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タカシの外資系物語

“放置プレイ” が 人を育てる?! (その3)2014.06.10

    「自分がやった方が早い」は、病気?!

    前回の続き) 外資系企業のみならず、日系企業においても、営業力・人材育成力が強いとされる企業の特徴として、部下に対しては “放置プレイ”(=やるべきこと と 期日 だけを伝えて、後は放置する) を基本とする、というのがあります。“放置プレイ” とはその名のごとく、部下に仕事を任せ、口出ししないこと。今回のコラムでは、なぜ放置プレイが人を育てるのか? および、本当に完全放置でいいのか? という疑問にお答えしたいと思います。


    ヒト・モノ・カネ・・・ “放置プレイ” においては、原則それら仕事に必要な資源(リソース)のやりくりを部下に任せ、上司は口出ししません。「わかっちゃいるけど・・・ やっぱり心配でねぇ・・・」という管理職のみなさん、私もその気持ちはわかります。しかしはっきり言いますが、それは部下を “心配している” のではなくて、“信用していない” のです。私はこれを “自分がやった方が早いのに・・・病” と呼んでいます。「“自分”があと3人ぐらいいれば楽なのに・・・」 心の中で、そう思っていませんか? かつて、私もそう思っていました。しかし、今になってその時期のことを思い返してみると、モーレツに働いていたわりに、自分のスキルアップにはあまり貢献していなかったように思います。同時に、自分の部下の成長にも寄与していなかった。そして、成果もそれほど出ていなかった・・・ 

    マネージャーというステージに上がるためには、「自分ではない他人を、いかにうまく使うか?」ということを考えなければなりません。他人にうまく動いてもらうためには、スキルを向上してもらう必要があります。「他人をうまく使うことによって、育ってもらう。具体的には、自分の後釜を作るように誘導する。もっと言えば、自分を追い越してもらう」 これぐらいの発想に立たないと、自分も部下もスキルアップして、業績も上げるなんてことはできません。その有効な手段の1つが、“放置プレイ” なのです。

    頭が割れるほど、考えろ!

    では、なぜ “放置プレイ” によって、人は育つのか? それは、「自ら考える」 からです。わからないこと、自分が経験したことのないことに対して、どう対処すればいいのか。考えて、考えて、考え抜いて、答えを出す。始めは、うまくいかないことの方が圧倒的に多いでしょう。それでも、繰り返し、繰り返し、自ら考え抜く。そうすることによって、ビジネスパーソンは驚異的なスキルアップを実現することができるのです。 
    日本経済新聞の 『私の履歴書』 に出てくる経営者の逸話を見ていると、必ずといっていいほど、新規事業や海外事業など、前例のないことにチャレンジした経験が語られています。興味深いことに、その多くは、“失敗事例” です。にもかかわらず、経営者が自分の会社人生を振り返ったときに、まず思い浮かぶのは、事案の成否にかかわらず “放置プレイ” の経験なのです。なぜなら、その経験によって自分がスキルアップしたことを、また、マネージャー、経営者として必要な心構えを身につけることができたことを実感しているからです。 
    また、ベンチャーの企業家たちは、極めて若くして、“放置プレイ” を経験している。だから、彼ら・彼女らは強い、失敗に対する耐性があり、胆力が備わっているのです。


    現在の若手社員に欠けていること、それは、頭が割れるかと思うぐらい、考え抜くことです。単純な処理は、ITが片付けてくれます。ITができないこと、前例のないこと、また、自分の上司より上の世代では考え付かないような回答を、知恵熱が出るくらい考えてみる。研修のような擬似体験ではなくて、あくまでも実践の場で。そうすれば、余程の無気力人間でない限り、必ず伸びます。上司や経営者は、「口出ししない」ことが自分の役割だと心得て、ドカンと構えていてほしいと思います。

    WBSで “放置プレイ” をチェックする?!

    「実際の業務で、“放置プレイ”? 失敗したら、どうするんだ! 俺は心配だから、口出しするぞ!!」

     


    確かに。人材育成は重要ですが、そのためにお客様に迷惑をかけたり、損失を出したりしていたのでは意味がありません。だからといって、上司がいちいち口出ししていたのでは、部下が育たない・・・ 
    このジレンマを解決する方法として、外資の “放置プレイ” では、WBS(Work Breakdown Structure)の作成を義務付けています。WBSというのは、作業スケジュール、工程表のことです。言うまでもなく、WBSは進捗管理をするためのツールです。加えて、“放置プレイ” においては、もう1つ大きな意味を持ちます。それは、「チェックの機会を入れる」ためです。WBSにチェックのタイミングを明記し、その期日までに報告できるレベルの成果を上げさせるのです。


    私が勤める会社では、Reviewと呼んでいるのですが、要は、“放置プレイ” で仕事を進めている部下について、上司を含めた責任者レベルがチェックをする機会を設けるのです。会社の戦略に合っていればそれでよし、修正が必要なようなら、その会議で集中的にアドバイスをするわけです。 
    日常的にダラダラと口出しを繰り返すのではなく、普段は “放置プレイ” で任せ、Reviewでボコボコに・・・、いや、的確なアドバイスをする。このメリハリが、人を育てるのです。


    また、Reviewにおいては、仕事の進め方・進捗のチェックをするとともに、もう1つ重要なことを決めておきます。それは、“プランB” と言いまして、作業がうまくいきそうになかったり、成果が限定的になったりする恐れが出た場合の 代替案 です。“プランB” には、中止する も含まれます。成果の上がりそうにないことを継続することは、損失の垂れ流しを意味します。ならば、いっそのこと止めた方がいい。このような大きな判断は、当事者の社員にはできません。よって、Reviewの場で決めておくのです。


    最近は、日系企業の多くで “放置プレイ” が推進されるようになってきました。しかし、“プランB” の策定が甘い。上司の役割のうち、部下の仕事について責任を持つ ことは重要な要素です。ならば、“プランB” の策定は、上司の責任です。私は “プランB” の欠如こそが、現状の日系製造業の凋落を招いたと考えています。上司ならば、部下のケツをふく 覚悟を常に持つとともに、会社のケツもふく対応が求められて当然なのです。 


    私 「あのさぁ、最近Aくんを見かけないんだけど・・・ どこ行ったんだろ?」 
    B 「そういえば、いませんね・・・ 先週、タカシさんからやりがいのある仕事をもらったって、気合入ってたんですけどね」 
    私 「ふーーーん」


    上記の会話から2日が経過。Aくんからは、まだ連絡がありません。どこ行ったんやーーー? 放置しすぎかーーー!(T-T)   ・・・と、Aくんから携帯に着信が!


    私 「Aか? どうした?」 
    A 「あ、タカシさん、すみません。先週末にインフルエンザにかかっちゃいまして、自宅で寝てました。明日から復帰して、バリバリやりますから・・・」 
    私 「お、おまえなぁ・・・ なんで、会社休むこと、俺に言わなかったわけ?」 
    A 「だって、『Reviewまでは放置するから。好きにやってくれ・・・』 って、タカシさんが言うから・・・」 
    アホかーーーーーーーーーーーっ! それとこれとは、話が違うわーーーーーーーーーーっ!! 思いっきり心配したやないかーーーーーーーーーーーーーーー!!!(T-T)(T-T)(T-T)


    いずれにしても、“放置プレイ” は大変なんですよ・・・ って、ちょっと違うか・・・。では!

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    この記事の筆者

    奈良タカシ

    1968年7月 奈良県生まれ。

    大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

    みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
    出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
    結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

    書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
    奈良タカシ

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