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タカシの外資系物語

外資流! 「辞めたい」人への説得策 (その1)2012.09.24

    タカシはなぜ、Aくんとの会話にうろたえるのか?

    Aくん 「タカシさん、ちょっと話があるんですが・・・」 
    私 「ん、どうした?」 
    キターーーーーーーーーーーーーーーーっ! えらいこっちゃ、えらいこっちゃ、ヨイヨイヨイヨイ!(かなり、錯乱気味・・・) 


     以前にもお話したと思いますが、部下から 「ちょっと話があるんですが・・・」 と切り出されたときの、相場は決まっています。次のセリフはズバリ 「退職したいんですが」 !! 


    私 「どうしたの?」 
    A くん 「実は・・・ 来月末で、退職したいと思っているんですが・・・」 
    やっぱり、キターーーーーーーーーーーーーーーーっ! えらいこっちゃ、えらいこっちゃ・・・ 



     日系企業ならば、本人からの話を聞いて、まずは説得。で、こちらの説得にも応じないようであれば、人事部に相談する方向になると思います。しかし、外資系の場合は、本人が所属する組織のリーダーがOKなら辞めさせればいいし、NGならリーダーの責任で、退職を阻止せねばなりません。仮に、退職されてしまった場合、その補充要員を人事が準備してくれるわけではなく、リーダーが自力で調達しなければならないのです。 


     その代わり、リーダーは新規採用の権限を相当与えられているので、日系企業に比べれば、人を入れ替えて組織を刷新する作業は、短期間に、かつ、思い通りにできる、とも言えます。ただし、新規採用にかかるコストというのはそれなりのものでして、上位クラスの場合、ヘッドハンターを使ったりするので、1人あたりン百万はくだらない。また、優秀な人材を新規で採用できたとしても、本格的に戦力として計算できるようになるまでには、少なくとも半年はかかります。 


     それよりも何よりも、退職話を持ちかけるスタッフの大半は、「辞めてほしくない優秀な人材」 です。代替がきかない。だから、何とか引き止めねばならない。優秀なAくんに話を持ちかけられた私、会話は平静を装っていても、心中は 「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ・・・」 の錯乱状態となるわけです。 


     それにしても、9月末、年末、3月末というのは、この手の話が多い。 
    特に、今年は・・・。 私のMail Boxにも、毎日1通は、「お世話になりました」のFarewell メールが届きます。Farewellメールの “フォーマット” がコレクションのように溜まっていく始末。全く、さびしい限りですな・・・(T-T) 

    タカシ流 優秀な人材を引き止める策とは?

     スタッフが退職を考えるに至った理由は様々なんですが、要は、「給料が安い」「仕事が面白くない」「自分にはやりたいことがあるが、今の状態ではできない」・・・ 要約すると、みな同じです。これら不満を解消してやれば、転職する理由はなくなるわけですが、そう簡単にはいきません。「給料が安い」と文句を言われて、「ハイハイ、そうですか。では、給料を上げましょう!」とやっていたのでは、組織のガバナンスが保てません(当たり前)。 


     退職したいと言ってきたスタッフが優秀で、どうしても思いとどまってほしい場合、私が取るカウンター(対抗)策は、以下の通りです。 
    【退職を思いとどまらせるカウンター(対抗)策】 
    (1) 昇進させる = 昇進させることによって、給料を上げる 
    (2) ロール(役割)を替える 
    (3) 海外研修(短期MBAプログラム等)に行かせる 


     上述の通り、(1)は非常に難しい。特に、不景気な昨今においては、正規のプロセスで昇進している人たちの給料も、昇進前と同じで “据え置き” だったりしますから。 


     (2)は、例えば、営業担当だったスタッフを、本部企画や役員補佐などに配置転換することを言っています。 これは、策としては有効だと思います。ロールを替えることで、これまでのしがらみを一切断ち切り、目先を変えて、心機一転仕事に取り組むことができますからね。私も若かりしころには、本部企画や役員補佐になりたかった・・・(T-T) 
     ただし、(2)の弱点は、今のロールからはがしてしまうので、結局、そのスタッフは当該部門からいなくなってしまう、ということです。会社としては優秀な人材を手放さずに済んで良かったわけですが、部門単位のミクロ視点では、退職されたのと同じインパクトがあるわけです。もちろん、「1年たったら戻ってきてね」的な “紳士(?)協定” はあるわけですが、私の経験上、守られたことはあまりない。私はこれを、“「優秀な人材を手放すと、二度と帰ってこない」の法則” と呼んでいます。 

    短期海外研修は “まやかし” か?

     私が最も有効な策として多用しているのは、(3) です。(3)ならば、研修が終われば、元のロールに戻ることが前提ですから、部門としてのインパクトもほとんどありません。また(1)のように、当該スタッフがいくら優秀とはいえ、いきなり昇進したのでは他のスタッフに “示し” がつきませんが、海外研修程度なら、変な疑念も持たれずに済みます。 


     幸い、外資系企業には、短期の海外研修メニューが豊富に揃っています。私も、短期MBAプログラムに行かせてもらいました(No.313 - 315 『あ~アメリカ、憧れのビジネス・スクール』 参照のこと)が、参加者の言動を見ていると、「現状に不満を持っているが、バリバリやる気のある奴」が多く、退職を引き止める(リテンション)目的で派遣されたのかな・・・ と思ってみたりもします。もちろん、業績を上げたスタッフには、その “ご褒美(Reward)” として参加させたりしているようです。 



     実は私、今の会社で過去に一度だけ、退職話を切り出したことがあります。そのときは、業界そのものの景気が良かったこともあり、かなりの待遇 = 上記(1)(2)(3)の合わせ技で説得され、見事(?)上司の作戦にはまり、退職を断念しました。現状の会社に残ることも視野に入れて退職話を持ち出す場合には、「時期」も重要なのかもしれません。ま、あまり計算高くなりすぎると、ろくなことがありませんが・・・。 



    私 「・・・なるほど、Aくんの言い分はよくわかったよ。でも、会社としては、あなたを将来の幹部候補として期待しているし、今後も一緒にやりたいと思ってるんだけどな・・・」 
    Aくん 「そうとは思えないですけど・・・」 
    私 「うむ・・・、1つ提案なんだけど、気分をリフレッシュする意味で、海外研修に参加してみないか? 短期のMBAプログラム。今のプロジェクトも、かなり長くなってるしね・・・。MBAプログラムは俺も参加したけど、 外国人の同僚と意見交換することで、新鮮な見方もできるようになったし、すごく意味があったよ。退職話はいったんOFFにして、もう一段ステップアップするために、参加してみなよ!」 



    どうだーーーーーーーーーーーーーーっ! タカシ、会心のカウンター策を受けてみよーーーーーーーっ!! (ふふふ、これで思いとどまってくれるだろう、ニンマリ・・・) 


    Aくん 「なんか、怪しいな・・・」 
    私 「へ?(おや?) いやいや、俺の推薦で絶対行かせてやれるから・・・」 
    Aくん 「それを疑っているわけじゃなくて・・・ 海外のMBAプログラムって、ホントに楽しいですか? ためになる? 英語の苦手な日本人が、ネイティブの中に混じって数週間過ごすなんて、苦痛なだけでしょ? 正式な2年間プログラムなら、どこかの段階で “開眼” できるかもしれないけど・・・ 私自身は、短期のMBAは否定的なんすよね」 
    私 「・・・(なんやねん、コイツ。俺のカウンター策に、全くなびいとらんやないか!)」 


     ただ、私も即座に言い返せなかった・・・。その理由は、実は私も心の奥で、Aくんと同じ意見を持っているから。 「短期(1ヶ月程度)の海外研修なんて、苦痛の連続。慣れた頃には、終わっている。退職を表明した者に対する “まやかし” のリテンション(引きとめ) とご褒美でしかない・・・」 


     いやいや、そんなことは絶対ない! リテンションやご褒美を超えるメリットは、必ずある。 じゃ、何? 
    次回のコラムでは、それについてお話したいと思います。 


    (次へ回続く)

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    この記事の筆者

    奈良タカシ

    1968年7月 奈良県生まれ。

    大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

    みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
    出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
    結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

    書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
    奈良タカシ

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