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タカシの外資系物語

あ~アメリカ、憧れのビジネス・スクール ( その 2 )2006.09.05

Value Proposition とは ?

(前回の続き)今回の研修におけるプレゼン、テーマは、「 Value Proposition in your client case 」というものでした。この「 Value Propostion 」という言葉、最近わが社でもよく使われています。辞書を引くと「価値命題」と出ているのですが、要は「お客様の価値に注目して、提案書を書くこと」を言っています。

 


「お客様の価値に注目して提案書を書くなんざぁ、当たり前のことやんけ。そんなことを練習するために、わざわざアメリカのビジネス・スクールまで行って研修を受けとるのか ! 」 ま、そう言われりゃ身もフタもないんですけど ・・・ でもね、本当にお客様の身になって提案書を書くのって、すごく難しいことなんですよ。


例えば、私があるソフトウェアの営業をしているとしましょう。私の仕事はそのソフトを売ることですから、「わが社のソフトはすごくいいですよ、今なら安くしておきますよ ! 」という提案ができます。しかしこの提案では、私が単にソフトを売りたいだけの話であって、お客様の立場に立って考えているわけではありません。そのソフトを気に入るかどうかはお客様次第であって、売れるかどうかも運次第。いわゆる「ソリューション営業」を求められるセールスとしては失格です。


「ソリューション営業」とは、お客様の戦略や悩みを十分に理解し、それを解決する策 ( ソリューション ) を提案することです。「わが社はこれを売りたいから売る」ではなくて、「お客様はこの部分で困っているから、それを解決する手段を売る」という考え方をしなければなりません。


こういう話をすると、多くの営業マン諸兄は、「そんなこと、当たり前のことだ ! 」とおっしゃることでしょう。私だって、そう思います。しかし、実際には、日常の営業活動において、本当にお客様にとって価値のあるソリューションを提案できていいるかと言われると、甚だ疑問です。「お客様の戦略 ? 十分理解しておりますとも。 お客様のお悩み ? わかっているに決まってるじゃないですか ! 私ほどお客さまのことを理解している人間は、世の中にいないんですから ・・・ さてと、ところでわが社の○○ソフトなんですが、この機能でこの価格 ! 買わないと損ですよ ! どうすか ? 」 なーーんて感じの営業をしているケース、結構あるんじゃないですかね。


ビジネス・スクールにおける「 Value Proposition 」の講義では、そういう自分勝手な営業スタイルを改め、お客様主義の考え方を徹底的に教え込まれます。もちろん、精神論でなく、 Value ( 価値 ) をも測るための具体的なツールを使って、いかにお客様の経営層に訴えかけることができるか、財務計数の分析の仕方や提案書の構成、プレゼン時の話し方までを対象としているのです。

タカシ、ヤル気まんまん !

「 My case is very interesting! Please take up my case, OK? 」 ( 私の事例が面白いからさ、これをプレゼンしていいよね ? )


私は、グループで取り上げるケース ( 事例 ) として、自分の案件を取り上げてくれるように、グループのメンバーにお願いしました。え ? やけにヤル気見せてるじゃないか、って ? そりゃ、ヤル気出しますよ、わざわざアメリカまで来たんですから。自分の案件を例にしてもらうことで、いろいろと参考にしたいですからね。


それに加えて、前回 ( 約 1 月前 ) 中国で受けた第一回目の研修での教訓を活かそうという意味もあります。 (『「おめでとう ! 」 研修参加が決定 - 待っているものは … ? ( その 3 )』参照 )何事も消極的ではいかん、もっと積極的にならなくては、外資で生き残ることなどできん ・・・ と悟ったわけですな ( タカシ、えらい ! )。


メンバーも私の熱意 ( ? ) に押されたのか、私のケースをプレゼンすることで納得してくれました。実は私、今回の研修では自分のケースをプレゼンすることを前提に、数週間前から準備を進めていました。なので、かなり自信満々で、プレゼンに臨んだわけです。

What is Value ?

「OK, next presentation is … Takashi’s case!」 「Yes!」 私は誇らしげに壇上に立って、プレゼンを始めました。「やっぱり、プレゼンは事前準備が重要だね。どうよ、この練りに練られた、 Value Proposition を ! 」


10 分の持ち時間のほとんどを使って、私は思い描いていた通りのプレゼンをすることができました。ま、英語の方は相変わらず、お世辞にも流暢とは言えないのですが、自信を持って話すと、いつもより話が通じているような気がします。


「Do you have any questions?」 ( ま、どうせ質問などないだろうさ ・・・ )


私は聴衆を見渡して、質問がないことを確認し、自分の席に帰ろうとしました。と、教授がこんなことを言ったのです。


教授 「I have one question, Takashi. What is value?」


私 「へ ? 」


Value って何?って、だから今説明したじゃん。この提案の価値は、「商品開発力の向上」と「コスト削減」だって ・・・ 日本で開発したソフトを採用してもらえれば、この 2 つが実現するんだって ・・・


私 「商品開発力の向上とコスト削減 ・・・ って、言ったつもりなんすけど ・・・ 」


教授 「じゃ、例えば、どのくらいコストが削減できるんだね ? 」


私 「( そんなもん、やってみなけりゃわからんだろーが ・・・ ) だいたい、数億円って感じかな ? 」


教授 「だいたい ? 」


私 「正確に算出してないんで、わからんのですよ」


教授 「あ、そう。じゃ、商品開発力って、どのくらい向上するの ? 」


私 「( これも、やってみないとわからんわーーー ) そうすね ・・・ ざっと見積もって、開発期間が半分ぐらいにはなるんじゃないっすかね」


教授 「半分ぐらい ? 半分ぐらい、ってのは、 50% アップなのか、 55% アップなのか ? 」


私 「( んなもん、どっちでもええやろがーー ) これも、正確に算出してないんで、わかりません ・・・ 」


教授 「タカシ、君のプレゼンは Value Proposition じゃなくて、単なる推測話に過ぎないじゃないか。君の提案を受け入れれば、どれだけコストが削減できるのか、どのくらい商品開発力が向上するのか、具体的かつ確かな数値を提示しなければ、クライアントは意思決定ができないだろ ! やり直し ! 」


がーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん ! そ、そんなぁ ・・・ あれだけ気合入れてまとめたのにぃ ・・・ ( T-T )


私は少し、 MBA の授業をナメていたのかもしれません。どうせケーススタディなんだから、数字なんて大雑把でいいんだろう、と思っていました。しかし、教授の指摘は違いました。「 Value というのは具体的な数値の裏付けがあって、初めて説得力が出る。具体的な数値を提示しないセールスマンに、モノを売ることなんてできやしない ・・・ 」


確かにその通りです。実際の営業活動においても、私はこれまで、曖昧な数値を提示するだけで、何となくごまかしていたような気がします。価格が 3 億円の提案をするのに、「やってみないとわかりませんが、 5 億円ぐらいはコストが減るかもしれません」と言って、お客様に提案をしていました。しかし、これではお客様は意思決定できません。確実に、いくら減るのか ? 100% 保証できなくても、何をすれば、どのくらいの確率で、いくら減るのか ? そういう具体性こそが、「 Value 」 なのです。


MBA の講義を受けてみてわかったのですが、そこで教えられているのは、それほど華やかでカッコいいものではありません。 MBA が目指しているのは、「やってみないとわからない」といった不確実性や、「 5 億円ぐらい減るかもしれない」といった曖昧さを排除するための方法・手法を教えることにあるように思います。そこには、日本の高等教育にはない厳しさがあり、だからこそ、 MBA ホルダーの多くが、自らリスクを取って起業する道を選ぶのかもしれません。またしてもプレゼンには失敗してしまいましたが、そのことを知っただけでも、いい経験になりました。教授、サンキュ ! ん ? 確か、「やり直し ! 」って言われたような ・・・ それって、徹夜してやれってこと ? トホホ ・・・ 今夜も眠れないようです ・・・ (T-T)

 

( 次回続く )

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この記事の筆者

奈良タカシ

1968年7月 奈良県生まれ。

大学卒業後、某大手銀行に入行したものの、「愛想が悪く、顔がこわい」という理由から、お客様と接する仕事に就かせてもらえず、銀行システム部門のエンジニアとして社会人生活スタート。その後、マーケット部門に異動。金利デリバティブのトレーダーとして、外資系銀行への出向も経験。銀行の海外撤退に伴い退職し、外資系コンサルティング会社に入社。10年前に同業のライバル企業に転職し、現在に至る ( 外資系2社目 )。肩書きは、パートナー(役員クラス)。 昨年、うつ病にて半年の休職に至るも、奇跡の復活を遂げる。

みなさん、こんにちは ! 奈良タカシです。あさ出版より『外資流 ! 「タカシの外資系物語」』という本が出版されています。
出版のお話をいただいた当初は、ダイジョブのコラムを編集して掲載すればいいんだろう ・・・ などと安易に考えていたのですが、編集のご担当がそりゃもう厳しい方でして、「半分以上は書き下ろしじゃ ! 」なんて条件が出されたものですから、ヒィヒィ泣きながら(T-T)執筆していました。
結果的には、半分が書き下ろし、すでにコラムとして発表している残りの分についても、発表後にいただいた意見や質問を踏まえ、大幅に加筆・修正しています。 ま、そんな苦労 ( ? ) の甲斐あって、外資系企業に対する自分の考え方を体系化できたと満足しています。

書店にてお手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
奈良タカシ

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