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タカシの外資系物語

「おたく」は世界を救えるか ?! ( その 2 )2011.03.29

ゲームで“可視化”する

前回の続き) 世界的なゲーム開発者である ジェーン・マクゴニカル氏 は、「“ゲームおたく” が世界を救う ! 」という壮大な持論を展開しています。一見すると、なーんか、眉唾な説のような気もしますが・・・ 実は私、この説に対しては、肯定的な考えを持っています。今回のコラムでは、その理由についてお話したいと思います。


マクゴニカル氏 によると、オンラインゲームをする人には、以下の傾向が見られるとのこと。

 

●多くの人は、現実の世界では失敗を恐れて、困難な問題に立ち向かおうとしない。一方、ゲームの中では失敗を恐れずに、実力以上の力を発揮することができる
●ゲームの中では、自らの保身よりも、誰かの役に立とうとする傾向が強い


よって、ゲーム中に見せる上記のような傾向を保持したまま、多数の人が力を合わせれば、世界で起こっている諸問題(飢餓・貧困・紛争・肥満など)は解決することができるのである・・・ マクゴニカル氏の主張、なんか突拍子もないことを言っているようで、よく読むと、それなりに納得感があったりします。


例えば、「電力エネルギー」や「食料」の需給を競ってみる。つまり、「最も無駄なく生活した人の勝ち」と、するのです。この考え方、有事には不謹慎なことなのでしょうが、平時においては有効な気もします。とかく人間というのは、何か大きな事件・事故が起こったりしなければ、面前の課題に本格的に取り組もうとしない傾向があります。だから、いつまでたっても、有事に生じるちょっとした不便に対する耐性が構築できない。日ごろから、自分たちがいかに無駄遣いをしているかということが可視化できていれば、それを削減していこうという動きにもつながりやすいのではないでしょうか。


私の会社でも、かなり以前から、「コピー枚数の削減」を企業目標として設定しています。もちろん、わざわざそんなことを言われなくても、環境のためにはコピー枚数は少ない方がいいことぐらい、社員は全員わかっています。しかし、単に「コピーを減らそう ! 」というスローガンを掲げている段階では、思うように成果は上がりません。なぜなら、自分がどの程度無駄遣いしているかがわからなければ、どれだけ節約すればいいかもわからないからです。


そこで、会社として何枚のコピーをしたか、部門別・チーム別・個人別に何枚のコピーをしたか、そして、そのコピー用紙はパルプ材を何本分消費した計算になるか・・・ これら全てを可視化して、「ゲーム」として競わせるようにしたところ、みるみる成果が上がったのです。このことは、基本的にわれわれは合理的にはできていないことを意味します。われわれは合理的ではない、しかし、可視化等何らかの方法で管理・計測する手段を与えてやると、予想外の成果を上げるということなのでしょう。

マクゴニカル氏の取り組み

以上述べたことは、あらゆる数値が IT で計測・管理されていることが前提となります。現在、各家庭の電力量管理などは、アナログでは計測されているものの、リアルタイムでデジタル化されているわけではありません。しかし、スマートグリッド(Smart Grid:次世代送電網。電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化できる)の実用化が現実味を帯びており、マクゴニカル氏 の主張する「ゲームを媒体にした省エネ」も、遠い将来の話ではないように思います。


このような社会インフラの拡充を見据えて、ここ数年の間に、マクゴニカル氏 は多くの “社会実験” と呼べるオンラインゲームを世に送り出してきました(以下参照)。


- 『ワールド・ウィズアウト・オイル(World Without Oil)』(2007年) ・・・ 石油不足を生き抜くオンラインゲーム。プレイヤーは、石油(および石油を原料とするもの)を使わずに、実際の生活を行う
- 『スーパーストラクト(Superstruct※)』( 2007 年) ・・・ 地球上の人類には、あと 23 年しか残っていないという設定のゲーム。のべ 8,000 人がゲームに参加し、具体的な解決策を 500 以上も生み出した (※うまい日本語訳がないのですが、「上位構造」って感じですかね・・・ マルクス経済学で、“basis and superstructure” という概念が出てきますけど、関係あるのかな・・・ ? )
- 『イヴォーク(Evoque※※)』( 2010 年) ・・・ 食料問題から気候変動に至るまで、世界が直面しているあらゆる問題に取り組むゲーム。それぞれの課題に対する解決策を、プレイヤーが提案する形式となっている (※※フランス語で、「呼び起こす」という意味。英語の「invoke」に近い意味でしょうか・・・ ? )


これらのゲームが発表されるやいなや、多数のプレイヤーが参加し、非常に大きな反響を呼びました。特に、最新ゲームの『イヴォーク』は、解決策をコンテスト方式で評価し、上位に入賞すれば、実際のプロジェクトとして世界銀行が投資するという画期的なものだったようです。以上の取り組みは、もはやゲームの域を超え、一種の “社会実験” といえる内容でしょう。 うーーむ、 マクゴニカル氏 おそるべし !

“Change the rules of game !”

さて、以上に述べた「実績」以外にも、私は マクゴニカル氏 の取り組みについて、肯定的です。その理由は、「外国人(主に英語圏)の人々にとって、“ゲーム(game)” という語感・ニュアンスが、日本人のそれとはかなり異なり、より広く・より真剣なものとして捉えられている」ということです。言い換えると、グローバル・スタンダード的な発想において、“ゲーム(game)” というのは、一部オタクのものではなく、社会全体が大真面目で取り組むものとして、違和感なく受け入れられるということです。

 

その証拠に、前回のコラムでも述べた通り、「ゲーム理論」といえば、政治経済・ビジネスなど、社会全般を幅広く対象にしています。身近な例でも、外資系企業に勤めていると、“game” という言葉を頻繁に耳にします。外資の経営者が “Change the rules of game ! ” (ゲームのルールを変えろ ! ) と言う場合、ビジネスモデルを変革して、マーケットを自社に都合のいい方向に向けろ ! ということを意味しているのであり、コンピューター・ゲームのルールを変更する、という意味では決してありません。


また外資では、ゲーム感覚で、社員を競争させたりします。前述のコピー用紙削減のような取り組みから、売り上げ競争に至るまで、外資はそれら全てを “game” と呼ぶのです。


つまり、仕事そのもの、社会そのもの、人生そのものが、“game” なのです。そこには、日本人が抱くような、「ゲームは遊び」「よって、仕事に持ち込むのは不謹慎」というイメージはありません。あくまでも、大真面目。だから、「ゲームおたく ≒ 仕事のできる有能な人材 が、世界が救う ! 」という マクゴニカル氏 の理論も、すんなりと受け入れられるというわけです。


東北関東大震災により、多くの日本人は、資源や物資の有効活用について、真剣に考える機会を得ることができました。これを一過性のものとして済ませてはいけません。私は、マクゴニカル氏 の取り組みには、これらを継続的に行う上での、重要な示唆を秘めていると考えます。特に、未来ある子供たちには、環境や資源の問題を、頭ごなしに理屈のみで語るのではなく、ゲーム形式で伝えることが効果的ではないか。いや、子供だけでなく、「節約」「もったいない」という言葉を感じないまま成長した多くの大人に対してこそ、ゲームを通した可視化戦略が必要ではないか。これまで無尽蔵にあると錯覚してきた資源について、今こそ、“Change the rules of game !” (ゲームのルールを変えろ!) という発想が必要なのだと考えている今日この頃です。 

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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