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タカシの外資系物語

昇進したくない症候群 ? -女性のワーク=ライフ志向- ( その 3 )2012.01.24

若い頃に仕事を教えたアノ子が・・・

前回の続き) 前回のコラムでは、「上昇(出世)志向」 と 「ワークライフバランス」 という観点から、女性の ワーク=ライフ志向 を分類すると、「(1) キャリア重視型」 「(2) ワークライフバランス型」 「(3) 自己能力開発型」 「(4) ライフ重視型」 の4つに分かれるという話をしました。今回のコラムでは、(3)(4)のタイプに関する課題と取る組むべき人事施策をお話したいと思います。

 

「(3) 自己能力開発型」に属する人の典型的な課題は、「特定のスキル・能力は極めて高いが、マネジメント経験がないために昇進できない(昇進の機会が与えられなかった)」というものです。地方の営業所で大きな販売実績を残した人、庶務部門で高い業務処理能力を発揮した人・・・等々、しかし、出世のキャリアパスには乗せてもらえない。いわゆる、一般職・事務職といわれる職層で、上昇志向がある(あった)にもかかわらず、長年キャリアパスに乗せてもらえないことが “トラウマ” になって、半ば諦めかけている人が多い。一部は「(4) ライフ重視型」に走る人もいますが、「(3) 自己能力開発型」として、日夜、自分のためのスキルアップに励む人も少なくありません。
企業としては、ある特定分野で卓越したスキル・能力を持った人を相当数抱えることは必須だし、傾向としても望ましいはず。しかし、この層の何割かは、いいオファーがあれば転職して他社に移ることを、常に念頭に置いています。それは、以下の理由からです。

 

1.社内において、「特定分野のスペシャリスト」を評価する仕組みがない(昇進面・給与面とも)
2.「(1) キャリア重視型」志向があるのに、チャンスを与えられない

 

日本企業というのは概して、スペシャリストよりもゼネラリストを評価する傾向が強いのは確かでしょう。ゼネラリストというのは、マネージャーとほぼ同義。よくある笑い話として、日本の課長さんに、「あなたは何ができますか?」と尋ねたところ、「課長!」と答えたという話がありますが、まさにそれです。日本企業の課長職は、会社の様々なことを広く知っていることが求められるわけですが、いきおい、得意技がなく、各分野に対して浅い知識しかない。にもかかわらず、男性の大卒総合職というだけで、偉そうにしているわけで、スペシャリストの中にはこの状況がどうにも我慢ならん・・・ という人も多い。「○○課長が新人のとき、業務を教えたのは私なのに、今となっては立場が逆転している。この分野の能力なら、今でも断然、私の方が高いのに・・・ もー、くやしーー(T-T)」というわけです。

スペシャリストを囲い込め!

経営学のグルといわれる、H.ミンツバーグの著書に『マネージャーの仕事』(原題:『The Nature of Managerial Work』 by Henry Mintzberg)というのがあります。この本には、マネージャーの仕事とは何か? が定義されているのですが、それと比較しても、日本企業の「課長さん」のやっていること、およびその能力は、かなり見劣りする。これでは、スペシャリストが文句を言いたくなる気持ちも、わからんでもありません(ちなみに、外資のマネージャーというのは、ほぼミンツバーグが定義するような「マネージャー」像に近いです。これ以外にも、ミンツバーグの著書は示唆に富んだ内容が多いので、いつかまとめてご紹介したいと思います)。


上記1.に関しては、ゼネラリストだけでなく、スペシャリストを評価する仕組みを導入する必要があります。わが社の例でいえば、ある特定分野の知見が深い人(本を書いたり、外部講演をしたりして、世間にその名が知れ渡っているレベル)を役員待遇に引き上げる制度があります。公務員のⅠ種キャリアでいうところの、「技監」みたいなもんですね。この制度があるおかげで、マネジメント経験は浅いけれども、技術は一級品のSEなどが、他社に転職するリスクを、一定レベルで低減する効果があるようです。

 

2.に関しては、「(3) 自己能力開発型」に属するスペシャリスト層に対して、マネジメント活動(部下をつけて管理する、等)の機会を試行的に与えて、テストするような制度が必要でしょう。実は、前々回のコラムで紹介した、C子(年末の人事異動でパートナーに昇進した)は、入社時は「プログラマー職(一般職に該当)」でした。それが、大規模プロジェクトのリーダーを任され、PMを任され・・・等々、成功体験を積み重ねることで、役員にまで登りつめたのです。実力主義の外資だからできたのかもしれませんが、日本企業が女性の登用をはかるということは、すなわち、「男性」「学歴」「学閥」といった従来の評価基準から決別するということに他ならないわけで、そこにメスを入れられない企業に明日はないように思います。いかがでしょうかね?

人事制度 ≠ 社員の希望を実現する制度

「(4) ライフ重視型」における最大の問題は、「自分の意思としてライフ(仕事以外の時間)を重視したいのか? or 本当はもっと働きたいが、何らかの事情で(今は)働けないのか?」、つまり、「仕事以外の時間を重視している理由が、積極的意思なのか?、消極的意思なのか?」を峻別できていない、ということではないでしょうか。

 

「自分の意思としてライフを重視する」という考えは、それはそれでアリだと思います。あ、そうそう、“アリ”で思い出しましたが、『働かないアリに意義がある』(長谷川英佑著:メディアファクトリー)という本がありまして、その中にも、必要に迫られないと働かない階層があって、その階層が組織の円滑な運営に寄与していることが証明されています。ま、働いていないアリが、自分のライフを謳歌しているかどうかは疑問ですが・・・

 

ただ、私の個人的な意見としては、そういう働き方を選択する人(アリも?)に対しては、会社は投資をしないし、社員も多くを求めてはいかんのだろうと思います。リスクのないところに、リターンは生まれません。私企業でそういう働き方を選択するということは、ある意味、働かない人として烙印を押されるかもしれないということについて、リスクをとっているということです。仕事以外を重視して、仕事はそこそこで、それなりに給料をもらって、クビにもならない・・・ そんな夢のような話は成り立たんわけですから。

 

企業として、より注意を払うべきは、「本当はもっと働きたいが、何らかの事情で(今は)働けない」人を正確に認識し、どうサポートするか、ということでしょう。私のクライアント(銀行)で、こんなことがありました。その銀行に勤める、ある女性が産休に入ったのですが、ある日、その女性から人事部に、以下のようなリクエストがあったそうです。

 

「現在産休中なのですが、出産後はできるだけ早く、現場に復帰したいと思っています。一方で、私が休んでいる間に、新型の投資信託等、新しいタイプの金融商品が発売されたと聞いています。復帰当日から即戦力としてやりたいので、それら新商品の事務マニュアル・商品概要・行内通達などを自宅から見ることができるような仕組みを作ってもらえないでしょうか?」

 

私が銀行に入った20年ほど前には、週末になると、事務マニュアル・商品概要・行内通達などを紙袋に詰め込んで、週末に寮でシコシコ勉強したもんですが、今は情報管理が厳しくて、外部には持ち出せなくなっているようです。その銀行の人事部では、既存のEラーニングの仕組みに、事務マニュアル・商品概要・行内通達を閲覧できる機能を至急追加して、この女性のリクエストに対応したとのこと。
こういうのは、内容もさることながら、スピード感も重要です。企業のサポート度合に比例して、彼女たちのモチベーションも上がっていくと心得るべきでしょう。

 

さて、3回にわたって、女性の ワーク=ライフ志向 についてお話しました。1つ忘れてはいけないことは、人事制度というのは、社員本人の希望を実現することをゴールとしてはいけない、ということです。企業というのは、社員のものである前に、顧客のために存在するのであり、株主がそれを支えているのです。企業の戦略に合わせて、優秀な人材をいかに使って行くか? 社員をどんどんストレッチ(背伸び)させて、いかにチャンスを与えて行くか? 会社の戦略を理解せずに、文句ばかり言う社員は、単なる「モンスター社員」なのですから、去ってもらった方がいい。これが私の意見。

 

また、上述の通り、「女性の登用」 というのは、「男女差をなくし、実力のみで評価する」 と同義です。つまり、もっとも影響を受けるのは、これまでのほほんと過ごしていた男性社員自身なのだということを、会社全体が認識すべきです。多くの男性社員にとって、これまで以上に死に物狂いでやらなければ、居場所がなくなるわけで、本当にシビアな時代が到来したわけですから。

 

やる気のある女性のみなさん、わが社のB子やC子をサポートしたのと同様に、私もみなさんを応援しています。会社を、いや、日本の社会全体を変えていきましょう! 
世の男性管理職のみなさん、とんでもなく世知辛い時代が、もうそこまでやってきています。一緒にsurvive(生き残る)していきましょうね・・・(T-T) では! 

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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