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タカシの外資系物語

標準化の先にあるもの2007.12.11

地域で一番のコンビニは ?

私は現在、横浜に住んでいます。すぐ横には、横浜ベイスターズの本拠地である「横浜スタジアム」があり、シーズン中は観客の大声援が聴こえてきます。中華街・赤レンガ倉庫・みなとみらいなどの観光名所も近いため、夜でも多くの人が行き交うような場所です。


場所柄、家の近くには多くのコンビニがあります。家の近くだけを見ても 7 軒。おそらく皆さんが頭に思い描くすべてのコンビニブランドに、歩いて行くことができます。


実は、これだけのコンビニがあると、どこに行こうかと悩んでしまいます。各社とも、独自のカードやキャンペーンをやっているので、その時々の自分のニーズに応じて、どこのコンビニに行くかを決めることになります。私はあるコンビニのカードに入会して以来、ポイント欲しさにそのコンビニを中心に使うようにしています。


しかし、前述のように、各社様々な趣向を凝らしているとはいうものの、実際に行ってみると、品揃えにそれほどの差があるとも思えません。「おにぎりが欲しい」と思ったら、味に若干の違いはあるにしても、どこのコンビニでも「梅おにぎり」を買うことができます。食品メーカーが提供している既製品にいたっては、どこのコンビニでもほとんど同じ製品が揃っています。また、どのコンビニも、全く同じ値段です。


では、どこのコンビニが一番はやっているのでしょうか ? 実は、私が見る限り、業界上位のところではないのです。確かに業界上位のコンビニは、人通りの多い、有利な立地条件に店を構えています。しかし、地域一番のコンビニは、非常にマイナーな存在のコンビニなのです。


では、地域 1 位のコンビニは、他のコンビニとどこが違うのでしょうか ? 一見すると普通のコンビニなのですが、店内を見渡してみると、手書きの、いわゆる「POP 広告」が目に付きます。「店長の一押し ! ○○ のおでんは、大根にこだわり ! 」など、親会社が販促用に作ったポスターではなく、明らかにその店の店長が独自に作ったポスターが、店内のいたるところに貼ってあります。


また、横浜スタジアムで野球やコンサートなどのイベントがある日、雲行きが少し怪しくなってきたとします。スタジアム観戦の場合、雨が降ってきたところで、傘を差すわけにはいきませんので、こんな場合に売れるのは、「レインコート」です。そんなとき、このコンビニはどうするか ? なんと店の外に机を出してレインコートを並べ、そこで売るのです。「雨が降りそうだし、レインコートでも買っておくか … 」と考えた客は、その様を見てコンビニに誘導され、ついでにドリンクやお菓子を購入することになるのです。一方、他のコンビニもレインコートを置いていますが、店頭にまで出て販売することはありません。

外資の「標準化」、日系の「暗黙知」

上記の例は、私たちにどんな示唆を与えてくれるでしょうか。それは、標準化も重要だが、最終的に差がつくのは、現場による創意工夫・個性だということです。


コンビニというのは、小売店としては、究極的に標準化が達成されています。需要予測に基づいて仕入れ・配送が効率化され、店舗には売れ筋の商品しか置いていません。こうすることによって、店舗面積あたりの売り上げを最大化しているのです。また、24 時間営業というのも大きなポイントです。コンビニが地域に 1 つしかなければ、このこと自体が、他の小売店との差別化要素となり、コンビニに人が集まってきます。


しかし、私が住んでいる地域のように、標準化されたコンビニが複数軒あり、過当競争になってくると、標準化はもはや差別化要素ではなくなります。標準化は当然の仕組み・インフラとして、その前提に立って、いかに個性を打ち出すことができるかというのが差別化要素となります。その結果、うまくすれば、上位のコンビニのブランド力を凌駕して、下位のコンビニが優位に立つことができるというわけです。


一般に、外資系企業というのは、標準化された仕組みを持っています。ルールのすべてはマニュアル化され、だれが読んでも理解できるようになっています。また、例外的な処理は認めないことで、工場のような流れ作業を、比較的低コストの人材で回すことに成功しています。


一方、日系企業というのは、マニュアルなど存在しないケースも多く、徒弟制度のような仕組みの中で、処理を体に叩き込まれます。マニュアルは個人の「頭の中」にあり、それは暗黙知として組織に存在することになります。しかし、暗黙知というのは文書化されたマニュアルに比べて、応用が利くので、例外的な処理も柔軟にこなすことができるのです。

「標準化」 を前提とした 「個性」 を構築せよ

昨今、アメリカにおける大手企業・監査法人の破綻を受けて、日本でも「企業改革法」、いわゆる J-SOX というのが導入されることになりました。J-SOX で要求されているのは、業務プロセスの可視化です。個人の頭の中にあるものを文書として記載する、つまり、暗黙知の可視化です。


このことについては、私も異論はありません。日本的な暗黙知だけで通用するのは、右肩上がりで経済が発展し、みんなが和気あいあいと仕事を進めていけるという、極めて限られた環境でしかありません。経済の自由化が進み、外資が乱入してくる時代においては、ルールを厳格化する必要が出てきます。


また、インターネットの爆発的な普及により、ビジネスのスピード感は、過去と比較にならないほど早まっています。そんな状況で、人の知恵だけに頼っていたのでは、ビジネス・チャンスを逸してしまいます。


しかし一方で、現実のビジネスは、人と人との接点で起こります。そこでは、外資流の標準的なものの見方だけでは通用しない要素が出てきます。冒頭のコンビニの例で述べたような、現場の創意工夫による「個性」が重要なのです。


外資系企業に勤めていると、そのことを痛感させられます。確かに、外資系企業の仕組みは標準的・効率的に設計されており、処理を進めるという観点では、従来の日本企業は太刀打ちできないでしょう。しかし、お客様との接点においては、その標準化手法がついてこないケースがあります。


1 年前にわが社の日本法人に赴任したマイケルも、そのことに気づき始めたようです。彼は、本国アメリカでは敏腕営業マンとして名をはせたのですが、日本においては彼の手法がどうも通用しないようです。


マイケル 「タカシ、今度 △△ 社の役員との面談があるんだけど … 一緒に来てくれないかな ? 」


最近、こういう依頼が増えました。もちろん言葉の問題もあるのでしょうが、彼としては、それ以前の問題として、現場での臨機応変さを私に期待しているのでしょう。


このことに気づいたマイケルは、まだマシな方です。ある同僚などは、「どうしてアメリカで通用した俺のやり方が通用しないんだ ! 日本企業の連中は、どこかおかしい。クレイジーだ ! 」とか言って、さっさとアメリカに帰っていった輩も多数います。


まさに、この部分が外資系企業のチャレンジとなります。標準化された仕組みをベースに、いかに現場で個性を出すか、日本人がその橋渡しをしないといけません。また、橋渡しだけでなく、外資の標準的なやり方を学んで、日本企業に取り入れていく必要もあります。この作業は、日本人にしかできない作業ではないでしょうかね。


私 「マイケル、案件承認の意思決定プロセスを見直してみたんだけど … ちょっとレビューしてくんないかな ? 」


マイケルと私のような関係をいかに構築できるか、強い外資というのは、そういう関係構築に成功した会社に他ならないのだと思います。

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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