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タカシの外資系物語

何もしないで成果を出すことが優秀 ? ( その 2 )2007.05.29

自ら手を動かしたか ?

前回のコラムでは、何もしないで成果を出すことが「優秀」とされたアングロサクソン的な考えが、もはや通用しなくなっていることをお話しました。古きよきアングロサクソンの世界では、「欧米  =  ベスト・プラクティス」という考えのもと、単に欧米の事例を横流しして紹介していれば済んでいました。このような時代には、事例を紹介したり、欧米で扱っている商品・サービスをそのまま売ったりすればいいだけですから、基本的には何もする必要がなかったのです。多くの外資系企業のプロパー社員 ( 欧米人 ) は、日本やアジアへの赴任の間、物見遊山とばかりに自分は何もせず、実際のオペレーションは現地の社員に任せきりというケースも多かったように思います。 


しかし、欧米が全てという時代はとっくに終わりました。日本に赴任している外資系の欧米人たちも、「よきにはからえ」的な仕事の仕方では、立ち行かなくなってきたのです。自国にいるときと同様、自ら手を動かして、クリエイティブに仕事を進めなければ、生き残れない時代がやってきたというわけです。 


外資系企業の経営陣も、このような状況変化には気付き始めており、それに伴って評価の視点も変わってきています。以前は、何もしないで成果を出すことも、自ら手を動かして成果を出すことも、「成果を出す」という意味では同じなので、同等の評価しか得られないか、むしろ、「何もしない方が楽なんだから、そっちの方がいいだろ ・・・ 」と考えられていました。しかし最近では、ほとんどのケースにおいて、何もしなければ成果は得られないことがわかっているので、「自ら手を動かしているかどうか」という視点を評価の重点項目に加えるようになってきたのです。 


例えば、前回のコラムでお話した提案書を例にとってみましょう。提案書のスライドは、全部で 30ページあり、うち 22 ページは私が自発的に書きました。残り 5 ページがヒロシ、 3 ページが Richard の担当となっています。この提案が売れた場合、以前の外資の評価なら、私・ヒロシ・ Richard は全く同じ 3 等分の評価を得ていたと思います。しかし最近は違います。このケースなら、大半の評価は私に与えられ、ヒロシと Richard は「ちょっと手伝ったね。ご苦労さん ! 」くらいの評価しか与えられません。ま、自ら手を動かして、汗水たらして働いた人をより評価するというのは、当たり前といえば当たり前ですがね。

最初にやったか ?

また、評価という観点では、「自ら手を動かしたか」ということ以上に、より重要視されるポイントがあります。それは、「最初にやったか」ということです。 


今回の提案書は 30 ページありますが、これら 30 ページの「下書き」をまず Thomas がやっていて、それを私とヒロシと Richard に割り振ったとしましょう。その場合、 30 ページのうちの何ページを担当しようが、私やヒロシや Richard はほとんど評価されません。重要なことは、「最初に書く」ということなのです。 


外資において、「最初にする」というのは、非常に重要です。

 

● 意見が出ずに会議が stuck した ( 行き詰った ) とき、自ら立ち上がって意見を言うこと

● だれが見ても厄介だと思われる役割を、率先して引き受けること ・・・ 


これらの行為について、外資は大きな評価を与えます。では、どのような点を評価しているのでしょう。一見すると、「最初にする」ということについての、「積極性」を評価しているように思えます。確かにそれもありますが、実はもっと重要なことがあります。それは、「基準を出している」ということです。 


沈滞した会議で意見を言うのは、だれでも気が引けます。「みんなに反対されたらどうしよう ・・・ 」「ピントがずれていたら嫌だな ・・・ 」 しかし、だれかが何らかの意見を言って、議論の「基準」を作らなければ、賛成も反対もできないのです。ピントのずれた意見を言って、他の参加者からボコボコに言われたとしても、その意見が「基準」となって議論の核ができたのですから、非常に有効なことをしたのです。 


提案書の場合でも同じで、苦労して書いた提案書のほとんどが書き直しになったとしても構わんのです。最初に「基準」となる提案書がなければ、書き直しの指示すらできないのですから。また、後からごちゃごちゃ言われることを気にしてはいけません。すでに「基準」がある段階で文句をつけるのは、非常に楽なこと ( おサルさんでもできる ! ) です。仕事の 8 割は、最初に作った「基準」で決まり、それを作った人が最大限の評価を受けると考えればいいのです。

「基準」を出すのは誰 ?

「自ら手を動かす」「最初にやる」 ・・・ 仕事をする上では当たり前のことのようですが、実はなかなかできることではありません。この 2 つは、日系・外資問わず、高い評価を得ている人に共通の項目だと思います。 


また、これらの行動は、ベンチャー・ビジネスにも通じるところがあります。ベンチャーでは、たとえ経営者であっても、自ら手を動かさねばなりません。成功のためには、他の企業に先んじて仕掛ける姿勢が必須です。 


つまり、ベンチャー経営者に要求されるスキルが、企業に所属するビジネスパーソンにも求められるようになってきたということです。「会社がなんとかしてくれるだろう ・・・ 」ではなく、常に自立心を持って職務にあたらなければなりません。会社が傾いたとしても、すぐにベンチャーとして独立できるくらいの気概が必要だということでしょう。 


さて、例の提案書はどうなったかというと ・・・ 


Richard 「タカシ、お前の書いた提案書見たよ。このページなんだけど ・・・ ちょっとイメージ違うんだよな ・・・ こっちのページもいまいちだし ・・・ 」 


私 「 ( 相変わらず、うるさいやつ … ) じゃ、Richard、お前に任せるから修正してよ」 


Richard 「え !? いや ・・・ これはタカシのスライドだから ・・・ 最終的にはタカシの判断でボスに提出すればいいと思うんだけど ・・・ あ、打ち合わせの時間だ、忘れてた ! 」 


私 「 ( 調子のいいやつ ・・・ ) ところで、 Richard の分はできたの ? 3 ページしかないけど ・・・ 」 


Richard 「ちょっと忙しくてね ・・・ 今日の夜までにはできると思うんだけど ・・・ 」 


私 「 ( なんじゃ、こいつ。 3 ページぐらい、さっさとやれよ ・・・ ) 何なら … 俺が代わりにやろうか ? 忙しそうだし ・・・ 」 


Richard 「え ! ホント ? 」 


… だ、ダメだこりゃ … お前、一応アメリカ本社から派遣されてるエリートなんだから、もうちょっとシャキッとしてくれよ、ったくぅ … 


私 「できたとこまででいいから、メールしといて。あとは、俺が引き継ぐよ ・・・ 」 


Richard 「サンキュ ! この穴埋めはきっとするからなー ! 」 


私 「 ( いいよ、期待してないし ・・・ ) どれどれ、 Richard の分が送られてきたぞ ・・・ あいつ、どこまで書いたのかな、っと ・・・ ん ? ・・・ んん ? ・・・ 3 枚とも、白紙 ・・・ だし ・・・ って、リチャ――――――――――――――――――ド ! なめとんかーーーーーーーーーっ ! ( T-T ) ( T-T ) ( T-T ) 」 


すでに、欧米が「基準」を出せない時代が到来しているようですよ、みなさん !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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