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タカシの外資系物語

カンニングと外資系2011.03.15

※3月11日(金)に発生いたしました東北地方太平洋沖地震により、災害の影響を受けた方々に心よりお見舞い申し上げます。

今回の事件に対するタカシの見解

京大や早大などの入試において、携帯電話を使ったカンニングが発覚し、大きなニュースになっています。事件の経緯については各メディアを参考いただくとして、今回のコラムでは、私なりの見解と外資系同僚の意見をご紹介したいと思います。


まず、私の個人的な見解から。今回カンニングがばれた受験生については、同情の余地なく、「悪い」 というのが私の考えです。一部に、警察沙汰にした大学が悪い、大学を手玉に取った受験生は痛快である・・・ といった、わけのわからない論調がありますが、話の順番を整理して考えないと、非常に危険なことになります。何が危険かというと、「面白ければ、痛快であれば、ルールなど守らなくていい」という風潮が広まることを言っています。


ルールというのは、それを変えるか、それに従うかしかありません。「そのルールはおかしいな・・・」と思ったのなら、自分でそれを変えるか、変えてくれるような指導者・政治家を選べばいい・・・というのが、民主主義における基本的な理念のはずです。ただし、今回の事件は、「そのルールはおかしいな・・・」という類の話ではなく、だれがどう見ても正しいルールを破っています。だから、


・まず、ルールを破った受験生が全面的に “悪い”
・次に、不正をその場で見抜けなかったこと、また、事後対応を警察に委ねたこと については、大学にも “反省点” が残る

・・・ということでしょう。実際問題として、受験生が使った携帯電話のIPアドレスから、個人情報を引っ張ってくる過程において、警察という国家権力に頼らざるを得なかったことは理解できます。しかし、結局は答案用紙の全件確認を行ったわけですから、警察沙汰にしないで、大学の力だけで不正答案と受験生を結びつけることも可能だったように思います。結果、その受験生を出入り禁止とか、数年間は日本の大学を受験できないとか、そういう措置でも良かったのではないか。日本の場合、逮捕しちゃうと、再起不能な感じもしちゃうので・・・ 特に一般人ですから。


仮に、国家レベルでこの受験生をある意味 “スケープゴート” にして、「今後一切、不正は許さんぞ ! 」と言いたかったのであれば、不正を行った政治家についても、当選を取り消すぐらいのことをしてくれないとバランスが悪いように思います。京大出身の前原前外務大臣は、今回の事件について、どのようにお考えでしょうかね ?

カンニングに対する日本の甘さ

今回の事件について、外国人の同僚数名(10名程度)に、感想・意見を聞いてみました。以下で、ご紹介したいと思います。ちなみに、「カンニング(cunning)」というのは、「ずるい」という意味の形容詞で、外国人には通用しません。日本の「カンニング」は、cheating or cribbing という表現になります。

 

「日本のトップ大学の入試において、よく携帯が持ち込めたな ? チェックしてないの ? 」
ほぼ全員から、このコメントが寄せられました。実は、このコメントの真意は、 2 つのことを包含しています。


(1)最近の携帯電話や端末は高機能なので、カンニングなどいくらでもできる。そんなことは、アメリカでは小学生の子供でも知っている。
(2)よって、携帯電話を持ち込ませないよう、事前にカバンの中や洋服のポケットなどを、念入りに確認しなければならない。


実際に、アメリカでの試験では、試験会場への入場チェックが半端ではない厳しさのようで、それを見込んで、数時間前に試験会場に出向く必要があるとのこと。私の友人(日本人)も、アメリカで US CPA (公認会計士)の試験を受けた際に、「身ぐるみはがされかけた・・・」と言っていました。ちょうど、飛行機のゲートチェックで「ピンポーン ! 」と鳴ったときぐらいのチェックを受験生全員に実施するイメージだとか。要は、日本人は携帯電話の機能に関する認識もチェック体制も甘い、ということなのでしょうね。


「この受験生は不合格になるとして、その分の繰上げ合格はあるの ? 」
実は私も、このことは気になっていました。ある大学では、この受験生をいったん合格にして、不正が発覚した段階で不合格にしたとのこと。その分 1 名は、追加で合格になったのか ? 外国人の同僚いわく、「社会の発展のためには、機会損失(opportunity loss)は極力排除すべき」と言っています。私もそう思う。カンニングをした受験生はどうでもいい。その分あぶれた受験生がいたとしたら、救ってやらないとまずいでしょう。その彼・彼女が、その大学への合格を足がかりに、大きな社会貢献をなし得たかもしれない。その可能性は摘み取ってはならん ! と思います。


「アメリカの試験は、カンニングできるようなものが少ないから、不正が起こりにくいんだよね・・・」
東洋史学者の宮崎一定さんの名著 『科挙』 (中公新書)に、壮絶なカンニング法(体に刺青で書き込む等)が紹介されています。それを読んでいて思うのですが、中国や日本などアジアの試験は、暗記物が中心であり、ゆえにカンニングの余地がある。一方で、欧米(特にアメリカ)は口述・論述が中心で、暗記物が少なく、カンニングがしにくいようです。しかし、だからといって不正が少ないかどうかは、なんともいえません。別の同僚の話では、「アメリカの試験における不正は、本人がカンニングするのではなく、“替え玉受験”が主流だよ」って言っていましたから。また、それを専門に請け負うことでビジネスにしている業者もあるとのこと。ま、どの国にも不正はあるということです。

「自覚・責任」の名のもとに!

「惜しいね・・・ ここまでうまくやったのに。詰めが甘いよ ! 」

不謹慎なんですが、こういう考えの人は日本人にも多いと思います。現場の試験監督官にも見つからなかったのに、どうして足がつくようなことをするかなぁ・・・ ということでしょう。ただ、誤解いただきたくないのですが、私が聞いた外国人の同僚は、「惜しいね・・・」と言った後で、「ま、それは冗談として・・・」と前置きして、ほぼ全員が以下の主旨を口にしました。


「日本のトップ大学である京大や早大に入学しようとする者が、不正をするなどけしからん! 自覚が足りないのではないか ! 」
アメリカにも、様々な事情を抱えた受験生がいます。お金持ちでアイビーリーグなどに難なく入る人、苦学して奨学金を得て州立大学に行く人・・・ いろいろいるんですが、彼ら・彼女らに共通するのは、「高等教育を受けることについての自覚・責任」 を持っているということです。自分には社会を変える使命があり、不正によって使命は果たせるはずがない、と考えているのです。これは、「ノブレス・オブリージュ」という発想にもつながります(「ノブレス・オブリージュ」については、『外資における上司の「義務」って ? 』参照のこと)。
不正を働かずに頑張ることが、自分に課せられた社会的な責任である。だから、仮に、だれにもバレずにカンニングできる機会があったとしても、そんなことはしない。そもそも、そんな発想がない ! ということです。
「だれも見ていないときに、不正を働かないという倫理観を保持し続けることができるか ? 」 昨今話題になっている、「コンプライアンス」の本質とは、まさにこのことなのだろうと思います。

 

最後に、若い皆さんに一言。「要領よく」「効率的に」ということと、「不正」は違います。また、常に「効率的に」振舞う人が正しいわけでもない。こういう人は、概して薄っぺらい人が多かったりもする。受験はキツいですが、本番社会の方が、正直もっときついです(T-T)。受験の段階で不正をしているようでは、社会など乗り切れませんよ。
少々おっさんくさい話になりましたが、是非とも、自力で難関をクリアしてもらえればと思います。頑張ってください!

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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