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タカシの外資系物語

あ~アメリカ、憧れのビジネス・スクール ( その 3 )2006.09.12

NSR って、何 ?

前回の続き )アメリカのビジネス・スクールでの研修も、残すところ 1 日だけとなりました。最後のトピックは「 Negotiation 」、交渉のやり方を学ぶというものです。


教授によると、Negotiation は準備がすべてだと言います。それもやみくもに準備するのではなくて、「 Negotiation Succeess Range (NSR) 」を意識して準備にあたることが重要とのこと。では、 NSR とは何か。例えば、ここに売り手と買い手がいるとしましょう。もちろん、売り手はより高く売りたいと思っているし、買い手は安く買えるにこしたことはないでしょう。しかし実際には両者とも、だいたいの「落としどころ」を持っていると考えます。


・ 売り手→理想的には 2,000 万で売りたい。 1,200 万以下ならコスト割れになるので売らない


売り手のRange = 1,200 万 ~ 2,000 万


・買い手→理想的には 1,000 万で買いたい。 1,800 万以上なら予算に合わないので買わない


買い手の Range = 1,000 万 ~ 1,800 万


上記のような場合、この交渉における NSR は「 1,200 万 ~  1,800 万」となります。つまり、この交渉の落としどころである NSR を、売り手・買い手ともに理解して交渉に臨めば、無駄な交渉をしなくても済むのだ ・・・ というのが、この講義の骨子です。


ま、実際の交渉はこれほど単純なわけではないのですが、この考え方にはそれなりの納得感があります。自分は 2,000 万で売りたいと思っていても、お客様の予算が 1,800 万しかないのですから、 1,800 万の範囲内で話を詰めた方がいいに決まっています。なのに、実際の交渉では、何とか 1,900 万にしよう、それがダメなら 1,850 万ならどうだろうと、無駄な努力をしています。普段の交渉において、お互いの「腹の探り合い」に、どれほどの時間を費やすことか。交渉の席についてすぐに、お互いの Range を公開できたら、どれほど楽に進められることでしょう。 今回受けた講義では、さりげなく相手の Range を探りながら、 NSR を導き出すコツを教えてくれます。


またこの講義では、どちらか一方が勝つということではなく、売り手・買い手とも最もメリットのある落としどころ、いわゆる「 Win-Win の関係」になることを目指します。上記の例でいえば、 NSR のちょうど真ん中、「 1,500 万」でまとまった場合を、最もうまくいった交渉と考えます。「売り手にすれば、より高く売れた方がいいに決まってるじゃねぇか ! 」 私もそう思います。しかし全体の利得を考えた場合、売り手・買い手ともにストレスのない交渉を続けていけば、ビジネスが途絶えることなく発展するので、長い目で見れば 1,800 万で売れるよりも、 1,500 万で売れるほうがいいのだ、と考えます。確かに、これはこれでわかるような気もします。

鉄の女、Susanne

講義の後は、実習です。われわれ参加者は、いくつかのチームに分かれて、実際の Negotiationを体験することになりました。チーム分けの結果、私のチームは以下の通りとなりました。


Sean ( オーストラリア )、Susanne ( イギリス )、Annie ( シンガポール )、Steven ( 香港 )、そしてTakashi ( 日本 ) ・・・


実は私、 Susanne と同じチームにだけはなりたくないと思っていました。なぜって ? だって、この人、超・コワいんですよ。イメージ的には、サッチャー元首相に似ていて、常に冷徹に判断して、冗談など通じない感じ。とっつきにくいったら、ありゃしない。


これは余談なのですが、以前仕事でロンドンにいたときに、こんなことがありました。かなり混雑した通りを歩いていたところ、私の肩があるご婦人の肩に当たったのです。


「 You must respect woman! ( 女性をいたわりなさいよ ! ) 」


いやいや、 respect してますよ。でも、これだけの人ごみなんだから、しょうがないじゃないですか ・・・ 何も、そんな言い方しなくても ・・・ ( T-T )


Susanne、このときのご婦人にそっくりです。私も、できるだけ先入観を持たないで接しようとしたのですが、似ているのですから仕方ありません。


実習のケースは、老舗のワイン会社 A 社が、インターネット通販の新興ワイン会社 B 社を買収するために交渉をするというものでした。チームはそれぞれ A 社と B 社に分かれ、お互いに公開されている情報と自分だけが知りうる情報を駆使して、買収交渉にあたります。私のチームは、買収する側の老舗ワイン会社 A 社でした。


私のチームでは、予想通り ( ? ) Susanne が中心となって、メンバーの役割を決めることになりました。


Susanne  「相手との交渉には、私と Sean があたるわ ! 」 「 Annie と Steven は、私たちのサポートをしてちょうだい」 「タカシ … あなたは日本人ね。数字の分析が得意そうだから、買収価格を計算してちょうだい」


… あ、あのなぁ、そんな勝手に決めるなよ。それも、かなりステレオタイプ的に決めてない ? 日本人だから数字の分析が得意だろうって、そりゃま、得意なんだけどさ。オレにも交渉やらせろよ …


ま、しかし、このチームで作業を進める場合、 Susanne の言う役割分担が最も合理的なのも事実です。私はブツブツ言いながら、エクセルに計数を打ち込んで、買収価格の計算を始めました。


私 「これでよしと。適正な買収価格は、 22 万ドル。 26 万ドルだとコスト割れで、買収の意味がなくなる。おそらく、この交渉の NSR は、 18 万ドル ~  26 万ドル ってとこじゃないかな ? 」

Susanne、ご乱心 ?

交渉が始まりました。と、冒頭で、 Susanne はいきなり次のように言いました。


Susanne 「今回の打ち合わせに先立って、当方にて適正な買収価格を計算したところ ・・・ 16 万ドルという結果が出ました。まずは、この 16 万ドルを軸に話を進めたいと思います。」


な、なんですとーーーーーーーーーーーーっ ! 適性価格は 22 万ドルやと言うとるやろーーーがーーーっ ! かつ、 NSR からはずれとるわーーー、講義聴いとったんかーーーーっ ・・・ ( T-T )


これには、他のメンバーも慌てたようで、すぐに Susanne を部屋の外に連れ出して、問いただしました。


Sean 「Susanne、どうしてあんなことを言ったんだい ? あれじゃ、話にならないじゃないか ! 」

Susanne 「交渉なんて、最初のハッタリ (bluff) が大事なのよ。 NSR なんて弱気なこと言ってちゃダメ、ダメ。私に任せときなさいよ ! 」


… なんちゅう、豪快な人なんや。もっと理性的なイメージやったのに、おーー、こわ ・・・


一方、交渉は和気あいあいと進みました。私も、自分で出した価格の妥当性を、エクセルを示しながら、相手チームに説明しました。もちろん、 Susanne のハッタリ価格では説明がつかないので、私はあくまでも NSR をベースに話しましたが … 

実習終了後、廊下を歩いていた私に、声をかける人がいます。 Susanne でした。


Susanne 「 Takashi, You’ve done good job! Thanks!」


私 「You too.Thank you!」


鉄の女、Susanne。第一印象とは違って、ユーモアと気配りの利く、付き合いやすい女性でした。外国人と付き合う際、最も重要なことは先入観を持たないことです。私の場合、良くない先入観は、大抵の場合、誤解であるケースが多いと思います。つまり、思った以上にいい人の方が多いということです。


研修の最後に、参加者全員で撮った写真付の卒業証書をもらいました。その真ん中には、みんなを従えて、どっしりと足を組んで座っている Susanne の姿がありました。さて、明日からまた現実のビジネスに戻らねばなりません。でも今回のように、たまには仕事を離れて、じっくりと勉強したり、人脈を広げたりするのもいいと思います。ああ憧れのビジネス・スクール、是非また来たいですね !

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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