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タカシの外資系物語

オリンピック終了 ! 柔道における「ルール」と「伝統」2008.08.26

女性が強い理由

北京オリンピックが終わりました。いやぁ、感動しましたねぇ … (T-T) 一流のアスリートによる競演は、非常に見ごたえがありました。また、普段は忘れがちな「日本人」としてのアイデンティティを思い返し、「世界」という視野で物事を見つめ返す意味でも、4 年に 1 度やってくる 2 週間はかけがえのないものだと思います。

 

各競技の専門的な分析はメディアに任せるとして、オリンピック、なかでも柔道を見て、私なりに感じたことを、ビジネスの観点に絡めてお話したいと思います。

 

「男子柔道惨敗 ! 」
日本のお家芸である男子柔道が、メダル 2 個という低調に終わりました。ちなみに、男女柔道におけるメダル獲得者の一覧を示すと、以下の通りとなります ( 敬称略 )。
【男子】 ( 金 ) 66kg 級 内柴正人、100kg 超級 石井慧 メダル計 2 つ
【女子】 ( 金 ) 63kg 級 谷本歩実、70kg 級 上野雅恵 ( 銀 ) 78kg 超級 塚田真希 ( 銅 ) 48kg 級 谷亮子、52kg 級 中村美里 メダル計 5 つ

 

男女、および階級ごとに様々な背景があるでしょうから、メダルの数だけで単純な比較はできませんが、やはり男子の「 2 つ」は寂しい限り。逆に、女子の「 5 つ」が際立って見えます。この「女高男低」傾向は、レスリングや野球・ソフトボールなどでも言えること。まさに、「女性強し ! 」を体感するオリンピックとなりました。

 

さて質問です。今回のオリンピックにおいて、どうして女性の方が強かった ( 成果を出せた ) のでしょうか ? 1 つには、あくまでも個人的な意見ですが、男性よりも女性の方が、人種・民族間における体力差が少ないというのは、何となく言えるように思います。しかし、実際にオリンピックを見ていると、どうも体力差の問題だけとは思えない。ビジネスの世界にも通じるような、本質的な取り組みの違いが結果に現れたような気がするのです。それは何でしょうか ?

「柔道」と「JUDO」論の本質

私は過去のコラムにおいても、日本柔道の問題点を指摘してきました。( 『「なんじゃコリャ」に勝てるか ?』、『日本柔道と外資系 (「なんじゃコリャ」に勝てるか ? 2 )』参照のこと )

 

ここで私が「なんじゃコリャ」といっているのは、手で足を刈ったり、タックルしたりという、日本の柔道ではあまりお目にかかれない変則技のことを言っています。日本柔道では、お互いがしっかりと組んで、きれいな投げ技を競い合うスタイルがノーマルとされており、「なんじゃコリャ」技は、はっきり言って邪道です。私はこう見えても柔道初段 ( 黒帯 ! 強い ! ) でして、習いたての頃、柔道部の顧問の先生によく怒られました。「手で相手の足を持つな ! 卑怯だぞ ! 」と。

 

人間というのは、「卑怯だぞ ! 」と言われ続けると、「そんなことしちゃダメなんだ … 」と思い込んでしまうものでして、私は柔道の試合でタックルなどの「なんじゃコリャ」技を使ったことはありません。たとえ、このままでは負けそうな絶体絶命の状態であっても、しっかりと組み手を組んで試合を続けていたように思います。

 

しかし、ルール上、タックルなどの「なんじゃコリャ」技は反則でもなんでもない。「もろ手刈り」とか、「朽木倒し」など、ちゃんと技の名前まで用意されている。にもかかわらず、日本の柔道では、「なんじゃコリャ」技はほとんど見られません。なので、これらの技に対応する能力がつかないので、不意打ちをくらって負けるのです。

 

日本選手の典型的な「負け方」として、「なんじゃコリャ」技をくらって、「一本 ! 」をとられると、選手は一様に「えっ ! 」という顔をして審判の顔を見ます。なぜ、「えっ ! 」という顔をするのかというと、技に慣れていないからです。また、深層には、「卑怯じゃねぇか ! 日本柔道なら、こんな不意打ちしないぞ ! 」というのも、きっとあるはずです。

 

上記の話は、「柔道」と「JUDO」の違い、という言い方で説明されます。両者は違うのだという解釈です。この論評は、それなりに正しい。しかし、ここで理解すべきことは、「両者は違うのだ」ということではなく、「ルール上 JUDO に問題はない」「柔道の方こそ勝手な解釈でルールを狭めている」ということです。

「ルール」と「伝統」の関係

さて本題に戻りましょう。柔道において、男子よりも女子の方が好成績だった理由は、「JUDO をやったから」に他なりません。彼女たちは日本国内では「柔道」で代表の座をつかみ、世界の舞台では「JUDO」に切り替えて対応したのです。一方、男子の方は世界の舞台においても「柔道」に固執しすぎたため、「なんじゃコリャ」技にことごとくやられたというわけです。

 

例えば、女子 70kg 級で金メダルを獲得した上野雅恵さんは、決勝において「朽木倒し」という典型的な「なんじゃコリャ」技で一本勝ちしています。彼女の「柔道」と「JUDO」の使い分けは、本当に見事としか言いようがありません。

 

オリンピックで女性が強かった理由、それは、「環境の変化に応じて、柔軟に対応することができたから」なのだと思います。どんな世界にも「ルール」と「伝統・慣習」が存在します。ときに両者は同一視される傾向がありますが、本来は全く違うものです。「ルール」は守るべき絶対的なもの、環境の変化に応じて見直される可能性はありますが、頻繁に変わるものではない。だからこそ、参加者は安心して「ゲーム」( スポーツでもビジネスでも ) をすることができます。

 

一方、「伝統・慣習」はリスペクト ( 尊敬・尊重 ) すべきものではありますが、絶対的なものではありえません。環境の変化に応じて、リアルタイムで見直していくものだし、場合によっては無視することもあるでしょう。

重要なことは、常に「ルール」がベースにあるということです。昨今における日本企業の不正・犯罪は、大半が「ルール」よりも「伝統・慣習」を重視したことが原因です。「以前からやっていたから、日付を改ざんした」「売り上げの架空計上は、数代前の社長時代からやっている」 … 「伝統・慣習」には良いものもあれば、悪いものもある。つまり、玉石混交というわけです。その善悪を判断するのは、「ルール」であり、常識的な倫理基準にほかなりません。

 

依然として、日本の経営者の中には、「ルール」と「伝統・慣習」の主従関係を混同している人が見受けられます。グローバル・スタンダードとは、先進的な販売方式や広告・マーケティングだけでなく、「ルール」を中心とした考え方にこそ、見習うべき点が多いように思います。

 

さてさて、なんだか男子柔道はいいところなし、みたいな感じですが、メダルを取った 2 名の選手は、非常に個性的ですので紹介しておきましょう。

 

男子 66kg 級で金の内柴選手は、そもそも「なんじゃコリャ」技を得意としています。日本国内においても「JUDO」を実践し続けた成果が、大舞台で発揮されたわけです。また、男子 100kg 超級 石井選手は、一本に固執する日本柔道に異議を唱える異端児で、「一本でなくても、勝ちは勝ち」というポイント狙いの戦略が功を奏しました。しかし、実際には決勝以外は「一本勝ち」しているところに真の実力が伺えます。

 

そしてそして、忘れてはならないのは、女子 63kg 級で金の谷本選手。アテネから 2 大会連続で、オール 1 本勝ちの金メダル。究極のレベルにおいては、「柔道」も「JUDO」も関係なく強いということでしょう。日本柔道、特に男子においては、次の大会に向けての立て直しが期待されますが、「JUDO」への対応を進める一方で、圧倒的な強さの「柔道」を復活してほしいものだと思います。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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