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タカシの外資系物語

普天間問題 と 外資的対処法2010.04.27

TOP は、重い言葉を軽く言うな !

新聞や TV ニュースでご存知の通り、米軍基地の移設問題、いわゆる「普天間問題」が大きな話題となっています。今回のコラムでは、外資系における問題対処の視点から、「普天間問題」を検討してみたいと思います。

 

「普天間問題」の詳細は、各種メディアに譲るとしまして・・・ 今回の問題において、鳩山首相(つまり政府)は大きなミスを犯しています。それは何でしょうか ?

 

「オバマ大統領に直接、5 月末までに“解決”するって、言っちゃったことじゃないの ? 」
確かに・・・、これも 1 つのミスですね。“解決” という言葉が、実際の会談でどのような英語に訳されたのかわかりませんが、仮にどんな英単語であっても、英語で“解決”といえば、問題が具体的にクリアになっていることを指すように思います(ちなみに、Daily Yomiuri の記事では、“resolve”となっていました)。 「具体的な移転先が決まっていなくても、大枠の方針が決まっていることだって、解決のうちだ ! 」 というのは、極めて日本人的な曖昧論理でして、そんな考え方をするアメリカ人を、少なくとも私は知りません。とうことは、アメリカの世論の大勢は、具体的な移転先が決まっていると考えていると見ていいと思います。

 

そもそもこの鳩山首相という人は、ニュアンスの強い言葉(英単語)を、平気で使う癖がある。以前も、オバマ大統領に「 Trust Me !(私を信じてください)」と言ったというのがありましたが、“trust”という単語も “信じる” という意味の中ではかなり強い言葉です。外資系企業で「 Trust Me ! 」と言った後で、約束を破ったりしたら、ひどいことになります。

 

何が「ひどい」のか ? クビになるぐらいなら、まだマシな方。例えば、営業目標を達成できなかったので、クビになるのはよくある話ですから・・・。しかし約束した段階で、「 Trust Me ! 」と言ってしまうと、ちょっとニュアンスが異なります。この言葉は、「ほぼ 100 %大丈夫 ! 」 くらいのニュアンスで使うことが多いので、それが達成できないというのは、かなりおかしい。約束した当初では想定していなかった想定外の事件が起こったか、または、そもそもできない約束だったにもかかわらず、調子よく「 Trust Me ! 」なんていう重い言葉を軽々しく使ったか、のどちらかだと判断されます。鳩山首相の場合、今回の約束を反故にすると、後者に取られかねません。

“NIMBY” とは何か ?

さて、鳩山首相のミスとは、言葉遣いのことなのでしょうか ? 私は、言葉遣いによるミスは、実は些細なことだと考えています。本件は、どのみち何らかの結論(=どこかに、米軍基地を移設しなければならない ! )を要求されているわけですから、結果さえ伴えば、言葉遣いなど取るに足りない。では、結果に影響を与えかねない重大なミスとは何か ?

それは、「アプローチ上のミス」です。つまり、物事の進め方を失敗したがために、結果が全く伴わない可能性が出てきたということです。では、何を間違えたのでしょうか ?

 

本件は、アメリカや社民党の要求が物事を複雑にしているように見えますが、実は「日本国民の大多数が望んでいない施設を、どこかに必ず設置しなければならない場合に、どうするか ? 」という問題に尽きます。これを、「 NIMBY 」といいます。

 

“NIMBY” とは、「ニンビー」と発音しまして、“Not in my Back Yard” の略。直訳すれば、「私の裏庭にはカンベンしてよね ! 」となります。 例えば、原子力発電所やゴミ処理施設の必要性は理解するが、自分が住んでいる近所には建てて欲しくない・・・ そんな事柄のことを “NIMBY” と言います。駐日米軍基地などは、まさに“NIMBY”の代表格です。
(※“YIMBY”(「インビー」)“Yes in my Back Yard”)というのもあり、こちらは公園とか過疎地の病院など、歓迎するような事柄を言います)

 

“NIMBY” “YIMBY” とも、経済学のゲーム理論で使う用語なのですが、実際のビジネスにも該当します。みなさんが仕事をする上でも、「会社のために必要で、だれかがやらないといけない・・・ と、頭ではわかっちゃいるが、やりたくない/引き受けたくないこと」って、結構多いのではないでしょうか。以前、このコラムでも、「“NIMBY”を押し付けられない方法」を解説しました(『外資系とゲーム理論 ( その 2 ) – NIMBY』 参照のこと)。 今回は逆に、「押し付ける側の視点」に立って、その留意点をお話したいと思います。

“NIMBY” を押し付ける TOP の心構え

まず、"NIMBY“というのは、避けることができないわけで、最終的にはだれかが引き受けなければなりません。つまり、だれかが「泣く」ことになります。このような場合、打診(根回し)・交渉は早ければ早い方がいい。なぜなら、交渉が長期に亘った方が、妥協案が出やすいからです。

 

例えば、会社の建物が一杯になって、ある組織だけが不便な別の建物に移動しなければならなくなったとしましょう。その不便な建物の容量や仕事の流れなどを考慮すれば、移動する可能性が高い(移動しても悪影響を最小限に留めることができる)組織は、初期の段階からわかっているはずです。ならば、最初から打診(根回し)しておく。“NIMBY” 的な要素が強い事項については、外資系企業でも、トップダウンによる決定はほとんど行われません。なぜなら、突然のトップダウン決定では、その妥当性を説明できないからです。

 

今回の普天間問題では、かねてより、鳩山首相が「腹案がある」と、候補先を匂わせていました。しかし、腹案を温めすぎたために、タイミングが最悪になってしまった。結果的に、アメリカに詰め寄られて仕方なく、かつ、無理やりトップダウンで押し付けたようなイメージだけが残ってしまった。これでは、冷静に交渉することなどできません。

 

次に、“NIMBY”というのは、国民全体の問題なのだという意識を醸成することができなかったことも大きい。米軍の駐留というのは、安全保障上必要なわけで、これは沖縄や鹿児島だけの問題ではありません。万が一、「ならず者国家」が日本に攻撃を仕掛けてきた場合、間違いなく都市部が攻撃されるわけで、そういう意味では、東京に住んでいる人の方が、一時的な恩恵を受ける可能性が高い。つまり、東京都市部に米軍基地を移設するのが、話の筋なのです。だから、都市部の人は、移設される地域には感謝してしかるべしだし、少なくとも、問題を主体的に考える必要があるはずです。
しかし現実には、都市部の大多数の人は、普天間問題というのはどこかの地方のことだと考えている。もっと言えば、鳩山政権のスキャンダル程度にしか考えていない。これでは、国家としての結論など導けません。

 

先に上げた会社の建物の例をとれば、不便な建物に移動する組織は、相当程度の「メリット」を享受すべきです。例えば、移動する組織以外から資金を集めて、それを手渡すことで、「デメリット」と相殺するなどの方法や、様々な優遇措置を提示すべきでしょう。
普天間問題でいえば、移設対象となっていない地域から税金を集め、移設先のために使うことが必要です。それも、半端ではない金額を投入する。そうすれば、移設先に引っ越したいという人も出てくるかもしれません。

 

もちろん、普天間問題は政策的なニンジンをぶら下げたところで、解決するような単純な話ではないと思います。しかし、現政権の対応は、あまりにお粗末。民主党には、外資流・MBA 流の思考ができる人が多いように感じていたのですが、そうでもないようです。むしろ、自民党の方が上手かったイメージ。かなり、残念ですね・・・ 

 

いずれにしても、移設先の住民感情と手厚いケアを第一に、アメリカとの関係保持とのバランスをとって進めてほしいところです。社民党との関係は ? この問題で崩れるような連立なら、再度立て直した方がいいというのが、個人的な見解です。では !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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