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タカシの外資系物語

“ポジション・インフレ” を克服せよ ( その 1 )2011.05.10

サトシ、久々の日本帰国

「お、サトシじゃん、久しぶり ! どうよ、中国は・・・ ? 」


先日のこと、先日まで私のチームに在籍していたサトシくんと、久しぶりに会いました。サトシくんは、3 ヶ月前から、わが社の中国オフショア開発センターに配属されていました。


「オフショア開発」というのは、システム開発・運用管理などを海外の事業者や海外子会社に委託することを指します。その目的の 1 つが、「安価な労働力の大量獲得」。つまり、一定レベル以上の技術力を有したシステムエンジニアが大量に存在するマーケット(=人口が多くて、教育レベルがそれなりに高い)でなければ、オフショア開発は成り立ちません。このことから、大規模なオフショア開発センターの多くは、インドか中国に設置されています。


オフショア開発センターに業務を委託する企業は、アメリカや日本などの IT 先進国が中心となります。典型的な委託パターンは、本国でシステムの要件(どういう機能を有したシステムを作って欲しいか、書面に記載したもの)を作成し、それをオフショア開発センターでプログラミングするというものです(最近では、要件を定義する段階から、オフショアメンバーが参加するケースも多々あります。このことは、オフショアのレベルが上がってきたということを意味します)。その際のコミュニケーションとして使われる言語は、当然、英語です。ほとんどの IT 先進国では、仕事は英語で行われていますので、オフショアセンターの要員も、英語ができれば事足りるわけです。


し、しかし ! 唯一例外の IT 先進国があります。それは、日本・・・。日本ではつい最近、「社内英語公用語化」がごく一部の企業で始まったばかり。99.99・・・ % の企業は、日本語で仕事をしています。これは、システム開発の世界も同じことでして、開発に関するほとんどの書類は日本語で作成されているのです。


この日本語資料を、わざわざ英語に翻訳していたのでは非効率なので、「日本語で仕事ができるオフショア開発センター」を作ったのです。それが、中国のセンターだというわけ(最近では、東南アジアやオーストラリア、ブラジルなどでも、日本語が通じるセンターが設置されていますが、割合としては、中国が圧倒的です)。


サトシくんは、わが社の中国オフショア開発センターに、「センター長補佐」の肩書きで赴任しました。私の下にいたときは、ペーペーのコンサルタントでしたから、かなりの “栄転” だったわけです。

サトシ、悩む ?!

実は私、サトシくんの中国赴任について、少し・・・ いや、かなり羨ましく思っていました。なぜって ? いやー、これからはやっぱり中国でしょう、中国 ! はっきり言って、アメリカやヨーロッパの時代は終わったと思っています。中国への赴任経験は、キャリアパスとしても魅力的だし、何よりも面白そう ! なんか、刺激がありそうじゃないっすか ! 

 

私 「どうよ、中国 ! 面白いだろ ?! 」
サトシ 「え、ええ、まぁ・・・(どんより・・・)」
私 「なんか、冴えねぇなぁ・・・ 悩み事でもあるの ? 中華料理に飽きた、とか・・・(んなわけないか・・・)」
サトシ 「仕事はチャレンジングで面白いんですが・・・、私にはちょっと荷が重いかと・・・」


ふむ・・・ サトシくんには似合わない弱気な発言。一体、何がプレッシャーになっているのでしょうか ? 


サトシ 「部下が多すぎるんです・・・ 私の下だけでも・・・ 100 名以上( ! )の現地スタッフがぶら下がっているんです。日本のプロジェクトで、一時的に数名のチームを率いたことはありますが、定常的にこれだけの部下、それも全員中国人・・・ タカシさん、どうしましょう ?! (T-T)」


ははーーん、いわゆる「ポジション・インフレ」(※)というやつですね。日本では部下を持った経験のない人が、先進国以外の国に赴任して職階が上がると同時に、それが中国やインドなど爆発的に発展している国の場合には、いきなり数十名~数百名のリーダーになってしまう。組織上のポジションがインフレを起こしてしまう、という意味です。


(※「ポジション・インフレ」という言葉は、人材コンサルティング企業の『コーチ・エィ』が使い始めた用語だと思われます。違っていたらゴメンナサイ。週刊エコノミスト 2011.4.5号 「日本人上司はマネジメント力不足」参照のこと)

中国ビジネスの “洗礼”

そもそも、日本人の部下ですら管理をしたことのないサトシくんにとって、いきなり 100 名以上の部下はキツかったことでしょう。

 

私がこれまで部下として管理した最大数は、40 名です。そのときでさえ、やれ病気で休むだの、過労で倒れるだの、やる気なくしただの、プロジェクトから “脱走” しただの・・・、本当に大変だった記憶があります。まるで、幼稚園児を管理しているかのように錯覚するほど、瑣末な、しょうもないことにばかり気をとられ、リーダーとしての本質的な仕事は一切できませんでしたから・・・。


加えて、サトシくんの場合は、相手が中国人ときています。これは私の私見ですが、中国のビジネスパーソンというのは、相手、特に上司を「見切る」傾向が強い。例えば、「この上司は意思決定が遅い」「軸がなくてブレている」・・・ と感じたら、露骨に上司をすっ飛ばして仕事を進める人が出てくるのです。


誤解いただきたくないのは、私はこの傾向が悪いことだと言っているわけではありません。中国の爆発的な経済発展は、彼ら・彼女らが持つ爆発的なスピード感があってこそ成り立っているのですから、その傾向は時代が要求しているものなのです。つまり、今の中国においては、「とにかくスピード感を重視して進めること」が、正しいのですから。


ま、簡単に言うと、サトシくんは日本人が中国ビジネスでぶつかる壁 = 中国ビジネスの “洗礼” を浴びたわけですな。ま、これもまた経験です。


私 「そっか・・・、今日の夜、時間ある ? ちょっと話そうか・・・」
サトシ 「え、ええ・・・」


私はサトシくんを飲みに誘いました。目的は、彼の話を聞いて、コーチングすること。「ポジション・インフレ」に悩む社員に対して、最も効果の上がる特効薬は、「話を聞いてやること」なんです。なぜって ? その理由は、次回お話しすることにいたしましょう。
(次回続く) 

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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