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タカシの外資系物語

外資の顧客戦略 ( その 2 ) : 顧客を育てる !2008.01.15

アウトバウンドとインバウンド

前回の続き ) 今回は、「新規顧客」に対する外資と日系の考え方の違いをお話しましょう。ここでは、私の専門領域である「金融」を例にとってご説明したいと思います。

 

みなさんは、外資系の金融機関と取引をされたことはありますか ? 銀行や証券の場合は、そもそも日本に進出している外資の数が少ないのと、日本に進出している外資系金融であっても、個人を相手にビジネスを展開している企業がほとんどないので、あまり馴染みがないかもしれません。しかし、保険業界はかなりの外資が参入していますので、取引経験がある方も多いのではないでしょうかね。「よーく、考えよー♪」というキャッチーなフレーズで一世を風靡したのも、外資系の保険会社だったりします。

 

外資の保険会社と付き合い始めると、日系のそれとは大きな違いがあることに気づきます。それは、「保険会社からの組織的・定型的なコンタクト( 営業 ) が非常に多い」ということです。例えば、外資の「ガン保険」というのに入ったとします。すると、加入した翌週ぐらいから、「このたびは、ガン保険への加入ありがとうございます。つきましては、新商品の「入院保険」やお子様のための「学資保険」はいかがでしょうか … 」 などといった内容のコンタクトが、電話や E メール、ダイレクトメールなどを使って積極的に展開されます。一方、日系の保険会社の場合、外資と比較するとコンタクトは少ないようです。もちろん、日系の場合も「生保レディ」といわれる営業パーソンが個別にケアする場合がありますが、その方法等は営業パーソン個人に依存しており、企業の戦略として定型的に実施されているものではありません。

 

このような外資保険の営業攻勢のことを、「アウトバウンド」と呼んでいます。保険会社から見て、「外部 (out) への発信」という意味です。これに対応する言葉として、「インバウンド」というのがあります。これは、内部 (in) への発信、つまり「お客様から保険会社への問い合わせ」という意味です。外資と日系の保険会社を比較した場合、外資はお客様に対して「アウトバウンド」で、日系は「インバウンド」が主体となっています。違う見方をすれば、外資はお客様のアフターケアにより気を配っているのかも知れませんね。これは、どうしてなのでしょうか ?

「質」の外資、「量」の日系

その理由を簡単に言うと、外資は「クロスセル」を重視しているからです。では、「クロスセル」とは何か ? それは、「複数の商品を販売する」ことです。外資がアウトバウンドの営業をするのは、何らかの商品・サービスを購入してくれたお客様が、次々と違う商品を買ってくれるように誘導したいからです。なぜなら、それが最も収益を上げる近道であるからに他なりません。なんだか当たり前の話のようですが、実は日系の金融機関では、「クロスセル」の考え方は非常に新しい概念で、まだまだ浸透していないのが現実です。

 

従来、日系の金融機関が重視していたのは、「クロスセル」 よりは 「ボリューム」 です。例えば、2,000 万円のお金を預けてくれるお客様と、1,000 万円のお客様だと、絶対に 2,000 万円のお客様の方が重要であるという考え方です。これに対して、外資の考え方は「量」ではなく、「質」にあります。仮に 2,000 万円のお客様、もっと言えば 2 億円のお客様がいたとしても、単に預金としてお金を預けてくれているだけでは儲からない。一方で、たとえ 1,000 万円であっても、そのお金を投資信託や株・債券などで運用してくれた方が、手数料が稼げる分だけ、実際に金融機関は儲かるわけです。

 

現実には、新規のお客様に対して、いきなり複数の商品が販売できるわけでありません。なので、「まず新規の顧客を集める」 → 「ひとたびお客様になったら、そのお客様に対して徹底的な営業攻勢をかけてクロスセルに誘導する」 というアクションになります。これが外資のやり方です。つまり、既存顧客を囲い込んで、そこからが勝負ということになります。

 

もちろん、日系も外資のまねをしてクロスセルを進めたいのはヤマヤマなのですが、そのノウハウがないため、新規の顧客を集めても、開拓ができずに放置することになります。その結果、このままでは、外資に勝てないので、とりあえず量を集めるか … となり、「質」より「量」の営業を繰り返すことになるのです。

 

具体的には、こんな不具合も起こっています。日系の金融機関は新規の顧客を大量に集めたいばかりに、新商品のキャンペーン時に、新規顧客に限って、思い切ったキャンペーン金利を提供したりします。既存顧客よりも新規の方が、条件が良かったりするケースも頻繁に起こります。既存顧客にとってみれば、「先に取引していた私は、一体何だったの ? 」という印象を持つわけで、そんな状況でクロスセルなど進むわけがありません。一方、外資の場合は、仮に新規顧客にキャンペーンで優遇条件を出す場合でも、既存顧客よりは常に低い条件にすることで、既存顧客から文句が出ないような配慮をしています。

外資主催 「 Lunch Session 」 のからくり

上記の話は、金融だけに限ったことではありません。一般的に、日系は 「新規顧客を、既存顧客と同等か、またはそれ以上に重視」 し、外資は 「新規よりは既存顧客を重視」 するといえます。実際に私の会社においても、新規で案件を獲得するよりは、既存を掘り起こしてクロスセルした方が、たとえ同じ金額であっても、より高い評価が得られるような評価基準になっています。私が日系の銀行にいた頃は、その逆でした。金額は小さくても、新規を取った方が、ずっと高い評価を得られていたように思います。もちろん、業種によってその度合は異なるでしょうが、傾向としては以上のことが言えるように思います。

 

では実際に、どちらが儲かるのでしょうか ? これはあくまでも私の感覚でしかないですが、短期的にも長期的にも、外資流の「既存顧客にクロスセル」の方が儲かるように思います。そもそも、新規開拓というのは、かなりの出血大サービスをして取っているケースが大半なので、儲けなどほとんど見込めないからです。赤字でも新規を取る理由は、その次で取り戻せると考えるからであって、新規ばかりやっていて儲かるなんてのは、理に合わないのです。

 

さて、既存顧客にクロスセルを展開するために、外資が多用する手段は何だと思いますか ? それはズバリ、囲い込みを目的とした「パーティー」や「食事会」です。あまり公にはされていませんが、外資系企業というのは、既存のお客様を対象にした催しを、ほぼ毎週のように行っています。ウソだと思われるのなら、平日の昼食時に、外資系のホテルをウロウロしてみるとわかります。「○○ study 」「XX lunch session 」など、何やらうさんくさいタイトルの会合 ( 実は食事会 ) が、山のように開催されています。これらの大半は、その業界の有名人の話を聞きながら、昼食を食べるという形式をとるケースが多いのですが、その実態は、既存顧客に対する「接待」に他なりません。たいていの場合、「会費 3,000 円」とか費用がかかるのですが、その何倍もの値段のランチが食べられるので、かなりお得です。既存顧客が、「この会社の顧客でい続ければ、こんないい思いができる。これからも、浮気しないでいよう … 」と考えるには、十分の接待となっているわけです。

 

さて、2 回にわたって、外資系企業の顧客戦略の考え方について、ご説明しました。いずれにしても、外資系企業に勤める日本人にとっては、以上に述べたような、「外資の顧客戦略」 と 「日本という消費マーケットの特性」 を理解しなければ、ビジネス上の成果が思うように得られない事態が想定されますので、十分にご認識くだい。では私は、弊社主催のランチセッションにでも行って、お昼代を浮かせましょうかね、と … なんか、セコい自分が泣けてくる今日この頃です、はい … (T-T)

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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