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タカシの外資系物語

なぜ、日本人の説明は 「自転車置き場の議論」 に陥りやすいのか ? ( その 2 )2012.02.14

“細かすぎるスライド” に注意せよ

(前回の続き) 前回のコラムでは、「日本人が外国人に対して実施するプレゼンおよびその後の議論は、“自転車置き場の議論” になりやすい」という仮説をお話しました。“自転車置き場の議論” とは、「組織は些細な物事に対して、不釣り合いなほど重点を置く」という、「パーキンソンの凡俗法則(Parkinson's Law of Triviality)」の俗称です。これは、「自転車置き場は必要か、否か ? 」という本質的な議論をそっちのけに、「自転車置き場の屋根の色」 や 「壁の材質」など、どーーでもいい議論に、打ち合わせ時間の大半を割いてしまう状況のことを言っています。では、どうしてこのような不毛な状況を招いてしまうのでしょうか ?


“自転車置き場の議論” が生じる原因は、話し手(日本人)と聞き手(外国人、特に経営層)双方にあると思います。まず、話し手(日本人)の問題として、話す内容・提示する資料が “細かすぎる” ところが上げられます。

 

大抵の場合、プレゼンテーションはパワーポイント(パワポ)で作られた資料をベースに実施されるわけですが、日本人が作るパワポ資料は、字が細かく、内容を詰め込みすぎる。プロジェクターで映しても、細かすぎて、全く読めん ! というスライドのオンパレードになりがち・・・ まぁ、これは日本人の国民性だと言ってしまえばそれまでなのですが、とにかく、場に不相応な “ミクロ資料” が多すぎるのです。聞き手の外国人経営層にしてみれば、提示されたスライドの、どの部分が重要なのかよくわからないので、とりあえず、気になった部分を見つけたら、その重要度も考慮せず質問してしまう(質問せざるをえない)ため、議論がどんどん本質から乖離してしまうのです。

 

前回のコラムで例示した私のプレゼン失敗例では、「ある案件への投資に関する是非」を議論することが、そもそもの目的でした。この場面で外国人経営層に提示すべきは、「案件概要」「投資額」「見込まれる定量的メリット」「その他定性的メリット・デメリット」「リスク」「要望事項」などの概要さえあれば十分のはず。しかし ! 私はご丁寧にも、「定量的メリットの内訳“詳細”」まで事細かに提示したため、その不整合を指摘され、ハマったわけです。

 

私の経験では、プレゼン本紙にあたるスライドでは、文字のフォントが 16 - 18 pt で表現できるレベルのものでまとめ、それ以外の情報は、別紙として添付し、万が一問われたときのために補足として準備しておく・・・ 程度のイメージで資料を作ると、うまくいくことが多いように思います。

“「日本人は理解不能」 という態度” に注意せよ !

聞き手(外国人、特に経営層)の問題として大きいのは、日本人に対するステレオタイプ的な見方、具体的には、「日本人というのはよくわからん人たちなので、少しでもわからないことがあれば、(仮に、それが些細なことに思えても) とりあえず確認しておこう。その方が安全だ ! 」 という態度を取りがちだということです。

 

初めて日本に来た外国人に、日本人の第一印象を聞くと、「礼儀正しい」「物静か」「落ち着いている」・・・などのイメージを持つようです。で、その後、しばらく日本に滞在した後に同じ質問をすると、「無表情で、何を考えているかわからん」「喜怒哀楽がハッキリしないため、話している内容が、Good news なのか Bad News なのか、さっぱりわからん」・・・ という具合に、ネガティブな反応に変わる。しかし、これは日本人の振る舞いが突然変わったわけではなく、同じことを違う見方(好意的か、非好意的か)で表現しているにすぎません。要は、「最初は我慢していたが、いつまでたっても無表情な態度は変わらん・・・。全くもって、日本人は、わからん・・・」 そう言いたいわけです。

 

外国人にしてみれば、 Good news は笑顔でオーバーなアクションで話し、 Bad News はその逆のリアクションをとる、というのがスタンダードなのでしょうが、多くの日本人はそうではない。特に仕事中は、表情を崩さずに、淡々と報告をする人が多いというのが現実でしょう。

 

私の個人的な考えとしては、そのような行動様式に「正解」などなくて、「郷に入れば郷に従え(※)」という発想で、その国や集団の様式に合わせるように努力すべきなのだと思います(※英語では、When in Roma, do as the Romans do. (ローマにいる時は、ローマ人がするようにしなさい)と言ったりします)。

 

アメリカではアメリカ式に、日本人から見るとオーバーリアクションをとってコミュニケーションする日本人は受け入れられやすいし、日本にいる外国人も、日本式を理解しようと努力する人は成功しやすい。無表情な日本人を理解し、何とか、その表情に隠れている真意を読み解こうと努力する外国人は、組織にうまく溶け込んでいるように思います。つまり、「日本人は理解できない人種なので、微に入り細にわたって質問しなければ、信用ならん ! 」と、否定モードで接していたのでは、うまくいかんというわけです。ま、これも私の経験則ですが、外国人役員というのは、日本人をハナから否定してかかる輩が多いのは事実ですので、そのことは念頭に置く必要があると思います。

外国人役員は、“逃げ回る” ?

最後に、もう 1 つ大きな問題として、「外国人役員というのは、日本人が思うほどに、意思決定をしてくれない」ことにも留意すべきです。日本人的には、外国人役員というのは、即断即決のイメージがありますが、実際はそうではない。むしろ、その逆で、自分の手に負えなさそうな事案については、“積極的に” 自分は意思決定できないオーラを発して逃げ回る外国人役員の方が多い。

 

日本人役員の場合は、「これは私の意思決定レベルを超えているが、乗りかかった船だから、私の方から社長に話を通しておいてやるよ・・・」といった粋な計らいがあったりしますが、外国人役員の場合は、それすらしない。「おいおい、こんな厄介な話に、俺を巻き込んでくれるな ! 」とばかりに、逃げ回る人が多いのです。そのような理由で、“自転車置き場の議論” になるケースが多々見られます。つまり、言うべき相手に話をしていないわけです。

 

役員クラスにまで出世してしまうと、 1 つのミスが命取りとなって、出世競争から脱落してしまうのは、日米問わず、世界共通だと思います。中でも、アメリカ人というのはそれが顕著でして、リスクはほとんど取らずに、自分の得意分野の事案を待って、それに全力投球するというスタイルを取りがちです。

 

筋違いの相手に、いくら熱心に話をしても、はぐらかされて終わるだけです。重要なことは、「この事案は、だれに話すべきか ? どの役員なら、真剣に話を聞いてくれるか ? 」 ということを、十分に認識した上で、議論をする必要があるということ。そのためには、経営層内部のパワー・ストラクチャーを理解し、ターゲットとする役員が決まったら、事前にネゴ用の個別説明を実施するなど、外堀を固めていく動きも必要でしょう。

 

さて、 2 週にわたり、“自転車置き場の議論” についてお話しました。本質をはずした議論を延々と繰り返すのは、相手が外国人に限った話ではありません。日本人同士、担当者レベルでも、無駄な議論に時間を費やすというのは、みなさんの周りでも、日常的に起こっているのではないでしょうか ? 「あれ、ちょっとおかしいぞ・・・ これって、“自転車置き場の議論” になってません ? 」と、冷静に立ち止まる勇気こそ、これを回避する最善策なのかもしれませんね。では ! 

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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