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タカシの外資系物語

タカシが“失敗”から学んだプレゼンの極意とは?( その 3 )2012.08.21

    理事長Cさんの不安げな出だし

    (前回の続き) 「あなたのプレゼンは流暢すぎて、逆に信用できない」「タカシのしゃべりは、プレゼン全体をスポイル(spoil=ダメ)にする」・・・唯一の得意技だと自負していたプレゼン術を、クライアントにこき下ろされた私。茫然自失の中、ある会合でのプレゼンに、目を開かされることになりました。それは、マンションの理事会でのこと。さて、私の胸を打ったプレゼンとは、一体どのようなものだったのでしょうか ? 


    「えーー、それでは、平成○○年後期の、り、り、理事会総会を始めます。えーーー、ん ? 次は、ここを読めばいいんでしたっけ ? 」 


    私が住むマンションは、40戸の世帯が住む小規模なもの。マンションの理事は、各世帯の輪番になっていて、ほぼ10年に1回のペースで順番が回ってきます。ま、どこのマンションでもそうでしょうが、マンションの運営なんてのは、名目は「理事を中心とした住民自治」をうたっているものの、実際には、管理会社が全てのシナリオを書いて、管理してくれています。いわば、“お飾り”でして、当然のことながら、ファシリテーションや仕切りのプロではありません。今年、理事長を務めるCさんも、本職はイタリアンのシェフさんでして、会議の冒頭から、「Cさん、大丈夫か ? 」と声をかけたくなる、不安げな出だし・・・。 


    管理会社の人 「そうです、ここから順番に読んでください・・・」 
    Cさん 「えーー、では、議題1:ハトの糞対応について、から議論します・・・ えーー、うーー・・・、あのぅ、どうせ私は棒読みしかできないんですから、管理会社の方がやっていただくわけにはいかんのでしょうかねぇ ? 」 
    管理会社の人 「い、いや、それはちょっと困ります・・・」 

    理事長Cさん、“プチ紛糾”を切り抜けられるか ?

    一同苦笑・・・ なんですが、Cさんの実直な人柄が現れて、思わず応援したくなります。 


    これは余談なのですが、うちのように小規模なマンションなら、上述のような“のどかな”理事会総会も可能なのですが、大規模マンションの場合は、そうもいかないようです。私のチームにいるDくんは、都内近郊でも屈指の大規模マンションに住んでおり、総会の規模もハンパではない。なんと、数千人収容( ! )のコンサートホールで実施されるようです。嵐かAKB48のライブ並みですな、これは・・・ 
    数年前、そのDくんが理事長だったときなどは、本当に大変そうでした。特に、マンションの修繕費の積み立て不足が発覚し、管理費を値上げする議案が持ち上がり、理事会総会は紛糾。理事長のDくんは、千人超の住人からつるし上げを食らったそうです。まるで、どこかの政党みたいですが・・・。それ以上に、Dくんかわいそうですよね・・・・。 


    Dくん 「タカシさん、先週末、マンションの理事会総会があったんですが、ホントに大変でしたよ・・・。でも、本職のコンサルでも、数十人を前にしてのプレゼンしか経験がないのに、千人超を前にしたプレゼンは、いい経験になりました ! 」 
    ひょうたんからコマ、とは、このことか・・・ 


    話を戻しましょう。わがマンションの理事長であるCさんは、その後、どのように議事を進めたのか ? 


    Cさん 「議題1:ハトの糞対応について、です・・・」 
    住人A 「一言いいですか ? 」 
    Cさん 「どうぞ」 
    住人A 「ハトの糞被害は、6階と7階の特定世帯に限ったことです。理事会案を見ると、その駆除作業にかかる費用を、全世帯で負担する、となっていますが、これはちょっと違うんじゃないかと。6階と7階のみなさんで解決すればいいのでは・・・」 
    住人B 「その意見は乱暴だなぁ・・・私も意見言って、いいですか ? 」 
    Cさん 「どうぞ」 
    住人B 「その論理がまかり通るなら、マンションの修繕なんて、壊れた階に住んでいる人だけが負担すればいい、という話になりませんか ? 当然、全世帯で負担すべきだと思う ! 」 


    “プチ紛糾”状態です。理事長のCさん、どうする ? 


    Cさん 「管理会社の方、どうですか ? 」 
    管理会社の人 「あくまでも参考ですが・・・同様のケースでは、ほぼ100%、マンションの修繕積立金から負担されています。つまり、全世帯で負担、ということです」 
    住人B 「やっぱり、そうでしょ ? 」 
    住人A 「そういうもんか・・・」 
    Cさん 「ということで、本件については、理事会案の通り、修繕積立金の一部を取り崩して対応することにします ! 」 

    プレゼンだからこそ、“聴く” !

    私は心の中で、「うまい ! 」と叫んでしまいました。なぜ、うまいのか ? 相反するステークホルダー(住人AとB)の意見を引き出した上で、管理会社の人に客観的な見解を述べさせ、参加者の納得感を得た上で、目的通りの結果(=理事会案を通す)を得ているからです。 


    もちろん、当のCさんは、そんなこと狙って議事を進めたわけではないでしょう。総会後にCさんと話した際、こんなことを言っていました。 
    Cさん 「いやぁ、つたない議事進行ですみません・・・もっと、しっかり仕切るべきだったんでしょうねぇ・・・」 
    私 「いやいや、そんなことはない。素晴らしかったですよ!」 
    Cさん 「いやね、本職がコックなもんで、お客さんからの苦情も含めて、“話を聴く”ことには慣れているんですけどね・・・」 


    まさに、この“話を聴く”というのがポイントなんです。仮に、私が理事長だったら、どんな議事進行になったか ? 


    「・・・議題1:ハトの糞対応については、理事会案の通り、修繕積立金の一部を充当する形とします。被害に遭われているのは特定階のみですが、他の事例を見ても、同様のケースではマンション全世帯で費用を負担することが社会通念となっていますので、ご了解ください。何か、ご質問は ? 」 


    こんな感じで、結論も含めて、住民の意見も聞かずに、何から何まで仕切ったに違いありません。確かに、この方が議事はスムーズに進むでしょう。しかし、ステークホルダー(住民)の心情はどうか ? 意見を言わせてもらえなかった鬱憤は、私だけでなく、マンション自治そのものに及ぶかもしれません。結果、住民間でギクシャクした関係が生じるかもしれない・・・ 


    プレゼンも同じなんですよね。聴衆に意見を述べさせて、その内容を使って、結論を導く。もちろん、結論は当初想定した範囲内に収めたいわけですから、聴衆の意見をうまくミックスしなければなりません。 


    これを、「傾聴=アクティブ・リスニング」といいまして、外資系企業では、マネジャーや営業職を中心に、研修体系の柱になっています。先ごろ流行った サンデル教授の白熱教室も、実は「アクティブ・リスニング」の手法を巧みに使っています。ビデオをじっくり見ると、サンデル教授も、都合のいい部分だけを使って、結論を導いていたりします。しかし、意見を聴くことで、参加者の納得感が格段に違うのです。同じことを、サンデル教授が一方的に話したのでは、あれほどの人気コンテンツにならなかったと思います。 


    マンションの理事会に参加して以来、私は自分が行うプレゼンの時間配分を、「説明2割、傾聴8割」とするよう、心がけています。以前は、「説明9割以上(ときには、全部説明 ! )」でしたから、かなりの変化だと思います。結果、以前に比べると、成約率もかなり上がっています。やはり、「アクティブ・リスニング」の効果はてきめんだったということでしょう。 


    プレゼンが得意だと自負しているみなさん、しゃべりが得意だからこそ、「アクティブ・リスニング」の手法を組み込んでみてはいかがでしょうか。きっと、新しい世界が目の前に、広がってきますよ。是非、お試しあれ ! 

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    この記事の筆者

    奈良タカシ

    1968年7月 奈良県生まれ。

    大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

    みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
    出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
    結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

    書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
    奈良タカシ

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