いますか?
何やら、胡散臭くなってきましたね。 なぜ、胡散臭いのか? それは 「その人の意思や努力ではどうしようもない・・・」と定義しているにもかかわらず、それをコントロールする方法があると言われるから、頭が混乱するというか、“期待” してしまうからです。
一方で、“運” をコントロールするというテーマは、非常に大きなビジネスを成り立たせていて、書籍やセミナーなど、この手の話は次から次へと湧いて出てきます。私のメールボックスにも、1日に10通は、“運” 関連のメールが届いています。読むと、それなりにもっともらしいことも書いてあるのですが、要は、高額な教材やセミナーへの勧誘。試しに内容を紹介しているサンプル画像を見てみると、何が言いたいのかわからん。この人、事前に話すことを整理したのだろうか、と疑いたくなる。また、お世辞にもうまいプレゼンとはいえない。これなら、どう見ても私の方がうまい!
しかし、需要があるからこそ、供給が成り立つわけで、世の中には、どんなに胡散臭いものであっても、藁にもすがる思いでそれに飛びついている人がいるわけです。そういう意味では、その人の意思や努力ではどうしようもない “運” をコントロールしたい(他人より多く得たい)という欲求は、われわれ人間にとって、本質的・根源的なものなのでしょう。
さて、私がなぜこのような話を始めたか? それは、外資系企業に勤めるようになって、特に外国人と接するようになって、この “運” に関する私自身の考え方が、相当変化したからなのです。一体、どういうことなのでしょうか?
先日のこと、その日私は、会社からクライアント先に行く予定がありました。配布資料の準備をしていたら、予想以上に時間がかかってしまい、かつ、荷物もあったものですから、タクシーを使うことにしました。
配布資料を両脇に抱え、タクシー乗り場で待っていました。既に4~5人が並んでいたでしょうか。しばらくして、私の順番。
「えっ?! あっちゃーーー・・・」
私の前に現れたのは、中型のハイブリッド車。なぜ、「あっちゃー」 なのかと言いますと、狭いから嫌なんです、ハイブリッド車のタクシー・・・。なんか、超わがままな感じがしますが、どうせ同じ運賃払うなら、典型的な大型タクシーでゆったりとしたいじゃないですか。
かつ、この車、車体に “ものすごい” デコレーションがなされています。“ものすごい”って、何やねん! いやいや、とにかくものすごいんです。渋谷や新宿で、よく 「ここに電話してね!LOVE!!」的な、ケバケバしい宣伝カーが走っているのを目にしますが、それにも引けを取らないぐらいものすごい! 一体、何が描いてあるのか?
「SAMURAI JAPAN 全てをかけろ!サッカー日本代表を応援しよう!!」
(※タクシー会社が特定されてしまうので、フレーズを意図的に変えています)
なんと、サッカー・ワールドカップのキャンペーンカー! 車体の横には、日本代表で人気の高い4選手の精悍な写真がプリントされています。
「おめでとーございまーす! お客さん、このタクシーは都内で11台しか走ってないんですよ!!」
「は、はぁ・・・ (そんなことより、ちょっと急いでるんじゃが・・・)」
「さらに! このタクシーは、11台のうちでもスペシャルカーでして、なんと ○○ 選手 の直筆サインがあるんですよ、ほら、ここ、ここ!」
確かに、海外で大活躍している ○○ 選手のサインが、シートに大きく書かれていました。マニアにとっては、超垂涎ものでしょう。熱烈なファンではない私でも、ちょっと興奮しましたから・・・。
「さらに! さらに!! スペシャルカー搭乗記念に、サッカー日本代表グッズを差し上げます。非売品ですから、値打ちもんですよーーーーーーーー!!!」
「あ、ありがとうございます・・・ (って、早く行ってくれやーーーっ!)
一体、どれだけの “運” を使ったことでしょう・・・ このタクシーを狙って、列に並んだわけではない。つまり、恣意的ではなく、自分ではどうすることもできなかったのは自明です。
そもそも、このコンセプトのタクシーならば、オフィス街の、それも特定企業の前で、客待ちなんぞするなよっ、とも思います。渋谷とか、新宿とか走ったほうが、宣伝になるじゃないですか! ま、つべこべ言っても仕方ない。全ては、“運”、どうすることもできない “めぐり合わせ” なのですから。
私自身は、“運がいい・悪い”、“運をコントロールする”、ということには否定的で、確率的に起こることは、その確率通りに起こるし、何か特別なアクションによって、他人よりも多くの運を呼び込むことなどできはしないと考えています。
全ては確率通りなのですから、サンプルと経験が多ければ、同じ確率に収斂するはずです。ただ、人の人生というものは、確率が収斂するほどの経験を積むには短かすぎるため、結果的に、生きている間にたまたまいいことが起こった人を “運がいい”、良くないことが起こった人を “運が悪い” と称しているのだと考えています。よって、「“運”の総量はみな同じ」には納得がいかない。「“運”の総量は、相当数の経験のもとでは同じ量に収斂するが、人の人生は短いので、結果的に、運がいい人と悪い人に分かれてしまう」 というのが、私の主張です。
・・・という話を、アメリカ人の同僚Fに話してみたところ、
「うーーん、タカシの言っていることはわかるけど、俺は全然納得できないね。“運” って、そんなもんじゃないんだよ・・・。よし! それを証明するために、今週中に、俺もタカシと同じタクシーに乗ってみせるよ!」
「乗ってみせるって、都内で11台、サイン入りは4台しか走ってないんだぜ?!」
「大丈夫、大丈夫、任せとけって・・・」
さて、Fはどうやって、超ハードルの高い “運” を引き寄せることができるのでしょうか?
次回へ続く
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1968年7月 奈良県生まれ。
大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。
みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。
書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ